常翔学園 FLOW No.84
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べたと甘えを示してくる子どもなどに出会い、「どう対応していいか分らない」という声が多かったのです。その戸惑いから「あまりかかわりたくない」などの否定的感情が生まれ、そんなことを思う自分自身への嫌悪感に悩む看護師すらいて深刻な問題と認識しました。そこでそうした看護師をサポートするために2015年に看護師向けに児童虐待に対応するためのガイドラインを作成し、冊子としてまとめました。 冊子には、虐待リスクを判断するためのチェックシート(「家族の背景」「子どもの特徴・言動」「家族の言動・養育態度」「親子関係」「支援状況」ごとに複数項目)、親や子どもに対する具体的ケアの方法、看護師が悩みを抱え込まないためのアドバイス、外部機関との連携方法などを掲載し、小児病棟の看護師の研修などに活用しています。被虐待児ケアに大切な「育て直し」 虐待された子どもにはいくつかの特徴があります。身体的虐待を受けた子どもはもちろん不自然な外傷がありますが、その他にオドオドしたり、すぐに「ごめんなさい」と謝るなどの態度が見られます。また、暴力などの問題行動を起こしたり、見知らぬ大人にべたべたと甘える無差別的愛着行動を示す子どももいます。ネグレクトで栄養不足の子どもは、調べても疾患が見つからず、食事やミルクを与えると急に体重が増える「キャッチ・アップ現象」がよく見られます。しかも、これらの虐待は重複していることも多いのです。看護師はこれらの子どもの特徴や、子どもより自分のことを優先しがちな親の態度、親子関係の様子などから虐待のリスクを判断しなければいけません。 病棟で看護師が虐待を疑った場合、医師や看護師長に報告し、カンファレンスで情報を共有します。他のスタッフの情報も加え、虐待リスクの程度を総合判断します。判断のアセスメントシートを用意したり、虐待対応委員会という組織を設置している病院も多くなっています。委員会にはベテランの医師や看護師、ソーシャルワーカー、心理士などが加わります。看護師が一人で問題を抱え込むことなく、病棟全体で虐待への対応をして認識を高めることが大事なのです。 被虐待児童のケアで最優先はその命を守るということで、命の危険があると判断すれば、親から分離し入院という形で保護します。虐待を受けた子どもは身体だけでなく心にも大きな傷を負っています。そのために大切なのは子どもの基本的信頼感を育むことです。赤ちゃんは泣けばミルクをもらえ、抱っこされ、おむつを替えてもらうことなどを通して、親との信頼感、ひいては社会への信頼感、自分に対する肯定感(自分はこの世に存在してもいいという感覚)を育んでいきます。被虐待児童の多くはこの基本的信頼感を形成するべき時期に身体や言葉の暴力を受けるのです。それが続けば人格形成に悪影響が出てしまいます。だから被虐待児童のケアではこの基本的信頼感を取り戻す「育て直し」を重視します。期待の法改正、急務の施設整備 体罰禁止が児童虐待防止法に明記されることの意味は、医療現場では大きいです。これまでなら「しつけだ」と言われて親権や懲戒権を盾にされて踏み込めなかった場合も、「暴力は法律で禁止されているので暴力を使わない方法で子育てをしましょう」と親を説得できるようになるからです。看護師だけでなく教師や保育士たちの葛藤も小さくなるはずです。体罰を法律で禁止した国は世界で54カ国ありますが、虐待が減少したというデータがその内の多くの国で示されています。 また、今後の課題の1つが虐待を受けた子どもの受け皿不足です。親から分離された子どもが生活する場である一時保護所、乳児院、児童養護施設が満杯です。里親制度も進んでいない日本では、行き場のない子どもたちが病院に入院し続ける「社会的入院」という実態があります。厚生労働省の調査で、昨年親から虐待を受けた疑いがあり入院した子どものうち、治療が終わっても受け入れ先が見つからないなどの理由で退院できなかった子どもが399人いたことが判明しています。特別な家庭の出来事ではない 虐待は特別な親や家庭が起こす出来事ではありません。どんな親でもストレスが高まれば起こすリスクを持っており、虐待する親とそうでない親の明確な境界線はありません。自分が虐待していると認める親は少なく、「しつけだ」と言われればそれ以上踏み込みにくいのが医療現場の現実でした。しかも医療機関は捜査機関ではありません。子どもの命を守ると同時に、親や家族に寄り添う支援者でもあるのです。