■ 鉄筋コンクリートと鉄骨のハイブリッド構造は先生の長年の大き な研究テーマですね。西村 鉄筋コンクリートと鉄骨の利点を生かし、その欠点を補い合うハイブリッド構造は1980年代から増えてきました。ショッピングセンターや大きな倉庫のような柱の少ない大空間が必要な建築物に適しています。鉄筋コンクリートだけの構造や鉄骨だけの構造なら設計方法が確立していますが、二つを組み合わせた場合にその接合部の力の伝わり方がどうなっているのかの解明や設計方法をどうするかが課題でした。私も研究を始めていたのですが、1993年にこのハイブリッド構造についての日米共同研究のプロジェクトの一員に加えてもらってから本格的に取り組むようになりました。具体的には鉄筋コンクリートの柱に鉄骨の梁を通す構造の研究です。■ 今回の受賞はその接合部の力学的特性の理論化の成果に対し てですね。西村 接合部の一つのディテール案を検証するための実験は大掛かりとなるため、大きな費用が掛かります。そんなことは大手ゼネコンならできますが、小さな設計事務所などでは不可能です。そこでいちいち実験しなくてもいいように、接合部の力の伝わり方を理論的に明らかにし、その耐力の定式化に取り組んだのです。今回の受賞は、これまでの多くの研究をまとめて体系化したもので、過去の多くの卒研生や大学院生にも手伝ってもらった成果が評価されたという点でもうれしいです。■ これまでの研究で一番苦労されたのはどういうことですか。西村 仮説を検証しデータを集めるために数多くの試験体で実験してきました。そのため多くの研究費用を使いました。ただ実験はやみくもに繰り返せばいいものではなく、いかにしたら効果的なデータが収集できるかなど実験のやり方を工夫することが大切で、一番苦労する点です。また、それを考えることこそが面白いです。■ 先生は1995年の阪神・淡路大震災の時には直後に被害調査団 の一員として現地入りされました。大きな地震と先生の研究は 密接にかかわっていますね。西村 6000人以上の方が亡くなられた阪神・淡路大震災は、10秒の揺れで10兆円の被害が出たと言われています。現地で聞いた被災者の生々しい声が今でも忘れられません。建築構造の研究は、関東大震災(1923年)に始まり、十勝沖地震(1968年)、宮城県沖地震(1978年)、阪神・淡路大震災、東日本大震災(2011年)と大地震のたびに課題が明らかになり、大きく発展してきたと言えます。私にとっても耐震性のより高い建築物を造り、少しでも多くの命を守るということが建築構造の研究の大きな動機になっています。■ 先生の研究の信条とこれから研究を志す学生・院生へのメッ セージをお願いします。西村 信条としてきたことは「一つのことを考え抜く」ということです。30歳の頃、恩師に少しでも追いつきたいと、「ある課題に対して先生より早く解を見つけよう」と考えているうちに、考えることの楽しさを覚えました。考え抜けばまた新しい課題が自然と生まれてくるものです。学生・院生にも同じように一つのテーマを徹底的に考えることを勧めたいですね。 柱RC・梁Sとする梁貫通形式柱梁接合部の応力伝達機構と抵抗機構受賞論文01FLOW | No.81 | November, 2018にしむら・やすし ●1973年大阪工業大学工学部建築学科卒。鹿島建設勤務を経て1976年同大学院工学研究科建築学専攻修士課程修了。助手、講師、助教授を経て、1999年工学部建築学科教授。八幡工学実験場長、学生部長などを歴任し、2013年工学部長兼工学研究科長。2014年同学科特任教授。2015年11月から学長。博士(工学)京都大学。愛媛県出身。大阪工業大学学長·工学部建築学科特任教授 西村 泰志日本建築学会賞を<日本建築学会ホームページの受賞者の業績紹介より>……本研究で提案した力学モデルによって、既往の研究で提案された多種多様な接合部ディテールの力学的特性を統一的に説明することが可能となった。したがって、現在のように、接合部ディテールごとに構造性能確認実験を実施しなくても、本耐力評価式によって、柱梁接合部の設計が可能となる道を樹立したともいえる。……巻頭特集 本年の日本建築学会賞の論文部門で大阪工大学長の西村泰志・工学部建築学科特任教授と摂南大理工学部住環境デザイン学科長の岩田三千子教授の2人が受賞しました。建築分野では国内で最も権威のある賞で、受賞9論文のうちの2つを常翔学園内の2大学が占める快挙です。西村教授論文は鉄筋コンクリートと鉄骨のハイブリッド構造の接合部の力の流れを理論化し、より耐震性の高い建築の実現につながり、経済的波及効果も大きいと評価され、岩田教授論文は高齢者や弱視者などの視覚弱者に優しい建築環境を実証的に解明し、ユニバーサル社会実現に貢献するものと評価されました。受賞論文や研究信条などについて2教授に聞きました。建築構造、建築環境工学の分野で建築学科の入る大阪工大大宮キャンパス2号館で
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