常翔学園 FLOW No.87
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苦情の王様「騒音」の不思議物理的特性と人の感覚をつなげて効率の良い音質改善策を探る大阪工業大学 工学部機械工学科吉田 準史 教授ニューウェーブ教育・研究*注:【デシベル】=音の大きさは音の強さ(エネルギー)に由来するが、音の強さが10倍、100倍、1000倍…というように等比的に増加していっても、音の大きさとしては人は同じ割合で等差的に増加したと感じてしまう(フェヒナーの法則)。そこで音の強さを対数(ベル=B)に変換すると人が感じる音の大きさに近い指標となる。ベルを10倍したのがデシベル。電気自動車の登場でも消えない騒音 除夜の鐘は大晦日の風物詩ですが、昨年末に「『騒音だ』との苦情で中止したり、打つ時間を昼間に変更したりする寺が全国で増えている」という驚きの報道がありました。また、生活騒音による近隣トラブルのニュースも絶えず、時には殺人事件のような深刻な事態に発展することもあります。総務省の公害苦情調査(2018年度)でも1万5665件で全体のトップの32.9%を占めるなど、騒音は誰にとっても関心の高い身近な問題です。しかし、ある人には騒音でも別の人には騒音ではないということも珍しくなく、その“正体”が分かりにくい問題でもあります。騒音の不思議や原因追究の難しさなどについて、自動車や家電製品の騒音研究に取り組んできた大阪工業大機械工学科の吉田準史教授に聞きました。低周波という騒音 子供の騒ぐ声でも自分の子供なら騒音とは感じません。このように騒音は主観的なものです。心地良い音楽も車や飛行機の騒音と呼ばれるものも、分析すればその正体は空気層の圧力変動(空気の振動)という同じ物理現象です。それを人がどう認識するかの問題なのです。主観に左右されるとは言え、大部分の人が「うるさい」と感じる音が騒音と呼ばれています。音の大きさの評価手法としては、音のエネルギーを対数変換した単位のデシベル(dB)=*=が使われます。人が感じる音の大きさの尺度として、基準値(1000ヘルツの最小可聴音)の何倍かを表しています。 騒音規制法では4つの区域に分けて、昼間、朝・夕、夜間の時間帯ごとの規制値が定められています=表。主に住宅地の第1種・第2種区域と商業地、工業地の第3種・第4種区域では当然規制値は違います。法律ではデシベルという音の大きさを規制するだけで、音の高さ(周波数=ヘルツ)の規制はありません。私が以前テレビ局の取材を受けた騒音トラブルでは、音の大きさではなく低周波が原因の事例がありました。調べるとクリーニング工場の送風機が出す「ボー」という感じの低い音でした。低周波が睡眠障害を起こすこともあります。およそ100ヘルツ以下を低周波と言いますが、低周波ほど遠くに伝わりやすい性質があるのです。そのために人家から離れた場所にある風力発電が出す低周波(約20ヘルツ)も問題となることがあるのです。 私がこれまで主に取り組んできたのは自動車騒音ですが、電気自動車の登場は衝撃でした。これまでは「音を下げろ」と求められて努力してきたのが、「音を出せ」と180度変わったのですから。近づいて来ても気付きにくいので危険だとして、今では高齢者が車を認知しやすいような音を電子デバイスなどで出す研究が行われています。 自動車の出す音は、①エンジン ②タイヤ ③風切り、の主に3つよしだ・じゅんじ ■ 1996年大阪市立大学工学部機械工学科卒。ヤンマーディーゼルを経て1999年本田技術研究所に入社し自動車の振動騒音対策の研究開発に従事。2006年宇都宮大学大学院工学研究科情報制御システム科学専攻博士後期課程修了。2009年大阪工業大学工学部機械工学科講師、2014年同准教授、2019年から現職。博士(工学)。大阪府出身。