常翔学園 FLOW No.84
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意識して整備されたものですが、その景観に触発されて小出楢重、池田遙邨、佐伯祐三、国枝金三ら多くの画家が作品を描きました。それらを見ると「これが大阪か」「まるでヨーロッパの街だ」と錯覚するような風景です。画家たちが描きたくなるような街づくりを片岡はやったのです。― 今年は日本に都市計画制度が成立してちょうど100年です。片岡はその黎明期の都市計画の分野でも大きな役割を果たしました。大阪の街並みの景観などにも片岡の考え方が反映していると言われますね。吉村 片岡は道路の大切さも分かっていました。大阪の「100年の計」を見通して、当時の関一市長とともに御堂筋を拡幅整備しました。そのころの大阪市のメイン・ストリートは堺筋でしたが、道幅が不十分で「これからの大阪発展には道幅43mの道路が必要」と考えたのです。当然「飛行場でも作るのか」と大きな反対に遭いました。それほどの先見性を持っていたのです。これは地下鉄御堂筋線の淀屋橋駅の長さを見ても分かります。地下鉄開業当時の1両編成の車両には長すぎるプラットホームですが、現在の10両編成にはちょうどいい。また、御堂筋の両側に建つ建物は軒高100尺(30.3m)で揃うように整備されましたが、これは片岡が制定にかかわった市街地建築物法の施行令に定められた絶対高さ制限によるものです。結果としてヨーロッパのような美しい街並みが実現しました。御堂筋の整備は片岡の都市計画家としての満足感からではなく、「大阪の真の発展のために」という強い信念がありました。信念を実現する政治力や人脈、さらに何よりも情熱を持っていたのです。片岡がいなければ大阪はどうなっていたのか、と思います。― 片岡は建築や都市計画において、防災や耐震をどう考えていたのですか?吉村 片岡は関東大震災に強く影響されて、耐震・耐火建築について自分が組織した日本建築協会の会誌「建築と社会」に何度も寄稿し警鐘を鳴らしました。当時の建築家としては異例です。「災害のたびに建築物が壊れていたら、文化も蓄積できない」ということをしばしば訴えています。芦屋の仏教会館には今の免振装置のような工夫がされているという情報もあります。とにかくこれから何が必要かを見抜く力の凄さに驚きます。松浦 片岡が書いたわが国初の都市計画の専門書「現代都市之研究」(1916)がありますが、そこで日本が欧米から遅れていた都市改造の必要性を明確に述べています。単に1つの建物や1本の道路の話ではなく、防災なども含めた広い視野で都市を見据えています。ちなみに関東大震災では作家の谷崎潤一郎が芦屋に移住するなど、阪神間に洗練された文化が生まれるきっかけにもなりました。「阪神間モダニズム」と言われますが、それが成立するのは、片岡らがかかわった「大大阪モダニズム」があったからです。生き続ける建学の精神― 片岡は都市計画という未来を夢見ることに長けた人物だったとも言えます。未来を担う工学人材を養成するために関西工学専修学校も作りました。この100年で片岡が夢見たことはどこまで実現したと言えますか?松浦 片岡が目指したものは普遍性のある基本的なことです。中央公会堂の実施設計を担ったように、現場で技術を使って現実を動かしていくための基礎力を重視しました。片岡の仕事には基礎の重要性が表れています。まさに建学の精神にある「理論に裏付けられた実践的技術」です。これは大大阪時代以来、大阪の発展を支えてきた精神で、今後も100年を超えてずっと受け継がれていくものだと思います。吉村 当時は建築現場に技術の分かる人材が不足していました。発展する大阪では切実な問題で関西工学専修学校の開設につながりました。その若い学生たちに常に言っていたことは「社会に出てからも勉強を怠るな」ということでした。また片岡事務所で設計した建物の建築現場では、手抜きを一切許しませんでした。特に見えない所の基礎工事にはうるさかったと言います。教育と同じで基礎を重視したのです。