常翔学園 FLOW No.87
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 昨年日本で開催されたラグビーW杯(ワールドカップ)2019は、世界から40万人もの外国人が来日。全国12都市で試合が行われ、チケットの販売も99.3%と大成功に終わりました。成功の大きな要因の1つが日本の行き届いた「おもてなし」にあったと言われています。出場選手や外国人ファンを感激させ、「過去最高の大会運営」との評価も受けました。今年の東京五輪・パラリンピックに向けて絶好の「おもてなし」の予行演習ともなったのですが、五輪では来日外国人数はラグビーW杯の何倍にもなり、日本のおもてなしがどこまで機能するか未知数です。観光学や組織行動論を専門とする摂南大経済学科の野村佳子教授に、ラグビーW杯成功の分析とそこから引き出せる五輪に向けた課題などを聞きました。感激させた「国歌プロジェクト」─学問的には「おもてなし(ホスピタリティ)」の定義はあるのですか?野村 おもてなしはホスピタリティと言い換えられますが、学術的な研究があまり進んでいない分野で定義も明確ではありません。主観的な「心の問題」とみなされることが多く、客観的な研究には不向きなのかもしれません。ホスピタリティはサービスとよく対比され、上下関係のあるサービスに対し、ホスピタリティは対等などと言われますが、サービスの提供でホスピタリティが実現することもあり、違いはあやふやです。私は顧客目線でサービスを提供し、満足を与えることがホスピタリティではと考えています。─ラグビーW杯の盛り上がりに寄与した「おもてなし」ですが、 どの点が最も海外の人にアピールしたのでしょうか?野村 ホスピタリティの語源であるラテン語の「ホスペス」は「客人の保護者」という意味です。日本は島国ですから海を越えてわざわざ来てくれた客人への敬意の気持ちがもともとあり、今回はその気持ちを具体的な形にしたことで外国人に通じたのだと思います。試合で出場各国の国歌を多くの日本人が歌ったプロジェクトが典型です。試合の前にも北九州市ではウェールズの練習に多くの市民が詰めかけてウェールズ国歌を合唱し選手らを感激させました。また、千葉県柏市ではニュージーランドのチーム(オールブラックス)を歓迎するために子供たちがハカ(ニュージーランドのマオリ族の民族舞踊)を踊り話題になるなど、インバウンド(訪日外国人旅行者)=*=増加の恩恵がまだ小さい地方都市が、地方の良さをアピールする機会ともとらえて頑張ったことが大きかったと思います。─五輪やW杯のような大規模スポーツイベントに特有の来日外国人 対策を教えてください。野村 スポーツの応援は競技会場全体の一体感が生まれる素晴らしさがありますが、同時に群集心理に陥りやすく、興奮から観客の暴野村 佳子 教授摂南大学 経済学部経済学科「おもてなし」を形にしたW杯五輪でも日本の評価を左右するボランティアの役割のむら・よしこ ■1982年関西学院大学文学部英文科卒。同年日本航空入社。大阪支店、パリ支店などを経て、1997年JALホテルズに出向し、ESSEX HOUSE(ホテル・ニッコー・ニューヨーク)ゲストリレーションズマネージャー、ホテル日航東京マーケティング部課長など歴任。2010年摂南大学経済学部経済学科准教授。2015年北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院観光創造専攻博士後期課程単位取得退学。2018年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。2019年から現職。日本観光研究学会、日本労務学会などに所属。博士(経営学)。大阪府出身。*【インバウンド】=訪日外国人旅行者。2013年に初めて1000万人を超えて、2015年にアウトバウンド(日本人海外旅行者)と逆転。政府の目標値は2020年4000万人、2030年6000万人。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。13FLOW | No.87 | February, 20201,7821,6221,6521,3301,6831,7401,7531,7291,5991,5451,6641,6991,8491,7471,6901,6211,7121,7891,8954764775245216146737338358356798616228361,0361,3411,9742,4042,8693,11905001,0001,5002,0002,5003,0003,5002000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018日本のインバウンド数とアウトバウンド数の推移データ出典:JNTO 昨年日本で開催されたラグビーW杯(ワールドカップ)2019は、世界から40万人もの外国人が来日。