常翔学園 FLOW No.85
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12August, 2019 | No.85 | FLOW広島国際大学 保健医療学部 診療放射線学科山本 めぐみ 助教 X線による血管の画像検査にAI(人工知能)を活用して、診断・治療の精度を上げようと山本助教が研究に取り組み始めたのは2014年のことでしたが、これまでにその成果が学会で複数回表彰され、革新的な研究として高い評価を受けています。 血管画像の撮影には、血管内に造影剤を投入して血管を浮かび上がらせた画像から、造影剤投入前の画像を“引き算”することで血管だけを鮮明にするDSA(デジタル差分血管造影法)という方法が一般的です。しかし、DSAには動きに弱いという難点があります。心臓などよく動く臓器では鮮明な血管画像が得にくいのです。そこで山本助教が着目したのが、ニューラルネットワークなどで注目され始めたAIの活用でした。AIに臓器の膨大な画像を学習させることで、動く臓器も認識して血管だけをより鮮明に浮かび上がらせることができると考えたのです。「パソコンのセッティングだけで半年かかりました」というほどのAIの素人だった山本助教は一念発起。「英語の論文を読んだり、研修会に参加したりしてAIを一から勉強しました」。やがてプログラミングも習得し、試行錯誤を重ねること2年。DSAに活用できる独自のプログラムを構築しました。 医療現場で使えるようになると、①検査で「20秒息を止めて」と言う必要がなくなり、高齢者の負担が軽減②造影剤投入前の撮影が不要になることで患者の被ばく量が減少③副作用のある造影剤の量の減少④放射線技師の画像修正の負担も軽減、など多くのメリットが期待できます。今は心臓以外に肝臓、脳も研究対象に広げ、実用化に向けて画像の精度を上げようとさらに臓器のデータを収集しAIに学習させるとともに、プログラムの改良に力を入れています。 臨床経験を増やし研究や教育に生かそうと東広島市内の病院で10年以上、非常勤の診療放射線技師として患者と向き合っています。「間違えると再撮影で被ばく量が増えるので、撮影は学会発表より緊張します」と言う山本助教。常に頭にあるのは「患者のために」です。AI活用のX線画像診断で患者の負担を減らしたい■やまもと・めぐみ 2003年広島国際大学保健医療学部診療放射線学科卒。2008年同大学院総合人間科学研究科医療工学専攻博士後期課程修了。同大助手を経て2011年より現職。2007年日本放射線技術学会技術新人賞。2008年日本医学物理学会学術大会大会長賞。2017年と2019年日本放射線技術学会総会学術大会BronzeAward。2017年同学会秋季学術大会優秀演題賞。博士(医療工学)。福岡県出身。開発したAI活用の診断画像を前に東広島キャンパスのX線実習室で続け、物語があふれる魅力的な地域です」。松尾芭蕉や現代の漫画も登場し、伝統行事なども紹介。写真や動画も豊富な、まさに時空を超えた新しい文学散歩です。「取材で車の運転を始め、休みのたびに川上村へ通っています」と笑います。 学部内のコラボレーションはこれだけでなく、「小倉百人一首学習アプリ」(情報システム学科・須永宏教授)や「源氏物語絵巻パズル」(同)などの学習支援ツール、「信貴山縁起絵巻データベース」(情報メディア学科・平山亮教授)や「VR伴大納言絵巻」(ネットワークデザイン学科・矢野浩二朗准教授)などの開発に参加。情報科学部ならではのネットワークの成果です。「崩し字をAIに学習させて昔の資料が簡単に読めるようになり、絵巻物をアニメーションにもできます。情報科学の力で古典文学の魅力をもっと広めたいです」と更なる取り組みに意欲的です。■よこやま・えり 2003年奈良女子大学文学部言語文化学科日本アジア言語文化学コース卒。2016年同大学院人間文化研究科比較文化学専攻博士後期課程修了。桃山学院大学学習支援センター勤務などを経て2016年より大阪工業大学特任講師、2019年より現職。博士(文学)。長崎県出身。小倉百人一首学習アプリと 常翔学園内3大学の教育系職員数は1027人で、そのうち女性は229人(2019年5月現在)で、22.3%の割合です。第3回「JOSHO FRONTIER─研究最前線─」では各大学の若手女性研究者を紹介します。日本古典文学、薬学、医療の各分野で新しい取り組みに挑戦する注目の3人です。「キラリ*Josho note」page29は、畑違いの金型作りに挑戦したグランプリでチームを銀賞に導いた大阪工大の生田圭亮さんと、人間くさい大阪を愛し、労働者の街「あいりん地区」の建築を卒業研究のテーマに取り組む摂南大の松葉理紗さんです。今回も常翔学園のキャンパスでキラリと輝く学生たちを紹介します。 自宅のあちこちにポップな絵を飾っていた父の影響もあって、「物心がついたときから絵の具を持っていました」と話す松葉さん。抽象画で有名なロシア出身の画家カンディンスキーが大好きで、「絵は何時間でも描いていられます」と話すだけあって、大阪市立工芸高3年の卒業制作で作った絵本は「毎日・DAS学生デザイン賞高校生の部 銀の卵賞」で入選。摂南大では美術部の部長も務め、大阪の「裏難波」の飲み屋街を描いた作品「味園ユニバース」で昨年の「摂大文化大賞」も受賞しました。好きな映画のロケ地巡りで訪れて目に留まった風景です。「空の紫色のグラデーションにこだわり」と1カ月かけて描いた力作です。 住環境デザイン学科入学当初は高校教諭を目指していましたが、学科で専門科目を学ぶうちに人間工学に基づく建築物や、熱、風、光などの自然に建築を調和させることの面白さに目覚め、本格的に建築の道に進むことを決めました。門真市や交野市との公共建築協働事業にも参加し、自分の考えが実際の形になっていくことの楽しさに気付きます。市幹部らの前でプレゼンテーションを行ったり、テレビ取材のインタビューにも答えたりするなど、研究室の“スポークスウーマン”的役割も務めました。高校1年から地元大阪市西成で続けるファーストフード店のアルバイトで鍛えたコミュニケーション能力のたまものです。 卒業研究のテーマは、その西成の「あいりん地区」で働く人たちの生きがい創出のための建物や芸術活動の場所の研究。戦後日本の高度経済成長を支えてきた労働者の街ですが、労働者の高齢化が進んでいる地区の現状を目の当たりにし、「22年間西成に住んでいるのに何も知りませんでした。自分が学んだことを地元に還元したい」と自身の研究の集大成にすることを決意しました。「建物がただの『箱』になってしまわないように、使う人のことを考えて設計をしたい」と常に人の気持ちになって図面を引きます。 卒業後は「大学院へ進み、建築会社で経験を積んだ後は自分の設計事務所を開きたいです」と将来の夢を語る松葉さん。思いやりにあふれた創作意欲と地元大阪愛がキラリ光ります。卒業研究は「あいりん地区」摂南大学 住環境デザイン学科4年松葉 理紗 さんまつば・りさ摂大文化大賞を受賞した作品「味園ユニバース」を手に門真市幹部らに提案プレゼンテーションを行う松葉さん原点は幼いころからの絵人に寄り添った建築家に16August, 2019 | No.85 | FLOW

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