常翔学園 FLOW No.84
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これが当時の大阪府箕面村(現・箕面市)の桜ケ丘の住宅改造博につながりました。また、関東大震災(1923年)や室戸台風(1934年)を身近に体験したこともあり、防災にも関心を持ち、「災害に強い都市を」とも訴えました。第二次世界大戦前に焼夷弾の恐ろしさを理解し「落とされたら大阪が壊滅する」とも予見していました。こうした片岡の先見性の根底には、建築のことだけでなく常に人間のことを考える姿勢がありました。画家たちをも魅了した「100年建築」― 今も関西周辺には片岡が設計にかかわった建築物が数多く残っています。片岡が大阪、ひいては日本の近代建築に残した功績を建築物という“モノ”を例にお話しください。吉村 片岡建築に共通するのは意匠などの文化的側面だけでなく、防災を重視して丈夫に造ることを大前提にしていることです。災害の体験から、耐震、耐火にうるさかったのです。例えば片岡が設計し今も兵庫県芦屋市に残る仏教会館(1927年~)は、阪神・淡路大震災(1995年)でも被害が非常に少なかったのです。周辺にあった近代建築物が軒並み倒壊した中で残ったのです。片岡建築を見ると、「残したい」という強い思いを感じます。物理的にも文化的にも片岡建築は「100年建築」と言えるものです。松浦 片岡建築はさまざま残っていますが、特に大大阪時代の象徴である中之島地域の景観と片岡建築は切り離せません。当時から中之島は洗練されたモダンな空間でした。欧米、特にパリのシテ島を常に人間のことを考える姿勢― 建築家、都市計画家、教育者、経済人、市長など多彩な顔を持つ片岡ですが、お二人は歴史家と建築家で、教育者でもあります。改めて片岡の先見性をどう評価されますか? 松浦 昨年7月に大阪くらしの今昔館で開催した「大大阪モダニズム 片岡安の仕事と都市の文化」に吉村先生とともにかかわったのですが、片岡が総合的な見地で100年先の大阪を見据えていた人物だったということを再認識する機会になりました。中之島の中央公会堂100周年を記念した展覧会でもありましたが、当時は大阪が東京を抜いて日本一の人口になった「大大阪」と言われた時代です。中央公会堂は実施設計をしたのが片岡でしたが、片岡がかかわった建築や都市づくりを見ると、学園の建学の精神にある「世のため、人のため、地域のために理論に裏付けられた実践的技術を」という主旨を体現していると実感します。吉村 片岡はまず都市に大きな関心を持っていました。当時、ニューヨークやロンドンなど世界の大都市では10年ごとに100万人の割合で人口が増え都市問題が起きていました。大阪も人口が急増し、市域が膨張していたのに、さまざまな問題に対処する法律すらありませんでした。片岡は当時の東京市にだけあった建築規則を大阪など6大都市にも準用するように内務省に働きかけ、すぐに都市計画法が生まれました。次に住宅問題も重視しました。庶民の不満が暴動に発展した1918年の米騒動の起きる前に、「都市に住む庶民の良好な住宅地を整備するべきだ」と主張していたのです。 常翔学園は2022年10月に創立100周年を迎えます。大正、昭和、平成、令和と4つの時代を通じて戦争や災害をはじめ大小さまざまな波を乗り越えて成長、現在に至ります。学園の起源である関西工学専修学校が、産業の発展を支える中堅的工学技術者養成の目的で設立されたように、その100年はモノづくりで大阪、さらには日本を支え続けてきた歴史でもあります。そんな学園の100年を今に残されたさまざまな“モノ”を証人に振り返っていきます。 第1回は特別企画として学園初代校長で日本の近代建築・都市計画のパイオニアでもあった片岡安の夢見たことを大阪に残された建築などの“モノ”を手掛かりに、常翔歴史館新館長に就任した松浦清・大阪工業大学工学部総合人間学系教室教授と片岡建築にも詳しい吉村英祐・建築学科教授のお二人に振り返ってもらいます。 進行役は西田太郎・広報室長兼創立100周年記念事業事務室長特別対談05FLOW | No.84 | May, 2019防災都市、街並み景観、人材育成大阪の基礎作りで花開いた先見性松浦 清常翔歴史館館長大阪工業大学工学部総合人間学系教室教授吉村 英祐大阪工業大学工学部建築学科教授まつうら・きよし 1987年東北大学大学院文学研究科美学・美術史学専攻修士課程修了。大阪市立博物館学芸員などを経て、2001年大阪歴史博物館学芸課係長。2004年大阪工業大学知的財産学部助教授。2012年同工学部総合人間学系教室准教授。2017年同教授。2019年常翔歴史館館長を兼務。よしむら・ひでまさ 1980年大阪大学大学院工学研究科建築工学専攻修士課程修了。小河建築設計事務所勤務を経て、1993年大阪大学助教授。2000年同大学院工学研究科助教授。2007年大阪工業大学工学部建築学科教授。2007年日本建築学会賞(論文)。日本建築学会各種委員を歴任。博士(工学)大阪大学。大阪工業大学梅田キャンパス・OIT梅田タワー21階から大阪の街並みを眺める松浦館長(左)と吉村教授×| 片岡安の描いた夢は100年でどこまで実現したのか| 「常翔年“モノ”語り」学園センテニアル企画centennial117FLOW | No.84 | May, 2019GAKUEN NEWS 学園は4月1日付で役職者の人事を発令しました。