全国12都市で試合が行われ、チケットの販売も99.3%と大成功に終わりました。成功の大きな要因の1つが日本の行き届いた「おもてなし」にあったと言われています。出場選手や外国人ファンを感激させ、「過去最高の大会運営」との評価も受けました。今年の東京五輪・パラリンピックに向けて絶好の「おもてなし」の予行演習ともなったのですが、五輪では来日外国人数はラグビーW杯の何倍にもなり、日本のおもてなしがどこまで機能するか未知数です。観光学や組織行動論を専門とする摂南大経済学科の野村佳子教授に、ラグビーW杯成功の分析とそこから引き出せる五輪に向けた課題などを聞きました。感激させた「国歌プロジェクト」─学問的には「おもてなし(ホスピタリティ)」の定義はあるのですか?野村 おもてなしはホスピタリティと言い換えられますが、学術的な研究があまり進んでいない分野で定義も明確ではありません。主観的な「心の問題」とみなされることが多く、客観的な研究には不向きなのかもしれません。ホスピタリティはサービスとよく対比され、上下関係のあるサービスに対し、ホスピタリティは対等などと言われますが、サービスの提供でホスピタリティが実現することもあり、違いはあやふやです。私は顧客目線でサービスを提供し、満足を与えることがホスピタリティではと考えています。─ラグビーW杯の盛り上がりに寄与した「おもてなし」ですが、 どの点が最も海外の人にアピールしたのでしょうか?野村 ホスピタリティの語源であるラテン語の「ホスペス」は「客人の保護者」という意味です。日本は島国ですから海を越えてわざわざ来てくれた客人への敬意の気持ちがもともとあり、今回はその気持ちを具体的な形にしたことで外国人に通じたのだと思います。試合で出場各国の国歌を多くの日本人が歌ったプロジェクトが典型です。試合の前にも北九州市ではウェールズの練習に多くの市民が詰めかけてウェールズ国歌を合唱し選手らを感激させました。また、千葉県柏市ではニュージーランドのチーム(オールブラックス)を歓迎するために子供たちがハカ(ニュージーランドのマオリ族の民族舞踊)を踊り話題になるなど、インバウンド(訪日外国人旅行者)=*=増加の恩恵がまだ小さい地方都市が、地方の良さをアピールする機会ともとらえて頑張ったことが大きかったと思います。─五輪やW杯のような大規模スポーツイベントに特有の来日外国人 対策を教えてください。野村 スポーツの応援は競技会場全体の一体感が生まれる素晴らしさがありますが、同時に群集心理に陥りやすく、興奮から観客の暴野村 佳子 教授摂南大学 経済学部経済学科「おもてなし」を形にしたW杯五輪でも日本の評価を左右するボランティアの役割のむら・よしこ ■1982年関西学院大学文学部英文科卒。同年日本航空入社。大阪支店、パリ支店などを経て、1997年JALホテルズに出向し、ESSEX HOUSE(ホテル・ニッコー・ニューヨーク)ゲストリレーションズマネージャー、ホテル日航東京マーケティング部課長など歴任。2010年摂南大学経済学部経済学科准教授。2015年北海道大学大学院国際広報メディア・観光学院観光創造専攻博士後期課程単位取得退学。2018年神戸大学大学院経営学研究科博士課程後期課程修了。2019年から現職。日本観光研究学会、日本労務学会などに所属。博士(経営学)。大阪府出身。*【インバウンド】=訪日外国人旅行者。2013年に初めて1000万人を超えて、2015年にアウトバウンド(日本人海外旅行者)と逆転。政府の目標値は2020年4000万人、2030年6000万人。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。13FLOW | No.87 | February, 20201,7821,6221,6521,3301,6831,7401,7531,7291,5991,5451,6641,6991,8491,7471,6901,6211,7121,7891,8954764775245216146737338358356798616228361,0361,3411,9742,4042,8693,11905001,0001,5002,0002,5003,0003,5002000200120022003200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018日本のインバウンド数とアウトバウンド数の推移データ出典:JNTO

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