常翔学園 FLOW No.80
11/32

09FLOW | No.80 | August, 2018 研究室の奥の机の上には大小のドライバー、カッター、ペンチなどの工具が所狭しと並んでいます。「子供のころから模型作りが好きで細かな作業は全く苦になりません」と笑う吉川准教授。ものづくり好きが「人の役に立ちたい」という思いと結び付き、新しい発想の福祉機器を次々と生み出しています。 電動義手の常識を覆す対向3指の「Finch」の開発の背景には、既存の筋電義手が150万円以上と高価で、重さも900g以上という使いにくさから、国内で推定約1万人の前腕欠損者の85%が把持機能のない装飾義手を選ぶという現実がありました。「Finchは“2本目の義手”というコンセプトで、あえて外観を手に似せることをせず、物をつかむ道具としての機能性を優先した結果が対向3指でした」。3Dプリンターなどの活用で開発時間やコストを圧縮、価格は既存の電動義手の10分の1の15万円を実現。330gと軽量なのに500gの物をつかんで運べ、指に内蔵したトーションバネでこれまでより細かな作業も可能です。左右兼用でレディメイドの5サイズ、調整用サポーターでほとんどの体格に合わせられる簡単装着、直接肌に触れない筋隆起センサで操作も容易と、さまざまな工夫が詰まった優れものです。2016年に販売開始されると「超モノづくり部品大賞健康・バイオ・医療機器部品賞」を受賞するなど高い評価を受けました。 吉川准教授がものづくりで重視するのはユーザー視点。Finch開発では協力病院に1年で40回以上足を運び、試着してもらった患者の“ダメ出し”でどんどん改善しました。現在取り組む子供用Finch開発ではユーザーの障害児らがいる東大病院に学生を連れて行きます。「ユーザーに会うと手抜きができなくなります」。学生指導でのぶれない方針でもあります。Finchの使用者はまだ多くはありませんが、平昌パラリンピックのメダリストが使ってくれるなど、徐々に社会に浸透しています。 植杉教授は、地域経済活性化を支援する“大学発シンクタンク”構想を進めようとしています。「地域活性化案の策定やその過程で、地方自治体や地元企業と摂南大との協働関係を構築し、『地域とともに考え行動する』という大学ブランディングの確立にもつなげたい」と期待を込めます。きっかけは地方創生の名のもとに全国の自治体で策定された地方版総合戦略。各地域がそれぞれの特長を生かしたものを期待されていましたが、「結果としてどこも同じような総花的な戦略になってしまった。摂南大には、近隣自治体や企業、和歌山県での連携活動などの成果が蓄積されています。フィールドワークや統計分析、政策の立案・検証など、大学の調査・研究力を地域独自の活性化案に反映できます。さらに研究者・大学院生・学部生といった摂南大のマンパワーを生かすシステムになります」。来春設立を目指し、連携協定を結ぶ和歌山県由良町を対象に、町の地域産業連関表の作成や観光客の周遊行動分析などの具体的な成果物を作成。その“試作品”を示して他の自治体にも働き掛ける計画です。「このシンクタンクが大学全体の知を結集するハブに成長できれば」と話します。 植杉教授の専門は「不動産経済学」。「バブル時代の地価狂騰を目の当たりにして、不動産価格が金融制度を通じてマクロ経済に影響する経路についての研究を試みました」と振り返ります。現在シミュレーション・ソフトを用いて、中古不動産市場を活性化するために売り手と買い手の情報の非対称性がどう影響するかを中心に、空き家問題の分析、所有権などの私権が優位な社会で公益施設をどう整備・管理してゆくかなどのテーマを研究しています。 「日銀グランプリ」をはじめ、ゼミ生が各種の論文コンクールやプレゼンテーション大会で毎年優秀な成績をあげ、教育力にも定評のある植杉教授。「現場に学ぶ」をモットーに、学生と東日本大震災被災地など各地にフィールドワークに出掛ける行動派エコノミストです。電動義手の常識を超えた機能性と低コストの「Finch」開発摂南大マンパワーを生かした“大学発シンクタンク”を構想摂南大学 経済学部 経済学科植杉 大 教授連携先の和歌山県由良町でゼミ生とフィールドワークする植杉教授(左)■うえすぎ・だい 2004年早稲田大学大学院経済学研究科後期博士課程単位取得退学。同大政治経済学部助手、同大政治経済学術院助教を経て、2010年摂南大学経済学部経済学科准教授。2015年から現職。博士(経済学)。東京都出身。JOSHOFRONTIER研究最前線

元のページ  ../index.html#11

このブックを見る