常翔学園 FLOW No.81
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■ ご専門の建築環境工学の中で、先生が受賞された研究である  視覚弱者の研究は世界的にも非常に少なく、貴重だそうですね。岩田 建築環境工学には光・熱・音・空気の4分野があり、私は光や色彩をテーマにしてきました。建築環境工学は物理と人との関係を扱うため、人とかかわることが多いのですが、視覚弱者の高齢者や弱視者を被験者に調査・実験すること自体がとても苦労することなので研究が少ないのです。健常者が被験者の場合に比べて時間が掛かるだけでなく、特に弱視者の被験者を集めることが難しいのです。私は若いころからボランティア活動などを通じて障害者団体との人脈があったのでそれが役立ちました。今回の研究はそうした長年の労力を掛けた一連の研究の集大成でもあります。■ 若者や高齢者にとっての視認性(見えやすさ)の研究をされて  いた先生が、弱視者も対象にした研究に取り組まれるようになっ  たきっかけを教えてください。岩田 1995年の阪神・淡路大震災の時に、兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所の主任研究員をしていて、多くの障害者と出会いました。障害者に配慮したハード、ソフトの整備に取り組むうちに、視認性の研究を弱視者にまで広げようと思ったのです。見やすさの3条件は「大きさ・明るさ・コントラスト」ですが、弱視者のそのデータはなく、他人がやらないなら私がしようという思いでした。弱視といっても人によってさまざまで、視力が弱いというだけでなく、視野が狭いとかまだらであるとか障害は多様です。目の構造や病気の勉強を医学書も使って一からやり直しました。■ それだけに貴重なデータだと評価されました。視覚弱者の見え  やすさにはこれまでの先入観を覆すものもありますね。岩田 例えば高齢者は明る過ぎればかえってまぶしさを感じやすくなりますし、弱視者にとって階段のステップの端の滑り止めは、目立つ色というより色のコントラストによって見えやすくなります。そうした階段の実態調査では梅田地下街の階段9003段も学生たちの協力で調べあげました。■ 研究の信条を教えてください。岩田 基礎研究も応用研究もやるということです。基礎研究が大事なことは言うまでもありませんが、私はそれを現実の公共空間に応用したいと考えてきました。1999年に出版した「サイン環境のユニバーサルデザイン」(共著)で、人が間違いを犯さず、使いやすい空間づくりを強調しました。その中でのサイン表示を空間と一体化させるべきだという訴えは、近年やっと空港などで実現してきました。また最近では京阪電鉄の中之島線の各駅で視覚弱者のための誘導照明を天井に設置するという助言が取り入れられています。■ 学生たちへのメッセージをお願いします。岩田 若い時は自由な時間がたくさんあるのに、今の学生はアルバイトとゲームに多くの時間を取られています。時間の使い方を考え直し、その中に「人の役に立つことをする」という時間を入れて欲しいです。もちろんそれが研究ならなお素晴らしいです。 視覚弱者の視環境配慮に関する一連の研究受賞論文02November, 2018 | No.81 | FLOWいわた・みちこ ●1978年日本女子大学家政学部住居学科卒。1991年大阪市立大学大学院生活科学研究科生活環境学専攻後期博士課程修了。兵庫県立福祉のまちづくり工学研究所主任研究員などを経て1996年摂南大学工学部建築学科助教授。2004年同教授。2010年同大理工学部住環境デザイン学科教授。2018年同学科長。学術博士。兵庫県出身。摂南大学理工学部住環境デザイン学科長·教授岩田 三千子2教授が受賞<日本建築学会ホームページの受賞者の業績紹介より>……本論文は、多くの高齢者や弱視者の協力のもと、環境工学的アプローチから実験と調査を実施し得られた貴重な成果をまとめたものである。ユニバーサル社会を実現していくうえで重要なデータや設計指針を、世界に先駆けて示しており、学術性・国際性・社会的貢献度から高く評価できる。……日本建築学会賞=建築に関する学術・技術・芸術の進歩発達をはかるとともに、わが国の建築文化を高める目的で、建築に関する特に優秀な業績を表彰する。受賞者には賞状・賞牌、さらに作品に対しては銘板を贈る。論文(1949年設置)、作品(1949年設置)、技術(2002年設置)、業績(1963年設置)の4部門からなる。論文は近年中に完成し発表されたもので、学術の進歩に寄与する優れた論文を対象とする。その際、分野を集大成した論文、独創的な単独の論文、あるいは新しい分野、境界領域の論文まで幅広く考慮する。          (日本建築学会ホームページより抜粋)贈られる賞牌。古代の建築が彫られた銅鏡のレプリカドローンを使って夜間照明の明るさなどを調査することも。摂南大寝屋川キャンパスで

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