常翔学園 FLOW No.85
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 2016年に成立した無電柱化推進法に基づき国土交通省は昨年4月、全国約1400kmの道路の「無電柱化推進計画」(2018~20年度)を発表し、優先的に取り組む道路として東京オリンピック・パラリンピック会場周辺などを挙げました。日本では街中の電柱は当たり前の風景でしたが、世界の都市ではむしろ「電線は地中」が当たり前です。都市景観の向上だけでなく、災害時の障害除去という意味でも我が国の大きな課題です。無電柱化の先進自治体である兵庫県芦屋市の無電柱化推進計画策定委員会の委員長を務めた摂南大都市環境工学科の福島徹教授は都市計画や街づくりの専門家です。福島教授に無電柱化の意義や課題などを聞きました。─日本で無電柱化の動きはいつごろから始まったのですか?福島 明治維新以来、近代化を急いだ日本は時間とコストのかかる電線の地中化より電柱と架線の方式を優先、無電柱化は広がりませんでした。その結果、電柱が並び、架線が空を覆う風景が日本人には見慣れたものになってしまい、違和感を覚えなくなったのです。電柱は現在、全国に約3600万本あります。ようやく無電柱化推進に動き始めたのは、1986年に国が無電柱化の第1期計画を策定したころからでした。                   ─海外の都市では電柱と架線という風景は珍しいのですか?福島 世界主要都市の比較=グラフ=では、日本が極端に遅れていることが分かります。これには歴史的な経緯があります。ヨーロッパの例えば英国では、産業革命後に都市化が進む中、街灯を整備し始めましたが、当初、電灯とガス灯が併存し競っていました。ガスは当然地中を通るので、同じ競争環境で電線も地中化したのです。そのため初めから「電線は地中に」だったのです。さらに、欧米には公共空間のアメニティー(快適性)を重視する価値観があったことも背景にあります。これに対し日本では、「西欧列強に追いつけ」の時代で、経済の効率性を重視し、少しでも早く安く電気の需要に応えようとしたため、電線が張り巡らされることになりました。─電柱方式はそんなに安くて早いのですか?福島 コストでは電柱方式の方が地中化より10分の1から20分の1とされています。スピードも比べ物にならないほど早いです。─それでは無電柱化のメリットを教えてください。福島 ①良好な景観形成、②安全と快適性、③防災、の3点です。景観形成については、明治期から戦後の高度成長期までは経済優先で、都市の景観に目を向ける余裕はありませんでしたが、1980年代になり豊かになるにつれて、地方から「歴史的街並みをはじめ景観を大切にする」という価値観が評価されるようになり、京都市、金沢市、神戸市などが景観条例を制定しました。国による無電柱化は架線設備輻輳化の解消を主目的に始まりますが、こうした流れも受けて第1期から第2期へと計画が進められました。2つ目は歩道の通行の障害を取り除き、子供や車いすの高齢者、障害者が歩きやすくするということです。3つ目の防災は、台風や地震、竜巻、豪雪など災害時の電福島 徹 教授摂南大学 理工学部都市環境工学科近代化の経済優先で立ち遅れた日本の無電柱化東京五輪は推進加速の好機ふくしま・とおる ■1975年神戸大学工学部土木工学科卒。1977年同大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。同大助手、講師などを経て1991年同大総合情報処理センター助教授。1998年姫路工業大学(2004年から兵庫県立大学)環境人間学部教授。2017年から現職。2018年から摂南大学図書館長も兼務。姫路市都市計画審議会会長(2002年~18年)。尼崎市都市計画審議会会長(2008年~15年)。神戸市建設事業外部評価委員会会長(2013年~)。芦屋市無電柱化推進計画策定委員会委員長(2017年~18年)。学術博士 神戸大学。岡山県出身。国土交通省ホームページを参考に作成欧米やアジアの主要都市の無電柱化の現状ロンドン・パリ香港台北シンガポールソウルジャカルタ東京23区大阪市100%100%95%93%46%35%8%6%このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。