常翔学園広報誌 FLOW 78号
15/28

の3者です。防災科学技術研究所の大規模震動破壊実験施設「E-ディフェンス※」(兵庫県三木市)で、免震装置の実験を繰り返しました。ある建物が1回揺れる時間は決まっていて固有周期と言い、高い建物ほど長くなります(10階建てで0.6~0.8秒程度)。建物が固有周期(固有振動数)を持つ限り、地震のいずれかの周期の揺れに共振します。「ならばその固有周期を消してしまえばどんな地震波にも対応できるのでは」というのが私たちのプロジェクトの発想です。免震ゴムをはじめとして従来の免震技術は、一般的に揺れの強い短い周期(1秒以下)の共振を避けるために建物の固有周期を長くするものです。それなりの効果はあるのですが、長周期地震には万全でなく、しかも縦揺れには無防備でした。その2つの問題を解決する私たちの開発した3次元免震装置は、横揺れを免震する空気浮揚機構と、縦揺れを免震するばね機構からなっています。天板が空中に止まっている!空気の力は驚くべきもので、1気圧の空気が1㎡で10㌧の重さを支えることができます。建物を圧縮空気で浮揚させる先行研究はあったのですが、地面と建物の間にできる空気層が2~3㎝と厚く、空気を閉じ込める膜を使っていました。私たちは空気層を50㍈(20分の1㍉)と極薄にし、しかも膜を取ってしまったのです。極薄の空気層なら膜がなくても浮揚させられるだけでなく、空気層に厚みがなく堅いため共振を生む固有周期もできないということに気付いたのです。膜がないと空気は逃げますが、抵抗があるために流れはゆっくりで、空気は供給され続けるので問題ありません。精密加工の現場では、摩擦を減らすためにもっと極薄(数㍈)の空気層で浮揚させるエアベアリングが使われており、それを大きな建物にも適用した形です。地震を感知すると0.1秒くらいで圧縮空気を供給し建物を浮かすことも可能です。浮いた状態ならどんな地震波にもほとんど影響を受けません。これまでの免震装置ではほとんど見逃されてきた縦揺れの抑制は、負剛性リンクばねの開発で実現しました。斜めの角度に調整したばね力が作る負のばねを従来の正ばねと並列して用いることで、縦揺れの固有周期をそれまで世界で実現できていた最長の2秒(固有振動数0.5ヘルツ)よりはるかに長い5秒(同0.2ヘルツ)にすることに1号機で成功したのです。固有周期5秒を正ばねだけで実現しようとすると15.5mもたわむばねが必要となって全く実用になりません。それが数十㎝の高さの装置でできたのが負ばねの効果です。その免震装置の試作機の実験は、E-ディフェンスの加振装置で実際の過去の大地震(阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震)を再現した3次元地震波で行いました。NHKスペシャルでも紹介されましたが、免震装置の天板が空中に止まっているように見えました。揺れをほぼ遮断できたのです。開発した私たち自身が驚く結果で「これならどんな地震にも勝てる!」と興奮しました。東日本大震災と同じ横揺れを100分の1、熊本地震の縦揺れを15分の1にすることが確認できました。従来の免震装置ではせいぜい横揺れは8分の1、縦揺れは3分の1にしか軽減できていません。それだけ高い免震性能が検証されたのです。建築基準法改正も必要今後は装置を改良し約5年で1000㌧クラスのビルをE-ディフェンスの加振装置上で浮かせることを目指しています。更に私が名付けたのですが、最終的には街の一角を丸ごと浮かす「フロートシティ」構想を考えています。既に神奈川県相模原市では10棟の団地全体を免震ゴムで支えた共通免震床板に載せることも実現しており、空気で街を浮かせることも実現可能な構想だと思っています。ただそのためにはまだまだ多くの課題があります。まず建設会社にも参加してもらうプロジェクト組織を立ち上げる必要があり、その準備に入っています。更に建物が地面に固定されていることを前提にしている現在の建築基準法を改正するなどの課題もあります。それだけ建築の固定観念を打ち破るような構想でもあるのです。摂南大の実験室で小型の3次元免震装置と開発した3次元免震装置の模式図。左右に斜めの負ばね、真ん中に正ばねの役割の空気ダンパ、タンク(右下)から圧縮空気(水色)が供給される免震実験のグラフ。上は横揺れ、下は縦揺れの実験で、ともに左から熊本地震の2つの揺れ、東日本大震災の揺れ、阪神淡路大震災の揺れ(青)がどこまで軽減したか分かる(オレンジ)※E-ディフェンス(E-Defense)=阪神淡路大震災を教訓に2005年に兵庫県三木市にできた国立研究開発法人防災科学技術研究所が所管する大型構造物の震動破壊実験を行う大規模実験施設。"E"はEarth(地球)を表す。戸建住宅のほか、鉄筋コンクリート造6階建て程度の建物の震動破壊実験を行うことができる世界最大の耐震実験施設。卒業生版14March, 2018 | No.78 | FLOW

元のページ  ../index.html#15

このブックを見る