常翔学園 FLOW No.86
21/24

CADでは学べない人間と建築のスケール感 一方、製図道具は今でも学生たちには欠かせないものです。もちろんあらゆる分野にコンピューターによる設計支援ツールであるCAD(キャド、computer-aided design)が使われ、建築の設計でも例外ではありません。しかし、大阪工大建築学科は今も手描きの設計演習を重視し、3年前期までは手描き製図を課しています。建築学科学科長の寺地洋之教授は「コピペが簡単にできるCADだと大きすぎるトイレを図面化してもそれが異常に大きいと気付かない学生も出てきます。手先を使って自分の手で覚えることで、建築家として大事な人間と建築のスケール感や寸法体系を磨くことができます。医師が今でも聴診器で患者を診るのと似ています」と手描き必修化の狙いを話します。2号館1階の建築学科製図室では学生が一斉に製図道具を使って真剣に設計演習に取り組み、ガラス越しに表の通りからその授業風景をうかがうこともできます。「1年生からCADしか使わず、手描きを教えない大学もあります。しかし、本学の手描き教育は企業の評価も高く、就活で密度の高い手描きの図面を持参することで採用につながることも多く、一級建築士合格者の多さにも反映しています」と寺地教授はその実際的な効果を明かします。 時代はアナログからデジタルが主流になり、計算尺が電卓に、製図道具がCADに取って代わられていきました。それでも数字やデータ、図面と真剣に向き合うことが、モノづくりに取り組む学生たちに不可欠なことに変わりはありません。 変わらぬ風景20November, 2019 | No.86 | FLOW常翔歴史館に史料のご提供を………………………………松浦清館長 “モノ”で歴史を語るのが常翔歴史館の使命です。そこで学園創立100周年に向けて大学・学校、ご自宅のどこかに眠る史料のご提供をお願いします。古いものを廃棄処分にしようという時も、安易に捨てないで一度それが史料にならないか考えてください。特に貴重なものでもなく、昔はありふれたものだったとしても貴重な歴史の“証人”になる場合があります。もし気になるものがあればぜひ常翔歴史館までご一報ください。☎ 06-6955-7762 e-mail:Rekishikan@josho.ac.jp〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16-11941年ごろの関西工学校の製図授業風景(大宮校舎本館4階)現在の大阪工大建築学科の設計演習風景。昔と違って模型を手元に(大宮キャンパス2号館1階の製図室)手描き教育の良さを語る寺地教授【CADの歴史】 1963年、2次元CADソフト「Sketchpad」が米国で誕生。ペンを動かすだけで画面上に図面を描けるようになった。1971年、自動で製図し加工できる革新的CADソフト「ADAM」を米国の情報工学者ハランティーが開発。1977年、最初の3次元CADシステムをフランスの航空機製造者ダッソーが開発。1980年以降、小型コンピューターの普及でCADも普及。2000年代には中堅・中小企業にも定着した。現在、モノづくりに欠かせないツールとなっている。■官の期待示す開校当初の講師陣容 関西工学専修学校は当初は夜学のみで、短期間で現場を技術的に監督できる即戦力の養成が求められました。とは言え、開校時の講師陣=別表=を見ただけでも付け焼刃的な教育ではなく、夜学のイメージとは程遠い本格的な技術者教育を目指していたことが分かります。講師の多くが当時は超エリートだった帝国大学出身の大阪府や大阪市の技師で、1私立学校での教育にもかかわらず、官の側の期待の大きさや意気込みが伝わってきます。〈土木科〉河原 常次郎安藤  坦草地  喬與田 喜知蔵山口 圭助柳田 癸巳夫古賀 寿一近藤 泰夫井下 勝蔵上床 義隆津田  等近藤 博夫 千田 正重 〈建築科〉池田  實岡本 茂樹中村 琢治郎 中村 吉太郎宮本 長治中西 甚作本多 二郎井上 新二内山 新之助薗部 文雄 平井 三郎 松井 角平 (英 語)  (結構学、橋梁学)(結構学) (交通学)(水理学)(鉄筋コンクリート工学)(測量学、建築科も)( 〃 ) (測量実習、建築科も)( 〃 ) (製図法、建築科設計製図) (建築学概論)(建築力学) (建築材料、住宅)(建築構造、設計製図)(建築構造、都市計画)(和風建築、鉄混構造)(鉄骨構造) (鉄混構造)(都市計画、土木科橋梁学) 大阪府技師都市計画大阪地方委員会技師大阪府技師        〃            日本電力技師       京阪電鉄技師       大阪府技師        京都帝国大助教授大阪府技手 〃大阪府技師 〃 内務省大阪土木出張所技師大阪府建築課長大阪府技師 大阪府営繕課長大阪府技師都市計画大阪地方委員会技師大阪府技師宗建築事務所技師 大阪府技師都市計画大阪地方委員会技師 