13FLOW | No.85 | August, 2019ふく そう 2016年に成立した無電柱化推進法に基づき国土交通省は昨年4月、全国約1400kmの道路の「無電柱化推進計画」(2018~20年度)を発表し、優先的に取り組む道路として東京オリンピック・パラリンピック会場周辺などを挙げました。日本では街中の電柱は当たり前の風景でしたが、世界の都市ではむしろ「電線は地中」が当たり前です。都市景観の向上だけでなく、災害時の障害除去という意味でも我が国の大きな課題です。無電柱化の先進自治体である兵庫県芦屋市の無電柱化推進計画策定委員会の委員長を務めた摂南大都市環境工学科の福島徹教授は都市計画や街づくりの専門家です。福島教授に無電柱化の意義や課題などを聞きました。─日本で無電柱化の動きはいつごろから始まったのですか?福島 明治維新以来、近代化を急いだ日本は時間とコストのかかる電線の地中化より電柱と架線の方式を優先、無電柱化は広がりませんでした。その結果、電柱が並び、架線が空を覆う風景が日本人には見慣れたものになってしまい、違和感を覚えなくなったのです。電柱は現在、全国に約3600万本あります。ようやく無電柱化推進に動き始めたのは、1986年に国が無電柱化の第1期計画を策定したころからでした。                   ─海外の都市では電柱と架線という風景は珍しいのですか?福島 世界主要都市の比較=グラフ=では、日本が極端に遅れていることが分かります。これには歴史的な経緯があります。ヨーロッパの例えば英国では、産業革命後に都市化が進む中、街灯を整備し始めましたが、当初、電灯とガス灯が併存し競っていました。ガスは当然地中を通るので、同じ競争環境で電線も地中化したのです。そのため初めから「電線は地中に」だったのです。さらに、欧米には公共空間のアメニティー(快適性)を重視する価値観があったことも背景にあります。これに対し日本では、「西欧列強に追いつけ」の時代で、経済の効率性を重視し、少しでも早く安く電気の需要に応えようとしたため、電線が張り巡らされることになりました。─電柱方式はそんなに安くて早いのですか?福島 コストでは電柱方式の方が地中化より10分の1から20分の1とされています。スピードも比べ物にならないほど早いです。─それでは無電柱化のメリットを教えてください。福島 ①良好な景観形成、②安全と快適性、③防災、の3点です。景観形成については、明治期から戦後の高度成長期までは経済優先で、都市の景観に目を向ける余裕はありませんでしたが、1980年代になり豊かになるにつれて、地方から「歴史的街並みをはじめ景観を大切にする」という価値観が評価されるようになり、京都市、金沢市、神戸市などが景観条例を制定しました。国による無電柱化は架線設備輻輳化の解消を主目的に始まりますが、こうした流れも受けて第1期から第2期へと計画が進められました。2つ目は歩道の通行の障害を取り除き、子供や車いすの高齢者、障害者が歩きやすくするということです。3つ目の防災は、台風や地震、竜巻、豪雪など災害時の電福島 徹 教授摂南大学 理工学部都市環境工学科近代化の経済優先で立ち遅れた日本の無電柱化東京五輪は推進加速の好機ふくしま・とおる ■1975年神戸大学工学部土木工学科卒。1977年同大学院工学研究科土木工学専攻修士課程修了。同大助手、講師などを経て1991年同大総合情報処理センター助教授。1998年姫路工業大学(2004年から兵庫県立大学)環境人間学部教授。2017年から現職。2018年から摂南大学図書館長も兼務。姫路市都市計画審議会会長(2002年~18年)。尼崎市都市計画審議会会長(2008年~15年)。神戸市建設事業外部評価委員会会長(2013年~)。芦屋市無電柱化推進計画策定委員会委員長(2017年~18年)。学術博士 神戸大学。岡山県出身。国土交通省ホームページを参考に作成欧米やアジアの主要都市の無電柱化の現状ロンドン・パリ香港台北シンガポールソウルジャカルタ東京23区大阪市100%100%95%93%46%35%8%6%このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。13FLOW | No.85 | August, 2019ふく そう

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