親との対立が深まり敵対視されては病院を出て行ってしまい、つながりが切れて、かえって子どもを危険な状態に追い込むことになりかねないのです。入院や受診を家族が示しているSOSと捉え、「虐待家族の発見」から「要支援家族の支援」へと意識の転換をする必要があります。08May, 2019 | No.84 | FLOW子ども虐待発生要因愛着形成不全子どもの発達子どもの特徴子どもの受容の問題親の生育歴親の性格・問題夫婦関係仕事・経済的問題援助者がいない・孤立ストレスの多い子育て虐待出典:大阪府 「 医療機関における子ども虐待予防・早期発見・初期対応の視点 .2012」Belskyのペアレンティングモデル(1984)を改変《子ども虐待の重症度判定の目安》※2歳以下の乳幼児は、より慎重に重症度を判定する。最重度身体的ネグレクト性虐待身体的ネグレクト心理的身体的ネグレクト身体・ネグレクトネグレクト頭部・腹部意図的外傷の可能性 意図的窒息の可能性 心中企図脱水症状や低栄養で衰弱 重度の急性・慢性疾患等を放置(障害児の受容拒否に注意)性的行動化・性器外傷・性虐待の告白(性虐待の対応は、原則分離保護)医療を必要とする外傷 外傷の重症度は高くないが、子どもが執拗に傷つけられている(器質的疾患によらない)著明な成長障害・発達の遅れ 家に監禁(登校禁止)必要な衣食住が保障されていない家庭内DVあり 顕著なきょうだい間差別 暴言・罵倒・脅迫長期にわたり情緒的ケアを受けていない大人の監護がない状況で長時間放置生活環境・育児条件が極めて不良で改善が望めない子どもに医療ケアを要する精神症状外傷を負う可能性のある暴力を受けている外傷にならない暴力 子どもへの健康問題を起こすほどではないネグレクト重 度軽 度中等度「キラリ*Josho note」page28は、幼いころから親しんだ釣りでビジネスを起業しようと準備を進める摂南大の尾後幹太さんと、弓道で培った集中力を武器にがん早期発見のプロフェッショナルを目指す広島国際大の木嶋仁美さんです。今回も常翔学園のキャンパスでキラリと輝く学生たちを紹介します。 「人のために働きたい」と医療職を考えていた木嶋さんが、自分に向いていると感じたのが、血液や細胞を検査してその人が何の病気かを見極める臨床検査技師でした。コツコツと緻密で正確な検査を行うクールなイメージに憧れて進学した広島国際大での勉強は、「イメージ通りで楽しいです」と話します。授業は講義のほか学内演習も充実していて、1つの病気を明らかにするために血液や細胞・微生物検査、超音波検査、画像解析など2000種類以上もあるアプローチ方法を学んでいます。「病原菌の種類が膨大で覚えるのが大変ですが、顕微鏡で細胞の正常と異常の微妙な違いを見極めるのは得意です」と話す木嶋さんは、がん細胞の早期発見を専門に行う細胞検査士の資格を取るため養成コースのある大学院進学を目指しています。臨床検査技師の国家試験に加えて大学院の入試対策と大変ですが、ゼミ仲間と切磋琢磨しながら勉強に励む毎日です。「朝からゼミ室にこもって、気が付くと夜の11時になっています」と笑います。 顕微鏡で根気よく細胞の異常を見つけ出すその集中力は、高校入学と同時に始めた弓道を通して身につけたものでもあります。幼いころから空手を習い黒帯を取得するなど、武道に親しんできた木嶋さんは、弓道を始めるとすぐに頭角を現し、高校2年で広島県大会で個人優勝し、インターハイへの出場を果たしました。広島国際大弓道部では主将を務め、部員の指導に当たりながら、自らも3年時に県予選を突破しインカレに出場しました。部員では唯一、三段の段位も取得しています。「的の位置は変わらないのに、自分の心身の状態のほんのわずかな違いで当たるか当たらないかが決まるのが面白い」と言う木嶋さん。「おかげで大切な試験の時も、緊張をコントロールできるようになりました」と振り返ります。 将来は大学院で細胞検査士の資格を取得し、がん専門病棟で経験を積みながらがん早期発見のプロフェッショナルを目指します。アイドルグループ「嵐」の大ファンの木嶋さん。弓の的に対峙するように、人生の目標を見据える真っすぐな目が「空にキラリ輝く星」のようです。がん早期発見のプロを目指す広島国際大学 医療技術学科4年木嶋 仁美 さんきじま・ひとみ弓道場で弓道で培った集中力で理想の臨床検査技師に16May, 2019 | No.84 | FLOW

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