大阪府技師〃松井組建築事務所所主(九州帝国大工科大)(京都帝国大工学部)(東京帝国大工科大)(熊本高等工業学校)(東京帝国大工科大)(京都帝国大工学部)(熊本高等工業学校)(京都帝国大理工科大)(熊本高等工業学校)( 〃 )( 〃 )(京都帝国大理工科大)( 〃 )(東京帝国大工科大)(東京帝国大工学部)(東京帝国大工科大)(名古屋高等工業学校)(東京帝国大工科大)( 〃 )( 〃 )(東京帝国大工学部)(京都帝国大理工科大)(東京帝国大工科大)(名古屋高等工業学校)(東京帝国大工学部)開校当時の本科講師陣担当者(担当学科) 本 務 出身校04November, 2019 | No.86 | FLOW学長としての2期4年間で達成できたことと、課題だと感じておられることは─ 学園の長期ビジョン「J-Vision22」の見直し作業を進める中で1期目をスタートし、将来像を「ともにしあわせになる学び舎」と定めました。1期、2期はそれを意識しながら改組やキャンパス整備を進め、やっと新たなスタート地点に立てたと思います。呉の3号館(教育会館)や東広島の陸上競技場などキャンパス整備は一段落し、来年は健康スポーツ学部を新設し、医療福祉学部、医療経営学部、心理学部、医療栄養学部を健康科学部へと再編します。新しい施設をうまく活用し新学部を順調にスタートさせるのが3期目の最初の課題です。Society5.0など新しい時代を見据えたポスト「J-Vision22」構想の検討も着手します。4年間で実感したのが学内における情報の共有不足です。事業の「見える化」など、それを解消する仕組みも考え、より一層いきいきとした学び舎としていきます。広島国際大の魅力と、学生、教職員に期待することは─ 健康・医療・福祉分野に特化し、人々の健康寿命の延伸に貢献する大学で、これからの社会に最も必要とされる分野を担っているのが一番の魅力です。そのため「人の役に立ちたい」と志す学生が多いのも強みです。その一方で、まじめですが少しおとなしい学生が多い印象です。失敗を恐れずもっと何にでも挑戦し、学生主体のさまざまな活動を広げてほしいと思います。地域の方々との交流も広げ、ボランティアにも出てください。教職員は無謀に思える学生の提案でも、単に否定するのではなく、何ができるかを一緒に考えて前向きに学生をサポートしてください。来年度に新設される健康スポーツ学部と改組される健康科学部への期待は─ 健康寿命の延伸に貢献する大学として、「健康」の名の付く2つの学部が生まれる意味は大きいと考えています。健康スポーツ学部は、健康のためのスポーツに狙いを定めた学部です。今年開催されたラグビーのワールドカップでは多様性の重要性が注目されましたが、来年には東京オリンピック・パラリンピックなどもあり、スポーツの持つ可能性が更に広がっていくことが考えられます。従って、卒業生の活躍の場も教育現場やスポーツ関連企業などにとどまらず、大きく広がっていく可能性のある学部です。健康科学部に再編される医療経営学科が広島キャンパスから東広島キャンパスに移ることもあり、多様な学生の連携した活動が増えて、大学がより活性化することを期待しています。教育、研究、社会貢献で今後の取り組みの構想は─ 教育では、健康スポーツ学部と健康科学部で他学科の専門科目も学べる「横断プログラム」の体制を整えます。学部・学科の枠を越えてチーム医療・チームケアについて学ぶ専門職連携教育(IPE)も更に充実させ、幅広い視野を身につけることができる教育課程をスタートさせます。研究では健康寿命の延伸に向けて、住民調査などを東広島市などの自治体と協力して進めます。社会貢献では、地域の方が学ぶ場である「広国市民大学」を発展させていきます。講座の充実だけでなく、学生やそこで学んだ地域の方自身が講師役を務められるようになればと思います。地域住民の健康相談などを行う「しあわせ健康センター」は、東広島キャンパスでの拠点を来年4月から新校舎「アクティブ・ウェルネス・センター」1階に移し、学生のかかわりを増やしていきます。広島国際大学 学長焼廣 益秀「健康」の2学部をスタート地域との連携を深め学部・学科横断の教育に磨きを 学長のお薦め本『AIに負けない子どもを育てる』新井紀子著(東洋経済新報社) 普段は電子書籍で自己啓発・科学系の本やミステリー、SF小説をよく読みます。子供の読解力が低下しているという著者の指摘に共感し、人にも薦めたいので珍しく印刷本を買いました。影響を受けて学内でリーディングスキルテストも始めています。巻頭特集学長改選やけひろ・ますひで ■ 5代学長(再任)。1983年広島大学医学部医学科卒業。広島大学医学部助手、講師を経て1998年広島国際大学教授に。総合教育研究機構長、学生支援センター長、教務部長、副学長を歴任。博士(医学)。広島県出身。60歳。Pickup My favorite Book

元のページ  ../index.html#21

このブックを見る