建学の精神の通りに「なぜこう作るのか」という理論を重視しました。現場の大切さは100年の時代を超えて普遍の真理ですね。片岡は戦後すぐの1946年に亡くなりましたが、焼け野原になった大阪を「さあこれからリセットしよう」という時で、さぞかし無念だったに違いありません。その後、高度成長時代にはルールが追い付かずに、片岡の理想から離れた密集市街地があちこちに生まれてしまいました。片岡が夢見たことの多くは現代に花開いています。もし今も生きていたら、また新しいことを夢見ていたに違いありません。06May, 2019 | No.84 | FLOW芦屋の仏教会館片岡の都市改造の遺産と言える現在の御堂筋の街並み1937年に完成した御堂筋 = 大阪歴史博物館提供【片岡 安】かたおか・やすし 1876年石川県生まれ。1897年東京帝国大学工科大(現東京大学)建築学科卒業。1903年建築界の重鎮、辰野金吾と辰野片岡建築事務所開設。1919年日本で初めて都市計画に関する論文で工学博士。代表的な作品に「第三十四銀行本店」「奈良ホテル」「大阪中央公会堂(実施設計)」「都ホテル」など。大阪商工会議所会頭、日本建築協会理事長、大阪工業会理事長、 京都帝国大工学部講師、金沢市長などを歴任。日本の都市計画のパイオニア。 1946年死去常翔歴史館に史料のご提供を…………………………………松浦館長 “モノ”で歴史を語るのが常翔歴史館の使命です。そこで学園創立100周年に向けて大学・学校、ご自宅のどこかに眠る史料のご提供をお願いします。古いものを廃棄処分にしようという時も、安易に捨てないで一度それが史料にならないか考えてください。特に貴重なものでもなく、昔はありふれたものだったとしても貴重な歴史の“証人”になる場合があります。もし気になるものがあればぜひ常翔歴史館までご一報ください。☎ 06-6955-7762 e-mail:Rekishikan@josho.ac.jp〒535-8585 大阪市旭区大宮5丁目16-118May, 2019 | No.84 | FLOW 14 収入の部◆学生生徒等納付金収入(292億円)学生生徒数は、大阪工大・摂南大・常翔啓光学園中が増加、広島国際大・常翔学園中高・常翔啓光学園高が減少する見込みにより計上しました。◆寄付金収入(7億円)学園創立100周年記念募金として5億円を新規計上しました。◆資産売却収入(339億円)摂南大枚方キャンパスの土地の一部及び広島国際大広島キャンパスの売却による施設売却収入を新規計上しました。支出の部◆人件費支出(204億円)教員人件費支出138億円、職員人件費支出55億円、退職金支出9億円などを計上しました。◆教育研究経費支出(90億円)大阪工大大宮キャンパス6・7号館空調設備更新工事、摂南大寝屋川キャンパス総合体育館特定天井改修工事などにより施設保守修繕費支出を14億円計上しました。そのほか、広島国際大2キャンパス整備事業で、消耗品費、通信運搬費支出などを新規計上しました。◆管理経費支出(26億円)摂南大で農学部設置関係事業として消耗品費、報酬・委託・手数料支出などを新規計上しました。■ 資金収支予算書■ 資金収支予算書の概要収 入 の 部■ 事業活動収支予算書■ 主な施設・設備整備計画科 目学生生徒等納付金収入手数料収入寄付金収入補助金収入資産売却収入付随事業・収益事業収入受取利息・配当金収入雑収入借入金等収入前受金収入その他の収入資金収入調整勘定前年度繰越支払資金合 計金 額292 11 7 42 339 10 8 8 47 55 130 △ 53 130 1,026 前年度補正予算差異1 0 4 0 40 0 0 △ 4 0 4 68 4 △ 16 101 9 11 △ 76 △ 65 △ 297 0 △ 362 0 20 △ 38 △ 18 △ 47 0 △ 65 科 目人件費支出教育研究経費支出管理経費支出借入金等利息支出借入金等返済支出施設関係支出設備関係支出資産運用支出その他の支出予備費資金支出調整勘定翌年度繰越支払資金合 計金 額20490 26 0 42 94 40 369 21 14 △ 5 130 1,026 前年度補正予算差異△ 3 △ 2 0 0 9 29 25 43 △ 11 2 7 0 101 (単位:億円)※単位未満は四捨五入のため、合計が一致しない場合があります。