常翔学園 FLOW No.86
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日米開戦 痛恨の教訓正確な情報から不合理な選択エリートの失敗に迫る摂南大学 経済学部経済学科牧野 邦昭 准教授ニューウェーブ教育・研究*注:<ことば>秋丸機関=陸軍主計中佐の秋丸次朗をリーダーとして1940年1月に設立。総勢200人近い頭脳集団で、日本、同盟国、仮想敵国の経済力を比較分析。英米班、独伊班、ソ連班、日本班、南方班、国際政治班があった秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く 1941(昭和16)年12月8日未明に日本軍がハワイ真珠湾の米海軍基地を奇襲攻撃し、3年9カ月に及ぶ太平洋戦争が始まりました。間もなくその78回目の開戦記念日が巡ってきます。膨大な犠牲者を出した太平洋戦争には、「不合理な軍が始めた無謀な戦争」というイメージが定着しています。しかし、戦前に他ならぬその陸軍が一流の経済学者を集めて組織した研究班「秋丸機関」*が、日米間の経済力の隔絶を指摘した冷静な報告書を出していました。長らく「都合の悪い極秘の報告書を軍が焼却処分した」と信じられてきましたが、摂南大経済学部の牧野邦昭准教授は、焼かれたはずの「幻の報告書」など新資料を次々に“発見”。更に「正しい情報がありながら、なぜ不合理な開戦を決定したのか」を新たな視点で鮮やかに分析した『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』(新潮選書)を世に問い、高い評価を受けました。今年の読売・吉野作造賞も受賞したその著書と研究について牧野准教授に聞きました。 私は経済思想史の中でも第2次大戦前後の経済思想や経済学者らに特に関心があります。経済学を研究し始めて最初はミクロ経済学に基づく都市経済学など理論的な研究をしていました。その中で戦時中の統制経済の規制や制度が戦後も残り、それが高度経済成長にもつながるということなどを学び、そうした制度を作った当時の経済思想や経済学者に関心を持つようになったのです。 今回、読売・吉野作造賞をいただいた著書のテーマは、有沢広巳や中山伊知郎ら当時の気鋭の経済学者らが参加した陸軍省戦争経済研究班、通称「秋丸機関」の実像に迫ることでした。なかでも「経済学者らの正確な情報や分析がありながら、なぜ対米英開戦に踏み切ったのか」という最大の謎に私なりの答えを提示することでした。焼却されたはずの極秘資料を次々“発見” 秋丸機関の存在は以前から知られていましたが、資料は軍によって焼却されたというのが通説でした。中心メンバーだった有沢広巳・東京大経済学部名誉教授が1988年に亡くなり、その遺品から報告書の一部の『英米合作経済抗戦力調査(其一)』だけが見つかっていましたが、それ以外の報告書の存在は不明でした。ところが、近年インターネット上のデータベースが整備された恩恵で、2013年に全国の大学の蔵書を検索できるCiNii Booksで静岡大附属図書館に所蔵されていた『独逸経済抗戦力調査』を、2014年に『英米合作経済抗戦力調査(其二)』を古書データベースで、私が相次いで見つけることができたのです。 焼却されたはずの「極秘資料」が、検索するだけであっさり見つかったこと自体が驚きでした。なぜ残っているのか、その資料や当時の周辺資料も調べるうちにその理由が分かってきました。「長期戦では米国には勝てない」 秋丸機関は数多くの各国の書籍、雑誌、資料を収集、分析して各国の経済抗戦力(戦争に耐えうる経済力)を班ごとに報告書にしました。仮想敵国を分析した『英米合作経済抗戦力調査』と同盟国のドイツを分析した『独逸経済抗戦力調査』の中身を紹介します。 『英米合作経済抗戦力調査』では、英米の抗戦力は十分だが、「英米間の船舶輸送に弱点がある」と強調されています。これは大西洋でドイツとイタリアがどれだけ英米の船舶を撃沈できるかが重要ということです。その意味で『独逸経済抗戦力調査』が重要ですが、ドイツの経済力の限界を冷静に分析し悲観的です。まきの・くにあき ■ 2000年東京大学経済学部経済学科卒。2002年同大学院経済学研究科現代経済専攻博士前期課程修了。2008年京都大学大学院経済学研究科経済システム分析専攻博士後期課程修了。龍谷大学経済学部非常勤講師などを経て、2010年摂南大学経済学部経済学科講師。2014年から現職。2011年『戦時下の経済学者』(中公叢書)で石橋湛山賞。2019年『経済学者たちの日米開戦 秋丸機関「幻の報告書」の謎を解く』(新潮選書)で読売・吉野作造賞。博士(経済学)。東京都出身。09FLOW | No.86 | November, 20191931年1937年1940年1941年  〃  1942年1945年1992年9 月7 月1 月7 月12 月12 月8 月8 月満州事変日中戦争陸軍省戦争経済研究班(通称「秋丸機関」)設立報告書完成。