柱倒壊による道路の寸断や停電をなくし、速やかな復旧作業ができるようになります。弱者に優しい街づくりをアピール─昨年の国土交通省「無電柱化推進計画」では、東京オリンピック・パラリンピック周辺を無電柱化の優先道路と指定しています。福島 無電柱化推進計画では「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され、わが国の風景や街並みの映像が世界に発信される機会が増加することが見込まれることから、センター・コア・エリア内の道路の無電柱化を推進する」とあり、選手村や競技会場周辺の幹線道路の無電柱化率を100%にする目標を掲げました。電柱と架線に遮られない東京スカイツリーや富士山などの景色を世界に見せるという狙いです。無電柱化すれば景観ががらりと改善するということです。 さらに近年ますます注目度の高まっているパラリンピックにも合わせて、障害者ら弱者に優しい街づくりをアピールすることにもなります。バリアフリーやユニバーサルデザインといった考え方は、1964年の前回の東京オリンピックの時代にはなかったものです。コスト、地上機器などの課題─無電柱化を推進するうえでの課題は何ですか?福島 電力線と通信線を地中化するのですが、その手法としては、歩道幅の広いところでは地下のコンクリート製ボックスにまとめて収納するキャブシステム、歩道幅が狭くなるにつれてコンパクト化して電力管と通信管の中にケーブルを敷設する電線共同溝方式、海外では古くから実施されているケーブルを直接埋設する方式、があります。課題の一番はやはり建設コストです。そのためコンパクト化を促進したり、より浅い所に埋めるなどの低コスト化の技術開発が進められています。さらに工事の長期化、地上機器であるトランス(変圧器)の設置スペースの確保、なども課題です。トランスの設置には地元の協力も不可欠で、民有地に設置する必要もでてきます。伝統的な街並みでは、看板や植栽などで目隠しをしてトランスを目立たなくする工夫で景観を守らなくてはいけません。 日本初の無電柱化は六麓荘─先生が無電柱化推進計画策定委員会の委員長を務めた芦屋市は、日本の無電柱化のトップランナーですね。福島 先頭を走っていますが、それでも無電柱化率は14~15%です。実は日本で最初に無電柱化を実現したのは1928年に開発された芦屋市の高級邸宅街・六麓荘でした。それが良質な住空間という市のイメージにつながった歴史もあり、無電柱化という街並みづくりに力を入れてきたのです。「住みたい街」としての魅力を高めて、人を集める市の生き残り戦略として景観形成基本計画(1996年)が作られ、屋外広告を厳しく規制する条例も実現し(2015年)、その仕上げと言えるのが無電柱化です。「広い空 ひろがる未来へ」というキャッチフレーズで市民の啓蒙も進めています。─オリンピックとパラリンピックは、無電柱化を含め新たな街づくりには大きなチャンスですね。福島 高速道路や新幹線など都市インフラの整備が最優先だった前回大会から半世紀以上を経て、日本の街づくりや都市計画のコンセプト自体が大きく変わっています。バリアフリーなどの人への優しさや良好な景観が「街の仕掛け」として見直され、都市計画の重要な要素になっています。新たなインフラ整備より、既存のものをいかにうまく利用するかということも求められていますが、背景には現在の都市計画で一番の問題の人口減少があります。高度成長期には人口が増えることを前提とした計画ばかりでした。しかし、それでできた都市インフラを維持管理することがだんだん難しくなっています。いずれにしてもオリンピックなどの国際的ビッグイベントは、都市空間のアメニティーを高め、都市整備の次のステップへの実験的アプローチの大きなきっかけになるのです。14August, 2019 | No.85 | FLOW出典:国土交通省ホームページ電線共同溝(イメージ)東京オリンピック・パラリンピックまでに無電柱化するエリア出典:東京都無電柱化推進計画(2014年)民地管路管路ケーブル(通信)ケーブル(電力)地上機器(トランス等)特殊部道路区域ろく ろく そうけい もう左 : 無電柱化のイベントで話す福島教授(中央) 右 : 無電柱化で開発された芦屋市高浜町の街並み=いずれも芦屋市提供凡例都道(無電柱化済)国道(無電柱化済)国道都道環状七号線(葛西・東海)競技会場予定地センター・コア・エリア柱倒壊による道路の寸断や停電をなくし、速やかな復旧作業ができるようになります。