※単位未満は四捨五入のため、合計が一致しない場合があります。支 出 の 部収 入 の 部教育活動収支科 目学生生徒等納付金手数料寄付金 経常費等補助金付随事業収入雑収入合 計収支差額金 額292 11 6 42 10 8 368 △ 4 前年度補正予算差異1 0 3 2 0 △ 4 3 7  科 目人件費教育研究経費管理経費徴収不能額等 合 計金 額201 139 33 0 372 前年度補正予算差異△ 3 △ 2 1 0 △ 4 (単位:億円)支 出 の 部 資金収支予算書とは、その年度における教育研究などの諸活動に対応するすべての収入と支出の内容及び支払資金(現金及びいつでも引き出すことができる預貯金)の収支を明らかにするものです。学園の2019年度予算が、3月26日開催の理事会で可決、成立しました。概要は以下の通りです。教育活動外収支0 0 0 0 特別収支資産売却差額その他の特別収入合 計収支差額14 2 16 16 13 △ 1 12 14 資産処分差額その他の特別支出 合 計0 0 0 △ 2 0 △ 2 事業活動支出計事業活動収入計382 △ 6 393 2019年度予算の概要予 備 費基本金組入前当年度収支差額基本金組入額合計当年度収支差額前年度繰越収支差額基本金取崩額翌年度繰越収支差額受取利息・配当金合 計収支差額8 8 8 0 0 △ 1 経常収支差額4 7 借入金等利息 合 計解説事業活動収支予算書とは、1年間の経常的収支である教育活動、教育活動外と臨時的な収支である特別活動の3つの区分に対応する事業活動収入と事業活動支出の内容を明らかにするとともに、基本金に組み入れる額を控除した事業活動収入と事業活動支出の均衡の状態を明らかにするものです。▼大阪工大大宮キャンパス新4号館新築工事▼摂南大枚方キャンパス農学部棟新築工事▼広島国際大東広島キャンパス健康増進センター新築工事▼常翔学園中高東館・第2部室センター建替工事◆教育活動収支(△4億円)経常的な収支のうち、教育・研究活動による収支です。収入は、学生生徒等納付金、手数料、寄付金、経常費等補助金などで368億円となりました。支出は、人件費、教育研究経費、管理経費で372億円となり4億円の支出超過となりました。◆教育活動外収支(8億円)経常的な収支のうち、財務活動による収支です。受取利息・配当金で8億円を計上しました。◆経常収支差額(4億円)「教育活動収支差額」と「教育活動外収支差額」の合計は、4億円の収入超過となりました。◆特別収支(16億円)資産の売却や処分などの臨時的な収支です。資産売却差額は、上表(資金収入の部「資産売却収入」)に記載の不動産売却による益(帳簿価額と売却価額との差)を計上しました。資産処分差額は、建物、構築物、教育研究・管理用機器備品、図書の処分差額を計上しました。◆基本金組入前当年度収支差額(11億円)「教育活動収支」「教育活動外収支」「特別収支」の合計に予備費を加えた結果、11億円の収入超過となりました。◆主な基本金組入額<第1号基本金>(△73億円)▼大阪工大枚方キャンパス体育館耐震改修工事▼摂南大寝屋川キャンパス8号館耐震補強工事▼摂南大枚方キャンパス農学部棟新築工事▼大阪工大梅田キャンパス建設工事(借入金返済額)◆当年度収支差額(△65億円)基本金組入れの結果、65億円の支出超過となりました。■ 事業活動収支予算書の概要施 設▼法人本部新財務会計システム導入▼摂南大教育研究用システム更新▼摂南大枚方キャンパス農学部棟設置備品▼広島国際大改組設置関係備品▼広島国際大呉キャンパス教育会館設置備品設 備解説

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