陸軍上層部への報告会真珠湾攻撃で日英米開戦秋丸機関解散ポツダム宣言受諾し日本が敗戦秋丸次朗死去◆ 秋丸機関の関連年表 8月10日、11日に神戸サンボーホール(神戸市中央区)で開催された「inrevium杯 第19回レスキューロボットコンテスト」で、大阪工大ロボットプロジェクトチーム「大工大エンジュニア」が大会史上初3度目の「レスキュー工学大賞」を受賞しました。 本大会は阪神・淡路大震災を契機に始まり、救命救助機器の研究・開発や防災・減災の啓発を目的としています。審査はロボットの性能や操縦技術だけでなく、レスキュー活動に対する考え方や取り組みも重要な評価基準となっています。チームがロボット製作の過程で注力したのは「容体判定」。要救助者を模擬した人形「ダミヤン」の容体を音声(周波数)やQRコードなどから判定し、呼吸や負傷の状態を迅速かつ正確に識別する技術を高めました。メンバーの野宮なるみさん(システムデザイン工学科2年)は「練習の時は完璧に識別できており精度には自信がありましたが、大会初日は会場の歓声などで音声を上手く識別することができず、焦りました」と振り返ります。反省を踏まえ2日目は、ダミヤンにぎりぎりまで近づくなどロボットを慎重に操作した結果、出場チームで唯一完璧な容体判定を行いました。 災害時に最も重要なことは要救助者の容体を正確に把握し、救助の優先順位付けに役立てるという考えのもと、こだわり続けた「容体判定」が、高く評価され大賞受賞に至りました。現在は、新体制に移行し、新たなチームで活動がスタート。野宮さんは「来年も必ずレスキュー工学大賞を受賞したい」と意気込んでいます。JOSHO TOPICS常翔学園高の水泳部員3人が、8月に行われた第42回全国JOCジュニアオリンピックカップ夏季水泳大会で、好成績を収めました。井上乃絵留さん(1年)は競泳女子200mバタフライで17位と健闘。「入賞は逃しましたが持てる力を発揮でき、レース内容には満足しています。来年はもっと順位を上げ、表彰台に立ちたい」と、本大会の手応えと目標を語ってくれました。飛込男子3m飛板飛込で3位となった井戸畑和馬さん(3年)と競泳男子200m背泳ぎで準優勝を果たした奈須一樹さん(同)は、高校生活の集大成と位置付けて臨んだ本大会を振り返り、「結果には満足していません。優勝して有終の美を飾りたかった」と悔しさをにじませました。来春は大学進学を目指す2人。今後については「東京、パリ五輪の出場も視野に入れていますが、まずは日本学生選手権で優勝することが第一目標です」と笑みを浮かべました。それぞれのステージで新たな目標に向かう3人。今後の活躍に期待が高まります。左から井戸畑さん、井上さん、奈須さんダミヤンの容体判定に向かうレスキューロボットロボットの特徴や救助方針などをプレゼンテーションダミヤン : 胸部のQRコードなどで容体を示す常翔学園高水泳部員 全国で健闘大阪工大建築学科設計第1研究室(指導教員:寺地洋之教授)が協力した「MOKUプロジェクト」と、摂南大法学部の中沼丈晃教授がアドバイザーを務める「ひょうごふれあいランニングパトロール」(ふれパト)が、2019年度グッドデザイン賞(応募カテゴリー:取り組み・活動)を受賞しました。MOKUプロジェクトは、枚方市立菅原生涯学習市民センターの1階空きスペースを、コミュニティスペース「MOKU(モク)」にリノベーションし活用したもの。同研究室の学生らが市民と意見交換を重ね希望を集約し、工夫を凝らした設計となっています。最も特徴的なのは、10の高低差による床や机上面が多様な活動を誘発している点。寺地教授は「小学生らが床の一部を施工するなど地域の方々に愛されるプロセスを大切にした」と語ります。同プロジェクトはウッドデザイン賞2019にも輝きました。ふれパトは、2016年に中沼教授がスタートさせた「寝屋川ジョグパト」が原点で「走って防犯」をスローガンに始めたボランティア活動のノウハウを、兵庫県のランナーに伝承したもの。現在は県内各地のチームが月2回以上パトロールを実施するとともに、チーム間の交流も盛んに行われ、個性豊かな活動に成長しています。中沼教授は「受賞を機にこの取り組みがより多くの人に知れ渡り、活動の輪が広がれば」と期待を述べました。国産杉材を使い落ち着きのある空間「MOKUプロジェクト」「ふれパト」がグッドデザイン賞を受賞地域児童の登校を見守りながらランニング大阪工大エンジュニア 大会史上初3度目の大賞受賞13FLOW | No.86| November, 2019日ごろ学ぶ分野が異なるメンバーがお互いの知識・技術を生かし、ワンチームで快挙を成し遂げました。の人表紙

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