常翔学園 FLOW No.85
17/28

11FLOW | No.85 | August, 2019 横山講師が日本の古典文学に目覚めたのは、高校2年の時に源氏物語を漫画化した『あさきゆめみし』(作:大和和紀)を読んだことがきっかけでした。といっても横山家は江戸期に土佐藩の藩校で国学などを教えた学者の家柄で、古い書籍も多く残る環境で育ったことも影響しているようです。主な研究テーマは源氏物語の享受の歴史。「時代ごとに源氏物語の読まれ方が違います。同じ女性でも作品の書写年代によって、好色な女と解釈されたり、貞女と解釈されたりします。その時代が求める女性像や倫理観が反映されるのが面白いです」と話します。 2016年に大阪工大に着任すると連携協定を結ぶ奈良県川上村と深くかかわることに。学部が川上村と共同で立ち上げたWebサイト「桜ライブキャスト」内に、川上村や吉野地方にまつわる文学の連載「そらみつ文庫」を始めました。同村の「あきつの小野公園」の桜をライブ中継するサイト(代表:ネットワークデザイン学科・山内雪路教授)のコンテンツの1つです。「桜中継のアクセス数は春に偏りますが、文学なら年間を通して関心を持ってもらえるのではという狙いで開始しました。それに川上村は『古事記』『日本書紀』の時代から多くの文学作品に描かれ 有機化学を専門とする軽尾助教は、特に医薬品の合成をより簡単に行うことができる試薬や化学反応を研究してきました。昨年摂南大に着任してからは、フッ素原子を医薬品などの化合物中に組み入れる反応試薬の開発・研究を行っています。テフロン加工などで知られるフッ素ですが、薬の構造中にフッ素原子が入っていると、体内にはフッ素を代謝する酵素がないため、薬の効果が長持ちするのです。この特徴を活用して開発された医薬品もあります。 摂南大の所属研究室がフッ素原子を有する機能的な化合物の合成研究をしていたことで、「素人だった」分野にチャレンジしてみたいと研究に着手。効果的にフッ素を導入できる新しい試薬の開発でした。着手して8カ月、試行錯誤を繰り返し、「ピリジニウム塩」の構造を有する、新しいフッ素化試薬が完成しました。「誰でも簡単に取り扱えるように、固体で量り取りやすいことと、水分でべとつくような吸湿性がないものにするのに苦労しました」と振り返ります。しかも既存の安価な試薬を用いており、試薬同士を混ぜるだけで合成できるといういくつもの独自性があります。今年3月には早くもその成果を学会発表しました。今は開発した試薬とは異なる反応性や構造を有する新しいフッ素化試薬の研究に取り組んでいます。「最終的にはフッ素原子を任意の場所に入れられるような試薬や反応を開発し、抗生物質のペニシリンなどの天然に存在する生理活性物質に適用することで、フッ素原子を入れる場所によって薬の効果にどのような違いが表れるかなどを解明したいです」と話します。 闘病する祖母を近くで見ていて「もっと病気に効く薬を作りたい」と考え、小学6年生から薬学部に進むことを決めていたという軽尾助教。今後はある薬がどのたんぱく質と結合するかを探す手法「たんぱく質のラベル化」も研究テーマの一つとして掲げています。薬の効果を予測できる研究です。「趣味よりも今は研究一筋」と新たな可能性を模索する日々が続きます。摂南大学 薬学部 薬学科軽尾 友紀子 助教日本古典文学の魅力を情報科学の力で広める大阪工業大学情報科学部 情報システム学科横山 恵理 講師■かるお・ゆきこ 2014年金沢大学医療保健学域薬学類卒。2018年同大学院医薬保健学総合研究科博士課程薬学専攻修了。同年から現職。薬剤師。博士(薬学)。富山県出身。学生を指導する軽尾助教開発した試薬薬効を高めるフッ素を薬に組み入れる新たな試薬開発そらみつ文庫のWebサイトJOSHOFRONTIER研究最前線page29キラリ*Josho note  今年4月の第11回学生金型グランプリ(日本金型工業会主催)のプレス用金型部門で銀賞を獲得した大阪工大チームのリーダーとして、生田さんは6人のメンバーをまとめました。企業の協力を得ながら学生が金型製作の設計から、金型加工、組み立て、成形までを行い、できた製品の出来栄えを競う大会です。課題は円すい形の「とんがり帽子」。その形を作るための金型を約8カ月かけて製作し、実際に金属の「とんがり帽子」をプレス成形します。 「同期の友人が前回大会に参加していて楽しそうだったので」と自分もやりたいと手を挙げた生田さん。普段はアルミニウム板を鋳造するロールキャスターを研究する生田さんですが、「いつも溶けた金属を相手にしていて、固まった金属を扱うのは畑違いですが、工業大学生としてもっと視野を広げる必要があると自覚していたのでチャレンジしました」と振り返ります。その積極性を買われてリーダーにも選ばれましたが、金型製作は大学の授業にはなく、始めは金型加工の企業の協力でできた図面を理解するという一からの勉強でした。金型の加工、製品のプレス成形は学内の「ものづくりセンター」の設備を使い担当を決めて進めましたが、金型の部品が圧力をかけた時に破損したり、できた製品に割れが発生したり、思わぬアクシデントも。そのたびに試行錯誤を繰り返し、金型の大きな修正は5回にもなりました。そんな苦労の一方で金型加工の9社の現場を見る機会も得ました。「同じ金型でも大型から精密なものまであり、企業ごとのさまざまな工夫やノウハウを学べ、実に楽しい時間でした」と話します。 製品の良さだけでなく「環境にやさしい」金型という課題もあり、プレゼンテーションではプレス時に油を使わないように、部品に特殊な銅合金を使用したことなどをアピールし、企業からも注目され銀賞につながりました。ものづくりへの強い思いは変わらない生田さんですが、「金型加工の奥深さを知って視野が広がり、逆に進む分野に迷いが出てきました」と打ち明けます。知らないことを謙虚に自覚し、成長の糧にしようとする姿勢がキラリ光っています。大阪工業大学大学院 電気電子・機械工学専攻博士前期課程1年ものづくりセンターで金型グランプリで展示したポスターと完成した金型ものづくりの視野が広がった金型グランプリ生田 圭亮 さんおいだ・けいすけ思わぬアクシデントに試行錯誤を繰り返し金型でプレス成形した製品15FLOW | No.85 | August, 2019

元のページ  ../index.html#17

このブックを見る