弱者に優しい街づくりをアピール─昨年の国土交通省「無電柱化推進計画」では、東京オリンピック・パラリンピック周辺を無電柱化の優先道路と指定しています。福島 無電柱化推進計画では「東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催され、わが国の風景や街並みの映像が世界に発信される機会が増加することが見込まれることから、センター・コア・エリア内の道路の無電柱化を推進する」とあり、選手村や競技会場周辺の幹線道路の無電柱化率を100%にする目標を掲げました。電柱と架線に遮られない東京スカイツリーや富士山などの景色を世界に見せるという狙いです。無電柱化すれば景観ががらりと改善するということです。 さらに近年ますます注目度の高まっているパラリンピックにも合わせて、障害者ら弱者に優しい街づくりをアピールすることにもなります。バリアフリーやユニバーサルデザインといった考え方は、1964年の前回の東京オリンピックの時代にはなかったものです。コスト、地上機器などの課題─無電柱化を推進するうえでの課題は何ですか?福島 電力線と通信線を地中化するのですが、その手法としては、歩道幅の広いところでは地下のコンクリート製ボックスにまとめて収納するキャブシステム、歩道幅が狭くなるにつれてコンパクト化して電力管と通信管の中にケーブルを敷設する電線共同溝方式、海外では古くから実施されているケーブルを直接埋設する方式、があります。課題の一番はやはり建設コストです。そのためコンパクト化を促進したり、より浅い所に埋めるなどの低コスト化の技術開発が進められています。さらに工事の長期化、地上機器であるトランス(変圧器)の設置スペースの確保、なども課題です。トランスの設置には地元の協力も不可欠で、民有地に設置する必要もでてきます。伝統的な街並みでは、看板や植栽などで目隠しをしてトランスを目立たなくする工夫で景観を守らなくてはいけません。 日本初の無電柱化は六麓荘─先生が無電柱化推進計画策定委員会の委員長を務めた芦屋市は、日本の無電柱化のトップランナーですね。福島 先頭を走っていますが、それでも無電柱化率は14~15%です。実は日本で最初に無電柱化を実現したのは1928年に開発された芦屋市の高級邸宅街・六麓荘でした。それが良質な住空間という市のイメージにつながった歴史もあり、無電柱化という街並みづくりに力を入れてきたのです。「住みたい街」としての魅力を高めて、人を集める市の生き残り戦略として景観形成基本計画(1996年)が作られ、屋外広告を厳しく規制する条例も実現し(2015年)、その仕上げと言えるのが無電柱化です。「広い空 ひろがる未来へ」というキャッチフレーズで市民の啓蒙も進めています。─オリンピックとパラリンピックは、無電柱化を含め新たな街づくりには大きなチャンスですね。福島 高速道路や新幹線など都市インフラの整備が最優先だった前回大会から半世紀以上を経て、日本の街づくりや都市計画のコンセプト自体が大きく変わっています。バリアフリーなどの人への優しさや良好な景観が「街の仕掛け」として見直され、都市計画の重要な要素になっています。新たなインフラ整備より、既存のものをいかにうまく利用するかということも求められていますが、背景には現在の都市計画で一番の問題の人口減少があります。高度成長期には人口が増えることを前提とした計画ばかりでした。しかし、それでできた都市インフラを維持管理することがだんだん難しくなっています。いずれにしてもオリンピックなどの国際的ビッグイベントは、都市空間のアメニティーを高め、都市整備の次のステップへの実験的アプローチの大きなきっかけになるのです。14August, 2019 | No.85 | FLOW出典:国土交通省ホームページ電線共同溝(イメージ)東京オリンピック・パラリンピックまでに無電柱化するエリア出典:東京都無電柱化推進計画(2014年)民地管路管路ケーブル(通信)ケーブル(電力)地上機器(トランス等)特殊部道路区域ろく ろく そうけい もう左 : 無電柱化のイベントで話す福島教授(中央) 右 : 無電柱化で開発された芦屋市高浜町の街並み=いずれも芦屋市提供凡例都道(無電柱化済)国道(無電柱化済)国道都道環状七号線(葛西・東海)競技会場予定地センター・コア・エリア
元のページ ../index.html#16