18March, 2019 | No.83 | FLOW組みを人工的に再現し取り入れるバイオミメティクス(生物模倣技術)の一種です。生物の脳や神経に学んだシステムと半導体の処理能力を組み合わせれば、従来よりはるかに高速で効率的な情報処理システムができるはずです」と話します。そんな奥野講師が現在力を入れているのが、昆虫の視覚神経を模倣した画像処理システムとそれを搭載した飛行型ロボットの開発です。 ハエやハチなどは小規模な視覚神経系を駆使し、必要な視覚情報のみを処理して飛行距離の把握や衝突回避の行動を行っています。「例えば接近して来るものにだけ反応し即座に脚や羽を動かすための神経経路があります。この経路では、中枢神経での情報処理を経ずに感覚器に判断が任されているので、運動器の反応が速いのです」。当面の目標はこのメカニズムを模擬し、低消費電力で、飛行を自律制御するシステムを搭載した手のひらサイズのドローンの開発です。「周囲の状況を自ら判断して動く、いわば“空飛ぶルンバ”ですね」と笑います。生き物の神広島国際大学 医療福祉学部 医療福祉学科川﨑 竜太 講師 大規模災害時とその後に被災者の日々の暮らしの再建を支援していくことを災害福祉と言います。近年は学会でも災害福祉の分科会が設置されるようになるなど、その重要性が認識されています。川﨑講師はこの新たなジャンルの研究に積極的に取り組んでいます。 「きっかけは2016年に起きた熊本地震でした。もともと九州の母校で就労・自立支援を専門に研究していて、被災者の生活再建ともつながるので関心を持ったのです」と話します。2年前から福祉系大学経営者協議会「大規模災害対応委員会」に所属するようになって、更に深くかかわるようになりました。 災害福祉の考え方を学生や地域に広めようと推進しているのが、避難所運営ゲーム(HUG)です。避難所に見立てた配置図とさまざまな世帯状況や災害時のシチュエーションを記したカードを使用して訓練するもので、昨年6月には、東広島市の地域住民と医療福祉学科生・心理学科生合同で実施しました。矢継ぎ早にもたらされる難しい課題に参加者はグループで避難所運営のあり方を考えました。西日本豪雨後の11月には、医療福祉学科生が広島県立黒瀬高の生徒とも実施。「災害の記憶が生々しい時期だっただけに実体験を踏まえた学びが共有され、参加者らにはとても実りある時間となりました」と振り返ります。今後は、地域特性を反映させたオリジナルカードの作成や地域に根ざした災害福祉の実践を目指します。 川﨑講師はこうした啓発活動に加えて、災害時の自立支援がどうあるべきかも研究しています。被災者に生活再建への一歩を踏み出してもらうために、どのような支援制度が有効なのか、情報発信のあり方について考え続けています。 学生にいつも伝えているのは、「困っている人にどれだけ寄り添えるかを常に考える」ことの大切さです。制度が使えないからと諦めるのではなく、その壁を乗り越えるためには何が必要かを考えることのできる人材の育成を目指しています。熊本地震がきっかけで 災害福祉研究の道に■かわさき・りゅうた 2004年鹿児島国際大学社会学部社会福祉学科卒。特別養護老人ホームのケアワーカーと総合病院の医療ソーシャルワーカーなどを経て、2015年同大学院福祉社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程修了。2016年から現職。社会福祉士。精神保健福祉士。博士(社会福祉学)。鹿児島県出身。HUGを通じて災害福祉の考え方を学ぶ経系の情報処理については、まだまだ解明できていない部分が多く、「それだけに可能性の大きな分野でやるべきことはたくさんあります」と話し、日夜、研究に取り組んでいます。研究室内でゼミ生と研究を進める奥野講師(右)■おくの・ひろつぐ 2008年大阪大学大学院工学研究科電気電子情報工学専攻博士課程修了。同大学院工学研究科助教などを経て、2016年大阪工業大学情報科学部コンピュータ科学科特任講師、2018年から現職。博士(工学)。大阪府出身。 雲仙普賢岳噴火(1991年)に始まり、阪神・淡路大震災(1995年)、新潟県中越地震(2004年)、東日本大震災(2011年)、御嶽山噴火(2014年)、熊本地震(2016年)、更に昨年は西日本豪雨に北海道胆振東部地震と、多くの自然災害に見舞われた平成が間もなく幕を閉じます。「JOSHO FRONTIER-研究最前線-」の第2回は「防災」につながる研究に取り組む常翔学園内3大学の研究者を紹介します。
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