09FLOW | No.87 | February, 2020第1種区域第2種区域第3種区域第4種区域…………良好な住居の環境を保全するため、特に静穏の保持を必要とする区域住居の用に供されているため、静穏の保持を必要とする区域住居の用にあわせて商業、工業等の用に供されている区域であって、その区域内の住民の生活環境を保全するため、騒音の発生を防止する必要がある区域主として工業等の用に供されている区域であって、その区域内の住民の生活環境を悪化させないため、著しい騒音の発生を防止する必要がある区域Notes区域/時間第1種区域第2種区域第3種区域第4種区域昼間45~50デシベル50~60デシベル60~65デシベル65~70デシベル朝・夕40~45デシベル45~50デシベル55~65デシベル60~70デシベル夜間40~45デシベル40~50デシベル50~55デシベル55~65デシベル::::::::::::《音の大きさの目安》■騒音規制法で定められた規制基準値(環境省webサイトから)120デシベル110デシベル100デシベル90デシベル80デシベル70デシベル飛行機のエンジン音車のクラクション、ライブハウス鉄道の高架下、パチンコ店騒々しい工場の中・カラオケ店内地下鉄の車内、掃除機、ピアノ騒々しい事務所の中、走行中の車内60デシベル50デシベル40デシベル30デシベル20デシベル10デシベル静かな乗用車、普通の会話静かなオフィス、クーラー(室外機始動時)図書館、静かな住宅地の昼郊外の深夜、ささやき声雪の降る音聴こえる限界17FLOW | No.87 | February, 2020 東南アジアのインドシナ半島東部にある社会主義共和制国家。首都はハノイ。人口約9467万人(2018年)。第2次大戦前はフランスの植民地で、戦時中の日本軍の進駐を経て、戦後対仏独立戦争(第1次インドシナ戦争)の後も南北に分断。米国が干渉した20年にわたるベトナム戦争(第2次インドシナ戦争)を戦い1976年に統一された。1986年に社会主義に市場経済システムを取り入れるドイモイ政策を採択し、工業化と近代化が進んだ。世界遺産のハロン湾などの自然や歴史が豊かで、日本からの観光地としても人気。グエン・フウ・タイさんNguyen Huu Tai最先端技術を学び汚染が広がるベトナムに環境に優しい車を   常翔学園の設置学校で学ぶ留学生を紹介する「GLOBAL VOICE」。第7回は摂南大にベトナムから留学中のグエン・フウ・タイさんです。はじめはかっこよさに魅かれて自動車技術を学ぼうと来日しましたが、今では電気自動車や水素自動車など環境に優しい車の素晴らしさに目覚め、いずれは都市部の大気汚染に苦しむベトナムに広めたいと考えています。グエンさんに母国の魅力や日本の生活などについて聞きました。 1996年、ベトナム南部のホーチミン市近郊の生まれ。高校卒業後、ベトナムの日本語学校に半年通い、2015年に日本へ。大阪で2年間日本語学校、1年間大学入試準備の専門学校で学び、2018年摂南大に入学。父はホーチミンで建設会社を経営、母はハノイでドラッグストアのチェーンを経営する。兄と妹を含めて5人家族。ベトナムでも日本でも友人からは「タイ」と呼ばれる。摂南大学 理工学部機械工学科2年 ベトナム人は真面目でシャイな人が多く、日本人と国民性が似ています。だからお互いに理解しやすいし、親近感があります。でも私の出身のホーチミンを中心にした南部と首都ハノイを中心にした北部でベトナム社会主義共和国は、地域性の違いもあります。 分かりやすいのは料理で、南部は濃くて甘い味付けですが、北部は薄味を好みます。日本の料理の味付けは南部に近く、来日して私にはまったく抵抗がありませんでした。有名な麺料理のフォーも南北で違いがありますが、私は牛肉ののった南部のフォーが大好物です。ベトナムはフランスの元植民地なのでパンもおいしいです。バインミーというベトナム風フランスパンにいろんな具材を挟んだものが、おいしくて安い朝食の定番です。 観光のお薦めは世界遺産の中部の古都・ホイアンです。街中にランタンが飾られ、日没後に一斉に灯ると本当に幻想的で美しいです。日本人に似た真面目でシャイな国民性お国自慢PAKISTANSRI LANKAIRANCHINAINDIAAFGHANISTANBay of BengalArabian SeaIndian OceanPacificOceanEastChina SeaNEPALBHUTANBANGLADESHラオスカンボジアホーチミンタイミャンマー中華人民共和国ハノイテクノセンターのマシニングセンタ前で

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