常翔学園 FLOW No.87
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です。電気自動車はエンジン音がなく、発進時にはタイヤの音も風切り音もほとんどないので、極めて静かです。ただし、電気自動車で騒音問題がゼロになるわけではありません。時速が30~40㌔を超え始めるとガソリン車との音の差はなくなっていきます。高速道路の騒音はタイヤによるロードノイズや風切り音なので、電気自動車でも変わらないのです。新幹線の500系が先端部分を鳥のカワセミのくちばしに似せた形にして空気抵抗を抑えてトンネル出口の騒音を解消した例がありますが、これも原因は風切り音でした。日本人とヨーロッパ人で違う感覚 その感じ方が国によって違うことも騒音の不思議なところです。日本人は低周波の低くこもった音を嫌う傾向がありますが、ヨーロッパ人は高周波の高い音を嫌う傾向があります。その理由は、昔から日本人が暮らしてきた木造建築は遮音が良くないために、外部の高周波が入ってきやすいのに対し、ヨーロッパ人は石造りやレンガ造りの建築で遮断されるため高周波に慣れていない、とも推測されています。これは自動車にも反映されていて、ヨーロッパ車は窓ガラスの厚さが日本車の倍近くあります。高速走行時に高周波の風の音を遮断するためです。騒音問題はこのように歴史や文化もかかわってきます。騒音改善に必要な3つの技術 私の研究室では自動車だけでなく家電製品などの騒音改善に取り組んでいます。そのためには大きく、①騒音の評価技術 ②騒音発生のメカニズムの分析・診断技術 ③騒音を低減する対策技術、の3つ技術が必要です。 1番目の音の評価技術で難しいのは、人の感覚の複雑さにあります。音の大きさを表すデシベルは、人の感じ方に近い指標とされていますが、音の高さ(周波数)の違いが大きく影響します。音のエネルギーが同じでも2㌔ヘルツあたりの音は聴こえやすく、20ヘルツの超低音や逆に20㌔ヘルツの超高音はほとんど聴こえません。聴覚特性と呼ばれます。そこで、騒音を抑えるためには人が聴いている音で実際にうるさく感じている周波数がどこかを評価・分析する必要があります。そのための手段として、人の頭の人形の耳にマイクを埋め込んだ機器を使い、人の鼓膜に到達するのと近い音を収録します。そのうえでどの周波数帯の音を下げればいいかを判断します。また、同じ大きさでも低周波と高周波のバランスで不快や静粛さなどの感じ方が変わります。そのためには防音室を使って人に音を聴いてもらい、聞き取りする主観評価実験をします。最終的には統計分析などを行い、音の物理的特性と人の感覚特性をつなげてモデル化します。それによってどの周波数帯を抑えればいいかなど製品の効率の良い音質改善の提案ができます。 2番目の分析・診断技術は、「対象周波数帯の音あるいは振動がどのようなメカニズムや経路で伝搬しているのか」ということを把握し、騒音の原因を突き止める技術です。色々な音源の中でどれが一番影響しているのかを探ります。自動車ならエンジンや排気口などにセンサーやマイクを設置し計測。統計的処理でどの部分の振動伝達を抑えればコストを抑えて騒音を効率よく改善できるか診断する技術を開発してきました。いずれはソフトウエアにして、広くメーカーに使ってもらえるようにしたいです。 騒音原因の周波数や音源が判明し、そのメカニズムが分かれば、3番目の低減対策技術の出番です。シミュレーション技術を用いてどんなハードウエアの改善が必要かを提案します。部品の追加や構造の変更などです。研究室が取り組んだ例では、脱水時の洗濯機の振動を半減させたことがあります。揺れている部位と同じ周波数で揺れるおもりとバネを付け、共振させることで洗濯機自体の揺れを抑えたのです。「音を作る」研究も ロボット掃除機や洗濯機、冷蔵庫などの家電製品でも研究を進めていますが、製品の本来の性能と騒音対策は相反することがほとんどです。音のことだけを考えるなら、自動車は走らせなければいいし、洗濯機も動かさなければいいということになります。本来の性能を維持したうえで騒音や振動を抑えるのは、ある面で妥協点を探す難問です。深刻な場合は、本来の性能を下げても騒音を抑える必要もあります。製品開発では騒音対策担当者は嫌われ役です。 今後新たに取り組もうとしているのは、1つが電気自動車の運転者に人工的に音や振動を与える技術です。電気自動車はエンジン音がないことで直感的なスピード判断ができず、運転者がスピードを出し過ぎる問題があります。音が情報でもあるのです。ドライビング・シミュレーターでどんな音・振動環境がいいのかを研究しています。もう1つはドローンを使ったビルや橋などの設備診断技術です。