です。これらの特徴から、さまざまなサービスやビジネスの出現が期待されます。無人タクシーや無人バスなどのスマート移動サービス、倉庫の無人管理や無人物流サービス、スマート農業、遠隔医療、遠隔監視や遠隔認証、スマート金融などあらゆる産業に及びます。数万人の観客に同時に映像配信テロ容疑者の特定にも威力― 来年の東京オリンピック・パラリンピックも5Gでこれまでの大 会から大きく変わりますね。村川 確実に映像配信や会場監視で活用されるでしょう。競技場での4Kや8Kの超高精細映像配信が可能となり、数万人の観客のそれぞれの端末に同時に何種類もの映像を送ることができます。数百台のカメラやドローンをつなげてあらゆる方向からの映像が送れるので、得点やゴールの決定的シーンを多角的に見られるし、マラソンなどではGPS(全地球測位システム)と組み合わせるなど、関連情報を付加して配信することもできます。競技やゲームの楽しみ方が大きく変わるはずです。 観戦とともに会場でのセキュリティー確保にも大きな効果が期待されます。近年の国際的なスポーツイベントではテロの脅威がどんどん高まっています。5Gは顔認証や危険物検出などで大きな力を発揮します。例えばテロ容疑者や危険人物のデータを世界中の捜査機関と瞬時に連携でき、怪しい人物が空港に降り立った時から監視カメラで会場まで追尾し続けることもできます。スタジアムの何万人もの観客から顔認証でテロ容疑者を見つけ出すことも不可能ではないでしょう。監視社会の到来という別の問題はありますが、東京オリンピック・パラリンピックが5Gの最大のデモンストレーションの舞台になるのは間違いありません。存在感を増す中国企業― 大きなビジネス利益を生むのが間違いないだけに、5G開発を 巡る世界的な競争が激しいです。村川 技術開発競争でしのぎを削っている中心は欧米と中国、韓国、日本です。無線技術に関して、特許出願数からみると中国のファーウェイやZTE、韓国のサムスン、米国のクアルコムなどが多い状況です。日本からは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクなどが頑張っています。自社の特許(標準必須特許:SEP)をいかに技術標準に含ませるかが、勝負の分水嶺になります。現在進行中の米中摩擦は、米政府の要請でカナダの捜査当局がファーウェイの副会長兼最高財務責任者を逮捕したことに端を発しますが、実際は5Gを巡る米中の覇権争いと言われています。それだけ中国の通信機器メーカーの世界での存在感が増しているのです。日本企業は自身の強い箇所では技術開発をリードしており、周辺と協調しつつ、コアコンピタンス(核となる能力)を更に強化することで、自社ビジネスを追及し、売上増や収益増につなげることが不可欠です。― 5Gの標準化はどこまで進んでいるのですか?村川 国際標準化機関である国際電気通信連合無線通信部門ITU-R、国際的なフォーラム標準化機関である3GPPにおいて、5G標準規格が制定されつつあります。具体的には、5G標準規格の最新版であるリリース16(R16)が昨年6月に出され、大枠が固まりつつあります。ファーウェイやZTEが標準化機関に提案した技術文書(寄書)の累積数は膨大です。1位がファーウェイの11421件、2位がエリクソンの10350件、3位がHisilicon(中国半導体企業)の7248件で、ZTEも3738件で7位です。中国政府や中国企業が標準化で国際的に市場を支配しようとしている戦略が見て取れます。ちなみに日本のNTTドコモは11位(2135件)、NECは13位(1346件)です。自社の強みを認識し新たな付加価値を― 標準規格の大枠はほぼ固まってきたということですが、今後の 日本企業が取る5Gの知財戦略はどうあるべきですか?村川 米国が5G標準化から中国を排除しようとしても、大枠ができてきた標準規格には中国企業の多くの技術や特許などが含まれており、その排除はほぼ不可能と考えなければなりません。標準規格に基づいた製品・サービスによって莫大な利益が生まれることから、その市場覇権を巡って熾烈な争いが展開されています。これからは5Gのインフラやプラットホームというビジネスの土俵にいかに、自社の製品・サービスを乗せるかがポイントになります。5Gの活用で、これまで想定ができなかった新たなサービスや付加価値、新たなコンセプト、ライフスタイルをスマートに提供できるビジネスチャンスが来ているのです。 日本企業の知財戦略について一般的に言えることは、他社との違いを明確にし、自社の強みを最大限に発揮することがポイントとなります。その際、自社の知的資産(無形資産である知的財産、人や設備、資金、ネットワークなどの有形資産)を踏まえ、それを戦略的に保護・活用し、最終的に売上げや収益を高めることがポイントです。なお、開発費の高騰や開発スピードが速まっている昨今、自社のみで製品・サービスを完結するのが困難になっており、第三者の技術導入(ライセンスイン)や自社技術の使用許諾(ライセンスアウト)、また、国内・国際的な標準化活動に参画することで自社技術の標準規格への反映、更には企業買収(M&A)することも知財戦略の一つです。併せて、競合他社の戦略や周辺環境(市場ニーズや法規制、標準化動向など)の変化を捉えることで、自社が取るべき知財戦略は見えてきます。この知財戦略の立案と実施には多岐にわたる事項が関係することから、弁理士やコンサルタント、銀行などの知財専門家に相談することをお勧めします。本学にも地域産業支援プラットフォーム(OIT-P)があり、知財実務や知財戦略に長けた知財専門教員が大阪のものづくり企業の知財戦略立案のお手伝いをする体制も整っており、その活用をご検討いただければ幸いです。22March, 2019 | No.83 | FLOWアナログ方式デジタル方式。FDD変調・復調方式。ケータイ電話が普及データも送れる通信。約14Mbpsの通信速度。CDMA変調・復調方式。写メールやi-modeなど普及~100Mbpsの高速通信、W-CDMA変調・復調方式大容量データ通信方式。100Mbps以上の超高速通信。OFDM変調・復調方式。スマホ時代に10Gbps以上の超高速通信。CP-OFDM、f-OFDM変調・復調方式1G(1980年代)2G(1990年代)3G(2000年代)3.9G(同後半)4G(2010年代)5G(2020年~)【移動通信規格の変遷】 *Gはgeneration(世代)の意味
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