あらゆる「モノ」がインターネットでつながるIoT時代の基盤となる5G(第5世代移動通信システム)について、日本の通信各社は来年の東京オリンピック・パラリンピックが始まる直前の2020年春の商用化を目指していて、今夏にはプレサービスを始めます。現在の通信方式4Gと比べ通信速度が100倍になることなどから、社会のコミュニケーションのあり方を劇的に変え、新たに巨大ビジネスを生み出す技術のため、その規格標準化の覇権を巡る知財戦争が世界で繰り広げられています。五輪観戦やそのセキュリティー対策も過去の大会とは大きく変わると言われています。5Gの仕組みやそれによって世界がどのように変わるのか、覇権争いの実態などを、元NTTの研究者で通信技術にも詳しい大阪工大専門職大学院知的財産研究科の村川一雄教授に聞きました。「高速大容量化」「低遅延」「大量同時接続」の3特徴― 通信速度が現在の4Gの100倍になると言われる5Gの仕組み を教えてください。村川 5Gでは、1つのセル(基地局)内において無線通信容量は10Gbps(ギガビット/秒)のサービス提供が想定されています。現在の4GのLTEやLTE-Advancedなどでは100Mbps(メガビット/秒)ですので、まさに100倍です。無線通信速度の高速化では、①現在利用されていない高周波を利用(4G:3GHz→5G:30GHz)②より広い周波数幅の確保(4G:数10MHz→5G:数100MHz)③基地局数を10倍に増加(4G:1基地局のカバー範囲半径数km→5G:数100m)、の3つがポイントになります。各ポイントで4Gの10倍を目指しており、実現すれば100倍どころか1000倍の高速化になります。それを支えるのが、無線信号の変調・復調方式(改良型OFDM方式)やアンテナ(Massive-MIMOアンテナ)などのイノベーションです。― 5Gには他にどんな特徴があって、それによってどんな サービスが生まれそうですか?村川 5Gには3つの特徴があります。高速大容量化の他は、低遅延と大量同時接続です。人間の反応速度はおおむね0.2秒程度であり、トップアスリートでも0.1秒程度です。4Gでは往復の遅延時間が0.01秒でしたが、5Gでは0.001秒となる予定です。したがって、ほぼリアルタイムな操作が可能となり、少しのタイムラグでも命取りになる自動運転や遠隔手術などが可能になってきます。また大量同時接続はあらゆる機器がインターネットでつながるIoT時代には不可欠で、5Gでは1㎢当たり100万台以上の機器と同時に接続可能となります。各家庭内で数十個単位の電子機器やセンサーを同時にインターネットにつなげられるの村川 一雄 教授大阪工業大学 専門職大学院 知的財産研究科「通信速度100倍」の5G五輪の観戦、セキュリティーにも革命規格標準化巡り熾烈な覇権争いこのコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。むらかわ・かずお1984年熊本大学工学部電子工学科卒。1986年同大学院工学研究科電子工学専攻修士課程修了。同年NTTに入社。同社環境エネルギー研究所通信EMC研究グループ主任研究員、知的財産センタ企画部担当部長、国際室北京事務所担当部長、東日本技術協力センタEMC技術担当部長などを歴任。2014年大阪工業大学専門職大学院知的財産研究科特任教授。2017年から現職。技術士(電気電子部門)。博士(工学)。熊本県出身。21FLOW | No.83 | March, 2019⇒ 自宅部屋内の約100個の端末・センサーがネットに接続 (現行技術では、スマホ、PCなど数個)スマートメータ―カメラ多数同時接続多数同時接続 膨大な数のセンサー・端末⇒ ロボット等の精緻な操作をリアルタイム通信で実現ロボットを遠隔制御超低遅延⇒ 2時間の映画を3秒でダウンロード2G 3G 4G移動体無線技術の高速・大容量化路線超高速超低遅延5Gは、IoT時代のICT基盤5G利用者が遅延(タイムラグ)を意識することなく、リアルタイムに遠隔地のロボット等を操作・制御スマホ、PCをはじめ、身の回りのあらゆる機器がネットに接続現在の移動通信システムより100倍速いブロードバンドサービスを提供大トクパンイな的会社ヘリ内で緊急手術― サービスが生まれそうですか?村川は、低遅延と大量同時接続です。人間の反応速度はおおむね0.2秒程度であり、トップアスリートでも0.1秒程度です。4Gでは往復の遅延時間がは0.⇒ ロボット等の精緻な操作をリアルタイム通信で実現ロボットを遠隔制御パンイな的会社ヘリ内で緊急手術(出典)平成29年 総務省情報通信審議会新世代モバイル通信システム委員会報告5Gの特徴東京の病院の専門医がヘリ内の医師に指示をしながら遠隔で処置。
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