ドローンから玉などを発射してその音を拾って壁面などの劣化を診断できないか考えています。どちらもこれまでの「音を消す」技術を「音を作る」技術に生かそうというものです。ドライビング・シミュレーターを使った音・振動環境研究で学生を指導10February, 2020 | No.87 | FLOW騒音改善に必要な3つの技術ABCE/TPAab(dB)(Hz)DPart ATransfer functionContribution APart BTransfer functionContribution BPart DPart CRadiatedsoundABCAmp.HzTransfer functionContribution CTransfer functionContribution DOriginalModified(Hz)Frf(db)18February, 2020 | No.87 | FLOW日本語の勉強はいつから始めたのですか? 留学先に、摂南大を選んだ理由も教えてください。 ホーチミンの高校を卒業して、ベトナムにある日本語学校で半年間学びました。ビザが取れて大阪に来てからも日本語学校で2年間学び、大学受験準備の専門学校に1年間通いました。専門学校に通っている時に、先生が摂南大を勧めてくれました。自分でもインターネットで調べていくうちに学生フォーミュラプロジェクトを見つけ、学科の勉強以外でも自動車について学ぶことができると思い受験を決めました。もちろん3年になったら学生フォーミュラのチームに入って自動車の構造や性能などを学びたいです。来日して日本の印象は変わりましたか? ベトナムでもテレビ放映されていた『ドラえもん』などのアニメを見たり、『ONE PIECE』など漫画を読んだりして育ったので、日本にはもともと親しみがありました。それでも来日して改めて電車の列に並ぶ日本人の規律の良さに驚きましたし、日本の四季の美しさに感動しました。特に春の桜と秋の紅葉が大好きです。京都や奈良などの古都を訪れるのも楽しみにしています。今年は父と妹が日本に来るので、早く自動車の運転免許を取ってそうした観光スポットを案内したいです。ベトナムと比べてオートバイが少ないところも来日して驚いた点の1つです。摂南大での学びに苦労はありますか? 機械工学科で授業を受けていると、機械類の専門用語が難しいと感じる時がありますが、学科の友人が言葉の意味などを教えてくれるのでとても助かります。一方で、数学の問題の解き方などは私がクラスメートに教えることもあり、お互いに協力して授業を受けています。私の好きな日本語「持ちつ持たれつ」のような感じですね。大学の授業以外ではどんなことをしていますか? 大阪の道頓堀にある中華料理の全国チェーン店でアルバイトをしています。日本に来てから自炊を始めたのですが、今ではお店のほぼすべての料理を作ることができるようになりました。また、店の看板メニューの餃子作りのチェーン店コンテストで全国2位になったこともあります。お店ではキッチンだけでなくホールも担当して接客などもします。お店で摂南大の卒業生のお客さんに出会った縁で、今年は大企業のインターンシップに参加することもできそうです。 また、子供のころから好きなサッカーも続けていて、今は留学生仲間のチームに入って週1回練習や試合をしています。 これからの夢を教えてください。 車の免許を取ったら、自分で運転してみて、乗る側、作る側両方の立場で自動車を研究したいです。もともとは米国映画に出てくる速くてかっこいい自動車を見て興味を持ったのですが、来日して関心の方向が変わりました。現在ベトナムは経済成長が著しいですが、反面、都市部では大気汚染などの環境問題が深刻です。日本に来て愛知県のトヨタの施設を見学し、環境に優しい車の研究が進んでいることに感心しました。今ではベトナムの環境を良くするため、電気や水素で走る環境に優しい自動車をベトナムで造って広めることが私の夢になりました。摂南大に入学する前に、10年後のベトナムを見据えて将来の計画を立てました。大学で4年、大学院で2年学んだ後、4年間日本の企業で実務経験を積んでベトナムに帰りたいと思っています。10年後のベトナムで起きている問題を解決できるように、帰国後は母国に貢献する「日本とベトナムの架け橋」になりたいです。日越共同で事業が進むホーチミン市の地下鉄工事オートバイの保有世帯数が90%を超え、朝夕のラッシュ時には大渋滞ランタンの美しい古都・ホイアン牛肉ののったフォー左から父、グエンさん、妹、兄、母「東洋のパリ」と呼ばれるホーチミン市内にある美しいコロニアル建築のホテル将来の夢を語るグエンさん

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