常翔学園 FLOW No.86
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もちろんです。私は大学の陸上部の栄養指導をしていますが、長距離選手と短距離選手では求められる体格が違います。マラソンなどでは長時間の体重移動が激しく、体重は軽い方が有利です。エネルギー消費量が多いため、糖質を供給するごはんなどの主食が大事です。一方、短距離選手はしっかりした筋肉が求められますから、筋肉をつくるたんぱく質が摂れる肉や魚、卵、大豆などの主菜が大事です。朝食を摂っていなかった選手─アスリートをサポートする際に具体的にどんなことから始めるの ですか?梶井 まずその選手や指導者から練習内容を聞き、実際にそれを見に行きます。それによってエネルギーの消費量を把握します。体重や筋肉量の測定、更に食事調査で摂取している量を把握します。また、選手の目標をどこに置くのかも明確にしなければいけません。例えば、柔道の同じ階級でも体重を増やしたい選手もいれば、減らしたい選手もいます。当然指導内容は変わります。同じ減量するにしても、食事量自体を減らす必要がある場合もあるし、量は減らす必要はないが脂肪の量を減らすだけでいい場合もあります。そのため選手とのコミュニケーションがとても大事です。─サポートされた経験の中で、「こんなに効果があるのか」と 驚いた例を教えてください。梶井 高校生の競泳選手をサポートしたことがあるのですが、指導者が「大会の数日間でいつも体重が3、4キロ落ちて、決勝のころにいい結果が出る」と話していました。トップ選手は、大会期間中にいかに体重を落とさず、体力を維持して決勝に進むかを工夫し、頻繁に補食も取ります。それと比べて何か変だなと思い、本人によく聞くと朝食を食べていないことが分かりました。朝食を取るように指導したら、素直に実行してくれて、次の大会では大会期間中に体重を落とさず自己ベストを出すまでになりました。指導者はよく体重を落とすように選手に指導しますが、単純に減量できただけではダメな場合も多く、スポーツ栄養士がサポートする必要があるのです。─選手とのコミュニケーションで気を付けていることはどんなこと ですか。梶井 やる気を引き出す工夫ですね。「絶対にこれをやりなさい」という指導ではなく、選手が自分で決められるように選択肢をできるだけたくさん提示します。自分で決めたことなら選手も取り組みやすくなります。もちろんその選手の性格や個性を見て、対応を工夫する必要もあります。きつく言ってもいい選手もいれば、メンタルが弱い選手もいますから、指導者らとの情報交換や連携も大事です。女子選手の減量という難問─アスリートから受けた相談で一番多いものや難しかったもの を教えてください。梶井 女子選手から減量したいという相談が多いですが、エネルギー不足という大きな問題があります。運動によるエネルギー消費量が食事によるエネルギー摂取量を上回った状態がエネルギー不足の状態ですが、それが続くと無月経や骨粗しょう症などの問題も起きます。貧血や疲労骨折にもつながります。痩せようとして食べる量を減らしてエネルギー不足になる過程で、逆に痩せにくい体質になる女子選手がほとんどなのです。体が欲しているのにそれが入ってこないので、体は脂肪をため込もうとし痩せにくくなるのです。そうなると少し食べても体重が増えます。指導者は「一刻も早く痩せろ」と言うのですが、十分なエネルギーを摂り、痩せにくい体質を改善するまでは危険なのです。 サポートした女子レスリングの選手ですが、大学から競技を始めてなかなか勝てませんでした。レスリングは体重階級制なので年に何度も減量するうちにエネルギー不足になっていると判断し、食べる量を増やしました。その結果、「スタミナ切れがなくなり、4年生で初めて1勝できました」と報告を受けた時は本当にうれしかったです。 また、逆に「体重を増量させたい」と指導者からの要望があったのですが、トレーニングのメニューは変えないというのです。もし筋肉で選手を増量させたいなら、筋トレも増やさないと食事だけでは増えません。刺激がないと筋肉が増えることはないからです。