常翔学園 FLOW No.87
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12February, 2020 | No.87 | FLOW広島国際大学 保健医療学部 医療技術学科中山 寛尚 講師 神経細胞の成長のガイド役として知られてきたタンパク質の軸索誘導因子が、近年がん細胞の増殖や転移にも関与していることが分かってきました。中山講師はその中でもがんを増加させるネトリンとがんを抑制するセマフォリンという分子に着目。科研費に採択された研究は、小児に発症する悪性脳腫瘍である髄芽腫でのネトリンの機能を解明し、その阻害剤を探し出して新たな治療法の開発につなげようというものです。 名古屋大の卒業研究は覚せい剤の人体への影響がテーマでしたが、指導してくれた恩師によって「解決できないことを解決する」という研究の面白さに目を開かされ、研究者の道を志しました。がん研究を始めたのは愛媛大研究員の時代で、その後に日本学術振興会海外特別研究員として米国ハーバード大医学部小児病院に留学。「ハーバードの研究室には最新の機器があったわけではありませんが、アイデアを尊重し、議論が活発でオープンな環境がとても刺激的でした」と振り返ります。研究室の脳外科医と一緒に仕事をする中で、小児がんの髄芽腫が研究テーマになりました。 中山講師はこれまでの研究で、ネトリンが髄芽腫細胞の浸潤を進めることや、髄芽腫の存在を示すバイオマーカーとして有用であることなどを解明してきました。現在の研究ではそれを更に進めて、ネトリンが髄芽腫形成やがん幹細胞維持そのものにかかわっているのではということを明らかにし、治療標的にしようというものです。ネトリンとそのレセプター(受容体)がくっつくことを止めたり、くっつくことで発するシグナルを止めたりする阻害剤を見つけられれば新たな治療法につながるのです。そのためにはある化合物が阻害剤たりうるかどうか、髄芽腫細胞との正確な反応を見るスクリーニングのシステム作りが重要です。ネトリンとレセプターがくっつく際に発光する仕組みなど、臨床検査や分子生物学の技術を活用して最良の方法を模索しています。 軸索誘導因子の研究をするライバルは国内外問わず多くいますが、「がん研究についてはリードしている」と自負する中山講師。髄芽腫に苦しむ子供たちを救う挑戦が続きます。「軸索誘導因子」を標的に小児がんの新治療法を探究ロボットの手足の動きに限界を感じていた田熊准教授は、動物のような自由な動きには手足をつなぐ体幹の構造が大きくかかわっているのではと着目しました。「ロボット開発では手足にばかり重点が置かれてきましたが、体幹部分を動物に模して柔軟構造にすると手足の動きももっと柔軟になるのでは、と仮説を立てています」と話します。 ソフトロボットは近年やっと注目され始めた分野です。「柔らかいというのは揺れるということを意味し、制御の観点からは“ご法度”でした。だからこれまでのロボットのほとんどは硬い材料で作られているのです」とその理由を話します。しかも、柔軟な体幹を持つロボットの開発はまだまだ希少で、多様な歩行ができるロボットは世界的にも実現していません。田熊准教授はこれまでの研究で、関節のある体幹を持つロボットでは歩行のバリエーションが広がり、歩行速度が上がることを確認しています。今後は、体幹の特性を変えることで多様な歩行形態を単独のロボットで実現することを目指し、その体幹機構の設計指針を確立しようとしています。そのために京都大、大阪大の研究者2人との研究チームで役割分担し、さまざまな体幹機構の試作と評価、2足・4足歩行を切り替えるゴリラやチンパンジーの身体構造の調査、運動中の体幹機構のメカニズムの数理解析による理論的な裏付け、などに取り組みます。 障害物にぶつかっても変形して進むことのできるゴム風船を使ったソフトロボットなどユニークな研究に取り組む田熊准教授。「柔らかさにチャレンジすることで、人や動物と同じ運動能力を持つロボットを作ることが目標です」と話します。開発した柔軟体幹の2足歩行ロボット■なかやま・ひろなお 2008年名古屋大学大学院医学系研究科医療技術学専攻博士後期課程修了。愛媛大学研究員などを経て、2011年から2015年まで米国ハーバード大学医学部小児病院でリサーチフェロー。2015年愛媛大学医学部生化学・分子遺伝学分野助教。2017年から現職。臨床検査技師。博士(医療技術学)。岐阜県出身。 文部科学省と日本学術振興会の独創的、先駆的な学術研究を対象にしたわが国最大規模の競争的資金制度「科学研究費助成事業」は「科研費」の略称で知られています。学園3大学には今年度、総額で3億3215万円の交付があり、単独の大学なら関西の私立大等で6番目に相当する額です。第4回「JOSHO FRONTIER‒研究最前線‒」では、科研費に採択され注目される3人の研究者を紹介します。ずい が  しゅ  この楽しさを全国へ!千々和、松崎 はじめまして。今日はよろしくお願いします。まず、日本おひるねアート協会を設立したきっかけを教えてください。青木 私は子供の写真を撮るのが趣味で、面白い撮り方がないかとインターネットで検索してヒントを得て、長男のおひるねアートを2012年の夏から撮り始めたんです。1日1枚をブログにアップしていくうちに、メディアで紹介されるようになり、2013年3月には写真集の出版が決まりました。