役職名と氏名は次の通りです。 大阪工業大学●工学部長兼工学研究科長 益山 新樹●ロボティクス&デザイン工学部長兼ロボティクス& デザイン工学研究科長 大須賀 美恵子(再任)●情報科学部長兼情報科学研究科長  佐野 睦夫(再任)●知的財産研究科長 小林 昭寛(再任)●教務部長 井上 晋●学生部長 岡山 敏哉(再任)●図書館長 芦高 恵美子 摂南大学●副学長(人事・大学マネジメント担当)  八木 俊策(再任)●外国語学部長兼国際言語文化研究科長  西川 眞由美(再任)●経営学部長 佐井 英子 広島国際大学●看護学部長兼看護学研究科長 山崎 登志子●保健医療学部長兼医療・福祉科学研究科長  清水 壽一郎(再任)●心理科学研究科長 田形 修一(再任)●薬学部長兼薬学研究科長 宇根 瑞穂(再任)●総合リハビリテーション学部長 山岡 薫(再任)●医療福祉学部長 久保田 トミ子(再任)●心理学部長 田中 秀樹(再任)●教務部長 笛吹 修治(再任)●学生部長 堀 隆光(再任) 常翔学園中学校・高等学校●高校教頭 田代 浩和(再任)●中学教頭兼高校教頭(一貫コース担当) 大谷 保(再任)●中学教頭兼高校教頭(入試広報・渉外担当) 根来 和弘●教務部長 佐々木 恵●生徒指導部長 北村 雄二(再任)●進路指導部長 白須賀 恒彦(再任)●入試部長 池田 弘●教育イノベーションセンター長 田代 浩和●保健主事 禅定 佳隆(再任) 常翔啓光学園中学校・高等学校●教務部長 松本 絵美 事務 ( )内は前職●法人室長<部長待遇>兼連携教育推進機構部長 (法人室長<部長待遇>) 佐藤 等●広報室長<部長待遇>兼創立100周年記念事業 事務室長<部長待遇>(広報室長<部長待遇>)  西田 太郎●総務部長兼働き方改革推進室長<部長待遇>(総務 部長) 吉井 克彦●摂南大枚方事務室長<部長待遇>(大阪工大工学 部事務室長) 森本 芳弘 大阪工大、摂南大、広島国際大の教育系職員の昇任が4月1日付で発令され、15人が教授に昇任しました。 大阪工業大学●日置 和昭(都市デザイン工学科)●吉田 準史(機械工学科)●重弘 裕二(電気電子システム工学科) 摂南大学●堀江 昌朗(機械工学科)●長島 健(基礎理工学機構)●尾崎 清和(薬学科)●中沼 丈晃(法律学科)●岸田 未来(経済学科)●野村 佳子(同)●池田 友美(看護学科)●森谷 利香(同) 広島国際大学●服部 宏治(医療技術学科)●児玉 頼光(薬学科)●木村 要子(医療栄養学科)●北村 万由美(助産学専攻科) 学園は寄附行為に基づき、2019年3月26日開催の理事会で古山正雄氏を顧問に再任しました。任期は2019年4月1日~2020年3月31日。■ 名誉教授■ 役職任命■ 教授昇任■ 顧問 学園は4月1日付で大阪工大の2教授、摂南大の2教授、広島国際大の3教授に、名誉教授の称号を授与しました。●85年4月大阪工業大学講師。助教授を経て96年4月教授。工学博士。一森 哲男(いちもり・てつお)●90年4月大阪工業大学講師。助教授を経て04年4月教授。髙見 保則(たかみ・やすのり)●93年4月摂南大学助教授。06年4月教授。外国語学部長兼国際言語文化研究科長を務める。博士(学術)。岩間 香(いわま・かおり)●11年4月摂南大学客員教授。12年4月特任教授。看護学部長兼看護学研究科長などを務める。後閑 容子(ごかん・ようこ)●07年4月広島国際大学教授。保健医療学部長、医療・福祉科学研究科長を務める。博士(工学)。熊谷 孝三(くまがい・こうぞう)●03年4月広島国際大学教授。総合リハビリテーション学部長兼医療・福祉科学研究科長などを務める。医学博士。南山 求(みなみやま・もとむ)●98年4月広島国際大学教授。図書館長を務める。白髪 昌世(しらが・まさとし)古山 正雄(ふるやま・まさお)<前>●京都大学工学部建築学科卒。東京大学大学院工学系研究科博士課程修了。国立大学法人京都工芸繊維大学理事・副学長などを経て、同大学長を務める。18年4月顧問。工学博士。大阪工業大学広島国際大学摂南大学協定書を手にする久禮理事長(左)と草島葉子興國学園理事長・興國高校長学校法人興國学園と包括連携協定を締結 高校教育・大学教育を活性化 学園は3月29日、学校法人興國学園(大阪市天王寺区)と包括連携協定を締結しました。同法人が運営する興國高は、創立93周年を迎えた私立の男子校で医歯薬系大学や難関国公立大への現役合格を目指すコースやトップアスリートと有名大学進学を目指すコースを設置するなど、多彩な教育プログラムを展開しています。両法人は学生、生徒、教職員の交流、施設・設備の相互利用、授業や各種講座への受け入れや単位認定などにおいて連携・協力を行います。調印式には、久禮哲郎理事長をはじめ西村泰志大阪工大学長、八木紀一郎摂南大学長らが出席。5月9日には、同校の髙橋亮進学指導部長らが広島国際大を訪問し、実習室やスポーツ施設などを見学しました。

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