常翔学園 FLOW No.83
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17FLOW | No.83 | March, 2019 近年、災害救助の現場へのドローン導入が進んでおり、空撮による被災状況の確認、要救助者の捜索などでの活躍が期待されています。奥野講師は昆虫などの視覚神経を模倣した完全自律飛行型ロボット(ドローン)を開発し、人間が容易に立ち入れない災害現場などで使われることを目指しています。 「生体を構成する神経回路は、電子回路に比べると約1000万倍遅い動作しかできないにもかかわらず、生き物は生存に必要な情報とそうでない情報を瞬時に判断し、最新の電子回路よりもはるかに速く、空間認識や音声認識などの情報処理を難なくこなしていることに驚きました」と研究の原点を語ります。取り組んでいるのはコンピュータ科学と神経科学を融合させた「神経模倣システム」の開発。「生物の優れた機能や仕 空間情報の専門家として榊准教授は、コンピューター上でさまざまな地理空間情報を重ね合わせて表示、分析するGIS(地理情報システム)を利用して防災の研究を行っています。当初は道路上における防犯研究をしていましたが、内閣府のSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)事業にメンバーとして参画したことをきっかけに防災研究も始めました。 1995年に発生した阪神・淡路大震災では、被災地被害の膨大なデータは紙の地図に集約されました。この震災を機にカナダ発祥のGISの需要が日本でも高まりました。東日本大震災後は津波浸水範囲や原発事故による計画停電対象地区の図示などに使われ、文字情報より明確であるということが評価され、地図情報の重要性が見直されるようになったのです。榊准教授は「ハザードマップなど災害に備えて重要な情報を『見える化』する効果は大きく、住民の防災意識に訴えるので各自治体もGIS利用に更に注目してきています」と話します。 榊准教授は研究室の学生とともに実施するGISを使った地域住民とのワークショップや講演を通じて、災害時の道路閉塞や徒歩避難についての防災啓発活動を精力的に続けています。「長年住んでいる住民が実は道路に潜む危険を見落としがち。道路が広いからと言って安全なわけではありません」と警鐘を鳴らす一方で、昨年発生した大阪府北部地震発生後の寝屋川市萱島東地区では、地区3自治会の全戸に地震時避難地図を配布しました。今では「私たちの地域でも」と自治体から引く手あまたの活動です。 現在は「大地震発生後に道路が閉塞した状況で、歩行者は通行可否をどう判断するか」をテーマにVR(仮想現実)を使った実験を行っているほか、今後は「密集市街地において、住民同士でどのような共助が行われたら、安全に避難できる住民がどれくらい増えるのか」をテーマにGISとマルチエージェントシステム*を使った徒歩避難シミュレーションを進めようとしている榊准教授。研究を「まちの安全」に還元する地域密着型の研究者です。地理情報システムで危険を可視化 地域とともに安全を見つめる生き物から学んだ情報処理を実装したイメージセンサーシステム摂南大学 理工学部 住環境デザイン学科榊 愛 准教授昆虫の眼を持った自律飛行型ロボットを災害現場に大阪工業大学情報科学部 コンピュータ科学科(2019年4月から情報知能学科に名称変更)奥野 弘嗣 講師防災マップを手に講演地域の人たちとのワークショップ■さかき・あい 2009年大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻後期博士課程修了。10年間の民間企業勤務を経て2010年摂南大学理工学部住環境デザイン学科講師。2015年から現職。博士(工学)。香川県出身。*マルチエージェントシステム=自律した行動主体(エージェント)をシステム内に複数配置し、エージェント同士の相互作用による群行動をコンピューター上に再現するシミュレーション手法ドローンに搭載したイメージセンサーが対象物を検出するか確認する奥野講師JOSHO研究最前線

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