常翔学園FLOW88号
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響することが予想されることから、単に男性の育児休業取得率を向上させるといった数値目標に留まらず、夫婦で共に子育てに取り組む時間と経験の共有という質的な側面への支援が求められると思います。我が国に長らく根づいてきた男女の役割分業意識による「母親が育児」という価値観は、思いのほか共働き夫婦の育児においても根を張っている様子がうかがえ、コ・ペアレンティングという考え方が浸透していないことが分かります。マターナル・ゲートキーピングという問題 さて、そんな育メンを増やすためには多くの壁が立ちはだかります。第一は職場の壁です。長時間労働▽育休制度が不十分(育休中の経済的な保障も含む)▽給与の低さ▽上司の無理解▽育休取得者への人事差別▽ワーク・ライフ・バランスへの取り組みの低さ、などです。育休を取得できる環境整備の不十分さが目立ちます。第二の壁は日本社会全体の価値観です。男性本人だけでなく女性の意識の問題もあるといえるでしょう。育休を取得しなかった男性が「フレックスタイム制などで対応できたので育休を取らなくても済んだ」と話していることがありますが、育休を取らないでできた育児とは育児と言えるのでしょうか。育児への参画意識が低い男性がまだ多数なのです。更に見落としがちなのが女性の側の固定観念です。私自身にも言えますが、「母親が育児を自分のアイデンティティーとして、父親に明け渡すことに抵抗を感じgateを高くkeepしてしまう」を意味する「マターナル・ゲートキーピング」(母親が育児の門番)という問題です。母親も父親が育児に参画する意義や効果を理解することが大切です。知って、イメージし、信じる 2012年に「ひろしま未来の育MENプロジェクト」を学生たちと立ち上げました。 2009年の育児・介護休業法の改正以降、男性が育児休業を取得することは法制度上容易になったものの、依然として育児休業取得率が伸び悩んでいます。乳幼児がいる男性の育児参加を推進するアプローチが重要なことはもちろんでしたが、それ以上に、将来、父親・母親になる可能性をもった青年期、特に大学生の男女に、男女が共に仕事・家事・子育てをすることが当然であるという価値観を醸成することが極めて重要であると考えて始めました。日本は専業主婦がいることを前提とした男性の働き方や社会構造から未だに脱することができておらず、社会に出てからでは、周囲の価値観に影響されてしまうので、その前に新しい価値観を形成することが有効で重要だと考えました。「子育てパパを知ろう」「子育てする僕らをイメージしよう」「女子も男子の力を信じよう」の3つの柱を掲げて、行政や民間団体と協力し大学生対象のさまざまな講座を企画・運営し、育児休業を取得した育メンの家庭を取材したパネル展を実施するなど、学生たちはその活動を通じて、子育てに参画する意義や価値を見出してくれたように実感しています。特に育メンたちの行動が妻の身体的・精神的負担を軽減し、心強い存在となり、夫婦で育児の大変さと楽しさを分かち合う姿は、学生に変化をもたらしました。子どもの健やかな成長発達のために 昔は欧米でも「家事・育児は女性」という価値観が支配的でした。それが変わったのは、国が家事・育児を対価が発生する労働と認め、補助金などのお金を出すようになったことが大きかったと思います。国や制度の役割が古い価値観を変えるためには重要です。そこで育休の取得率を上げるための法制化も必要と言わざるを得ないです。強制力がなければ、コ・ペアレンティングが浸透することはなかなか難しいのかもしれません。内閣府の資料では、6歳未満の子どもを持つ夫婦の子育てや家事に費やす時間は、妻が1日当たり7時間34分であるのに対して、夫は1時間23分で、先進国中最低の水準です=図。 母性・父性という生物学的な根拠もないわけではないのですが、これだけ社会が発達し、労働力の確保が必要とされている以上、性差を超えて夫婦で育児を協働していくことの意義をできるだけ若い時期に認識する機会(学習)が重要になると考えています。時代は共働きが主流となりました。1人親家庭やLGBTQの家族など多様な家族が存在しています。男か女かということではなく、子どもにとって身体的にも、(愛着形成・人格形成など)精神的にも基盤づくりの時期である乳幼児期は、その時しかない、ということを正しく認識し、日本の未来を創っていってくれる子どもたちの健やかな成長発達の観点から、子育てという営みを大切にしていく必要があると思います。親が安心して親になっていける、そして子育てに注力できる環境を社会全体で創造していくことが求められています。育MENプロジェクトで開催した「育MEN写真館」= 2012年8月06June, 2020 | No.88 | FLOW■ 子育て中の共働き夫婦が「最も困っていること」 ~夫と妻それぞれの回答~妻夫子どもの病気で仕事を休む調整が困難仕事が多忙で子どもと過ごす時間が少ない仕事と家事・育児の両立子育ての負担が妻に偏り、協力できていない時間に余裕がない給料・休暇が少ない夫の理解や協力のなさ、無関心自由に使える時間がない経済面妻のイライラや子どもの前でのケンカ職場・地域の育児への理解やサポートの低さ子育てと仕事で肉体的・精神的に疲弊小遣いの少なさと性生活梅田弘子:A市における共働き夫婦の育児の協働についての実態調査結果(2015) 2019年に結婚。(プロジェクトで育児について)大学の時に学べたのが大きい。就職すると時間がないから深く考えることができない。…(結婚後)相手に、「なんで分かってくれないの」と思うことがない。それは実際に、子育てをしている人たちの気持ちを取材を通して聞いていたことで、こういうことなのかなとイメージできたからだと思う。特にプロジェクトの3つの柱の1つである「女子も男子の力を信じよう」というキャッチコピーの言葉が自分自身に与えた影響は一番大きかったと思う。この言葉があったから、相手を信じて相談できる。自分だけのキッチンにしなかった。私はキッチンの配置を夫に任せた。「このプロジェクトは、じわじわボディーブローのように効いてくるもの。即効性や特効薬はないけれど、とても大事」と先生が言っていたのは本当だと思う。卒業生の声「育MENプロジェクト」元リーダー 杉山(旧姓・井手上)千春さん=2016年3月看護学科卒■ 先進国で6歳未満の子どもを持つ夫婦の家事・育児時間の比較(1日当たり)7.343.455.402.180.000.001.002.003.004.00(時間)日本アメリカイギリスフランスドイツスウェーデンノルウェー1.002.003.004.005.00(妻)(夫)6.007.008.006.092.225.491.576.112.185.292.105.262.171.230.493.101.202.461.002.300.403.000.593.211.073.121.13家事・育児関連時間うち育児の時間*内閣府のホームページから

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