柔道は日本のお家芸として過去のオリンピックでも多くの金メダルを獲得してきました。2020年の東京オリンピックでも期待の競技で注目が集まるのは間違いありません。摂南大柔道部監督の横山喬之同大スポーツ振興センター保健体育教室講師は、柔道の世界形選手権で6度の世界一を手にし、現在も4連覇中です。柔道の競技者、指導者、研究者の3つの顔を持つ横山講師に、オリンピック種目にはないものの講道館の昇段審査には必須の形の重要さや魅力などを聞きました。― 形とはどんなものなのですか。また形は講道館の昇段審査には 必須とされていますが、なぜ重視されるのですか。横山 柔道の稽古には、形と乱取の2つの方法があります。乱取は一般競技のように自由に技を掛け合いますが、形はあらかじめ順序と方法を決めて技を掛け合います。形で攻撃と防御の技の原理(理合い)を学びます。講道館柔道の創始者の嘉納治五郎が乱取と形の関係を「作文と文法」と例えたように、形は柔道の基本中の基本なのです。相手のバランスを「崩し」、投げる体勢を「作り」、きれいに技を「掛ける」原理を形から学ぶことができます。講道館では7つの形が定められていますが、形競技の世界大会では「投の形」、「固の形」、「極の形」、「柔の形」、「講道館護身術」の5種目です。私は「投の形」で大会に出場してきました。― 横山先生と形競技の出会いを教えてください。横山 小学校2年で柔道家だった祖父の指導で柔道を始め、筑波大に進んで柔道を続けていましたが、2007年の大学院生時代に、稽古でペアを組んでいた先輩(坂本道人・現:福岡大スポーツ科学部准教授)と私の2人に恩師が「形競技の世界大会ができるので2人でやってみないか」と勧めてくれたのです。国内大会は1997年からスタートしていましたが、2009年からヨーロッパ柔道連盟の呼び掛けで世界選手権が始まりました。私たちは2010年に全国大会で準優勝し日本代表に選出され、2011年の第3回世界選手権(ドイツ・フランクフルト)で初優勝。その後昨年までで計6回優勝(準優勝1回)しました。審査員に伝わる迫真性― 「投の形」にはどんな技があって、どのように行うのですか。横山 手技、腰技、足技、真捨身技、横捨身技の各3本ずつ(例えば足技なら送足払、支釣込足、内股)、計15本の投げ技が決められています。技の掛け役専門の「取」と技の受け役専門の「受」の2人1組で行い、15本の投げ技を左右で掛けるため計30本で1セットの演技です。私は一貫して「受」の役です。5人の審査員が15の技と「礼法」「全体の流れ」の計17の評価項目について各10点計170点で採点。5人のうちの最低点と最高点を除く3人(合計510点満点)の採点で競います。技の評価のポイントは教本通りにできているか、美しくできているかといったことになります。― 6回も世界一になられていますが、何が評価されているのですか。 また一番注意するところはどんなことですか。横山 形は約束事ではありますが、それでも私たちはぎりぎりの迫真性、真剣度を伝えようとします。受が取の頭を殴る動作から入る技もありますが、私は寸止めせずに思い切り殴りにいきます。横山 喬之 講師摂南大学 スポーツ振興センター保健体育教室柔道の“文法”の形競技で6度の世界一投げられ続けて分かる超一流の技このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。かためとりかたうけきめじゅうなげ11FLOW | No.80 | August, 2018
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