企業からも仕事の依頼が来るようになり、社会の需要が大きいことを知りました。「この楽しさを全国に広げていきたい」と、その半年後に協会を立ち上げました。松崎 背景がとてもかわいい作品ばかりです。どんな材料を使っているのですか。青木 もともと、おうちの中にある身近なものを活用するというコンセプトでやっています。たとえば紙おむつ。立てるとカモメが飛んでいるような形になるし、並べると文字がつくれます。松崎 協会ではどのような活動をしているのでしょうか。青木 「認定講師」を育成することと、おひるねアートを楽しみたいお客様に向けて撮影会を提供しています。認定講師は全国に約500人います。0~2歳ぐらいのお子さんを持つ家庭とつながりを持ちたい企業に、撮影会の提供や講師の紹介もします。フォトスタジオも1カ所、東京で運営しています。  泣き顔も大切な思い出千々和 私たちLCFプロジェクトでも子育て支援の活動をしています。おひるねアートのような撮影会もしますが、赤ちゃんが泣いたりしてなかなかうまくいきません。撮影中に注意することはありますか。青木 親が子供に「ごろんしてもらおう」「言うことを聞かせよう」とすると、子供は雰囲気を察するんです。大人がリラックスして全力で遊ぼうとすることで、子供たちが「ごろんすると楽しいことが待ってるかも」と思える。イベントでは親も緊張するので、リラックスできる環境づくりが必要です。千々和 うまく撮影するにはどんな工夫が必要ですか。青木 肌がきれいに撮れるよう、自然光が確保できる会場を選んでいます。赤ちゃんのその日のありのままの表情を残すということを心掛け決して笑顔を強要せず、ママたちには最初に「今日はどんなお顔で撮れるか楽しみですね!」と声を掛けます。泣いているのに寝転ばせて、自分のエゴで撮影したという「罪悪感」を持ってほしくないし、もちろんエゴじゃない。主催側がポジティブな声掛けをすることで、「かわいい思い出の写真が撮れた」「次も行きたい」と感じてもらえます。  キラキラするわが子が  見たい松崎 私たちのイベントの中心は子供ですが、親も一緒に楽しんでもらいたいと考えています。どんな工夫が必要でしょうか。青木 「ママとパパも楽しめるように」というのは意識しなくていいのかな、と感じます。私も親子でイベントに参加しますが、キラキラした顔で何かに一生懸命打ち込み、笑顔になるわが子を見るだけで「来てよかった」と思えるんです。手形を取るなど、思い出に残る品、持ち帰れるものがあると、満足度が高まると思います。千々和 親子向けのイベントを開くにあたり、大切だと考えていることは何ですか。青木 ママが今どんなことに悩んでいるのか、子供たちが興味を持っているものは何か、テレビやネットで情報をリサーチすることが大事だと思います。今なら(環境大臣の)小泉進次郎さんの男性による育児休暇が話題で、「うちのパパは育休を取るのか」「どのくらい家事をしてくれるのか」といったやりとりが盛んです。私たちは、パパの育児参加に特化したイベントもやろうと考えています。  パパとママの子育てを普通に!千々和 今まで活動してきて大変だったことは何でしょうか。青木 国が子育て支援に充てるお金の額が少ないと感じています。おひるねアート撮影会も子育てイベントだから費用は抑えてほしいという依頼が時々あります。子供を持つことがリスクとして捉えられるような世間の声もあり、私たちがいくら「子育ては楽しい」と発信しても、ネガティブな話をする大きな声にかき消されてしまうことですね。松崎 では、うれしかったことは何ですか。青木 楽しいという気持ちから活動していたのですが、「産後うつ」から脱出できたというママからの反響を多くいただきました。妊産婦の死因の1位が自殺だというニュースがあります。「赤ちゃんと外出するきっかけになった」「子供との時間を楽しめるようになった」と、前向きな気持ちになれるママが1人でも増えればうれしいです。千々和 最後に、これからの目標を教えてください。青木 2019年の出生数が100万人を大きく下回り、約86万人になるというニュースはショックでした。私たちはおひるねアートというコンテンツを通じて、子育ての楽しさを伝えていきたい、パパが子育てを楽しめるような環境をつくり、パパとママが協力して育児することが世間のスタンダードになるようにしたい。子供がいるから何かをあきらめるのではなく、「できることが増える」というイメージをつくり出す努力を続けていきます。千々和、松崎 いろいろと教えていただきありがとうございました。千々和さん:社会のさまざまな面に目を向けて幅広く活動されていることに驚きました。私たちも視野を広げ、情報を集めて、何ができるのかを考えていこうと思います。松崎さん:LCFが7月に開く七夕会に向けて、役立ちそうなアドバイスがたくさんありました。家の中にある身近なものを使った遊びや、パパも楽しめるようなイベントづくりをしたいです。インタビューを終えて※『LCF(Let's have fun with Children & Families)』プロジェクト呉市すこやか子育て支援センターを活動の場として、親子の交流を深めることを柱にイベントを企画・運営する看護学部生の団体で、クリスマス会などで赤ちゃんの写真の撮影会を実施している。16February, 2020 | No.87 | FLOW

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