常翔学園 FLOW No.80
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10August, 2018 | No.80 | FLOW大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部システムデザイン工学科吉川 雅博 准教授広島国際大学 総合リハビリテーション学部リハビリテーション学科言語聴覚療法学専攻國末 和也 教授高校の美術の教科書にも紹介されたFinchリアルな義手のRehand(左手)も開発梅田キャンパスの研究室フロアで(手前が吉川准教授)■よしかわ・まさひろ 2010年筑波大学大学院図書館情報メディア研究科博士課程修了。産業技術総合研究所特別研究員、奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助教などを経て、2016年大阪工業大学工学部ロボット工学科特任准教授、2017年から現職。博士(情報学)。北海道出身。 大学卒業後に國末教授が初めて講師として赴任したのが岡山の県立聾学校でした。「社会科の教員資格しかないのに、いきなりの聾学校でした。生徒たちとのコミュニケーションも取れず、教師として何もできない自分にショックを受けました」と振り返ります。この体験が難聴児に向き合うというその後の教員人生を決めました。小学校の特別支援学級(難聴)や養護学校、聾学校で教員生活を送りながら大学院に通い、障害児教育や発話に関する医学的研究に取り組みました。 國末教授の一貫した研究テーマが「難聴児の言語学習能力の向上」です。難聴ゆえの言語学習の弱さから学力が伸び悩む“9歳の峠”が知られています。「難聴児はことばをことばで説明する“メタ言語”力が弱く、語彙力も限られます。特に抽象語を理解することが難しいのです」。「親切」や「愛」など心に関することばの意味を教えることは難しく、「親切とお節介の区別がつかなくなってしまうこともあります」と話します。そのために早い時期から言語学習をサポートし、“9歳の峠”を乗り越える学力向上につなげようとしてきました。その一つが音韻感覚を身につける発話誘導遊具です。人工内耳や補聴器の性能向上で難聴児のスピーチ能力は近年向上してきましたが、支援教材として適切な大きさや高さの声にのみ反応して動くおもちゃを考案し、聴覚特別支援学校の幼児たちに使ってもらっています。また、今後は適切な発音をすれば表示されるスマートフォンのアプリを教材に転用することも考えています。 昨年10月には難聴や失語症、摂食・嚥下障害のある地域の人たちをサポートするため、東広島キャンパス内に「言語聴覚健康センター」を開設。言語聴覚士の同専攻教員5人で実施する無料相談は、高齢者を中心に既に40人近い人が利用しています。「難聴が認知症の原因にもなると知られるなど、高齢化で言語・聴覚に関する問題を抱える人は増えており、地域のために健康・医療・福祉系大学の役目を果たす場です」と話します。難聴児教育から言語聴覚士としての地域サポートも■くにすえ・かずや 1997年兵庫教育大学大学院学校教育研究科修了。2006年岡山大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了。1981年岡山県立岡山聾学校に講師として赴任。その後同県内各地の小学校、養護学校、聾学校で教諭。大阪河﨑リハビリテーション大学リハビリテーション学部言語聴覚学専攻准教授などを経て、2013年から現職。博士(医学)。言語聴覚士。兵庫県出身。言語聴覚健康センターで聴力検査の実習をする学生えん げ FLOWではこれまで「ニューウェーブ」で教育・研究を紹介してきましたが、学園内3大学にはまだまだ多くの最先端でユニークな研究に取り組む先生方がいます。そんな教育・研究者を一人でも多く紹介するために、今号から新企画「JOSHO FRONTIER―研究最前線―」をスタートします。

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