高い出力を得られました。「それなら尿素でも試してみたら」となり、尿素にも大きな触媒効果を発揮することを発見したのです。できた燃料電池は1㍑当たり0.5モルの尿素で、触媒1平方㌢当たり最大2.62㍉㍗の出力が得られました。昨年のイノベーション・ジャパンでは、デモンストレーションとして尿燃料電池を4個直列して青色発光ダイオード(LED)を2時間ほど点灯させました。水素燃料電池は約1000㍉㍗の出力ですからそれと比較するとまだまだですが、100㍉㍗くらいになれば採算が取れる電池になります。山小屋の電灯を点けるためには20~30㍉㍗は必要ですから、せめてそのレベルにまで出力を上げることが当面の目標です。強みは発電コストの安さ新たな有力触媒も発見燃料としての尿の大きな利点は、植物由来のバイオマス(生物資源)には採取コストが必要なのに対して、もともと廃棄物として集積されるものなので収集コストがかからないことです。尿に約2%含まれる尿素=CO(NH₂)₂=は1㍑当たりのエネルギー密度(単位質量当たりに取り出せるエネルギー)が液体水素の1.6倍と言われています。燃料電池は間接型と直接型に分類できます。間接型は例えば都市ガス(メタンガス)を水素に改質し、水素で発電するといった中間プロセスを経ますが、直接型はプロセスなしにそのまま利用できます。尿は直接型で発電コストが安いのです。一方、課題は出力を上げることの他に、触媒の耐久性や出力の安定性の確保があります。開発した電池の触媒の耐久性はまだ1日ほどです。それを1年以上に伸ばす必要があります。出力を上げるためには、より効率の高い触媒探しも必要です。その後の研究で市販の使い捨てカイロの鉄粉とPEDOT*PSSを混ぜてカーボン不織布に塗布した触媒を用いることで、これまでの出力の3倍近い最大10㍉㍗以上を達成し目標に少し近付きました。尿素を使っても人間の実際の尿を用いても同レベルの結果が得られることを確認できました。燃料の循環や空気の送風も不要なシンプルな構造で室温で使える燃料電池では世界最高出力です。100社以上が関心昨年のイノベーション・ジャパンの会場では、石油、自動車、電気、素材、化学薬品、建設、繊維、農業機械、半導体、食品、宇宙システム、総合商社などあらゆる産業の企業から注目され、名刺を交換したのはあっという間に100社を超えました。それだけ可能性の大きな電池だと再認識できました。現在の小さな出力でもセンサーとしては使えるので、例えばオムツに搭載できれば介護現場や病院で高齢者や患者の排尿を知らせる信号を送るツールになります。出力が上がれば、資源制約の厳しい環境の宇宙船や山小屋などでの利用が期待できます。また自身の尿を使った人工臓器のエネルギー源としても有望です。私はどんな研究も最初にやり始めた者の責任は、ジェットコースターに例えればその軌道の頂上まで押し上げることだと思います。そこまで行けば、後は放っておいても傾斜を走り始めるように、多くの企業が開発を進めてくれます。尿燃料電池を軌道の頂上まで押し上げることが私の責任と思い試行錯誤を続けています。※注【PEDOT*PSS】 導電性が非常に高い高分子。スマートフォンのコンデンサーや薄膜として成膜するとほぼ透明になるためタッチパネルとしても広く使われている。16March, 2019 | No.83 | FLOW2e-2e-2H+H2O O2//2H+PEDOT*PSSCuNi織布集電極ポリマーメッシュカソード触媒白金黒CuNiNi/PEDOT*PSS空気孔両面テープカーボンシート+-バイオ燃料電池の構造燃料電池の仕組みNiメッキカーボンシートを用いることで、従来のCuNi織布の出力を2倍程上回った10.90.80.70.60.50.40.30.20.1076543210尿燃料電池の出力特性電流(mA/cm²)セル電圧(V)電気出力(mW/cm²)051015202576543210電気出力尿素及び尿によるバイオ燃料電池の発電特性起電力電気出力(mW/cm²)、起電力(V)3%尿素CuNi織布燃料アノード触媒2%尿素Niメッキカーボン尿Niメッキカーボン
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