筋トレを増やさないと体脂肪が増えるだけの増量になります。指導者の理解を得ることもスポーツ栄養士の大事な仕事です。─将来スポーツ栄養士を目指す学生も増えています。そんな学生 たちにアドバイスをお願いします。梶井 結果が明確に出るシビアな仕事です。選手に提案する選択肢を増やすために、知識やスキルを増やすことを心掛けることが大事です。また、自分自身の食事を改善し、食習慣を良くすることも考えてください。自分でスポーツを経験することも役に立つと思います。 公認スポーツ栄養士の活動内容(日本スポーツ栄養学会ホームページより)1 「選手やチームなどへの講習会・セミナー」(79.6%)2 「選手の家族や調理担当者を対象にした講習会・セミナー」(47.6%)3 「栄養相談・カウンセリング」(68.7%)4 「食事調査・結果返却」(62.6%)5 「身体組成の測定」(46.9%)6 「練習、トレーニングと連動した栄養補給・行動計画の作成」(46.3%)08November, 2019 | No.86 | FLOW選手らに栄養指導する梶井講師図2=たんぱく質の必要量「キラリ*Josho note」page30は、天体観測技術を放射線画像技術に応用しようと研究する広島国際大大学院の橋本澪さんと、旺盛なチャレンジ精神で防災アプリ開発に取り組む大阪工大の繁戸芙紀子さんです。今回も常翔学園のキャンパスでキラリと輝く学生たちを紹介します。 昨年6月18日の朝7時58分、繁戸さんは通学途中のJR長尾駅前のバス停で大阪北部地震に遭遇しました。「経験のない揺れに強い恐怖を感じ、その後3回も夢に出てくるほどのトラウマになりました」と振り返ります。社会的課題を情報技術で解決することを目指す学内の学生プロジェクト「ソリューションデザインプロジェクト」で防災アプリ開発を目指した原点です。友人の同級生沖胡智可子さんと開発しているのが、地震の怖さを疑似体験できる子供向けゲームアプリと、近くの河川の氾濫リスクを自動的に通知するアプリを1組にした防災アプリ「朋」です。プログラミングは全くの未経験で、入学後に一から学びましたが、1年生の冬にはそのプロトタイプ(試作品)を地元の枚方市役所の防災担当職員に見てもらい意見をもらえるまでになりました。2年生からは先輩の3年生のグループに入り、別の防災アプリ作りにも参加。枚方市内の高齢者や要介護者の安否を災害時にスマホなどで迅速に確認できるアプリ開発を目指しています。 中学校の時に、建築士の父がパソコン内に建物の精巧な3Dモデルを作るのを見て、コンピューターによるモノづくりに興味を持ちました。「好きなことを存分に学べそう」と大阪工大コンピュータ科学科に入学してからは、その持ち前の好奇心が開花。学内のプロジェクト活動だけでなく、学外のハッカソン*やアイデアソン、プレゼン大会、IT勉強会にも参加。臆することなくプレゼンテーションに挑戦しています。「意識やレベルの高い人との思いがけない出会いで刺激を受け、自分のモチベーションを上げる場です」と話します。「プレゼンは本当に難しいです」と言いながら、今年7月にあった大学図書館主催の「第7回ビブリオバトルin枚方」では優勝(チャンプ本は小川洋子著『人質の朗読会』)するまでに腕を上げています。 AI(人工知能)やディープラーニングなどにも関心がある繁戸さん。「まだ、将来の道が見えないですが、さまざまなことに挑戦して失敗し、やりたいことを見つけたいです」。華奢な外見からは想像できないバイタリティと好奇心の持ち主で、何より失敗を恐れない姿勢がキラリ光ります。地震体験を防災アプリ開発に大阪工業大学 コンピュータ科学科2年繁戸 芙紀子 さんしげと・ふきこ学外の人との交流もモチベーションに*ハッカソン=あるテーマについてプログラミング技術やアイデアなどでサービスやシステム、アプリなどを短期間に集中して開発し、成果をチームで競い合うイベント。おきえびすきゃ しゃとも16November, 2019 | No.86 | FLOW

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