常翔学園広報誌 FLOW 78号
14/28
昨年9月にNHK・BSテレビで放映された「NHKスペシャル メガクライシス巨大危機Ⅱ第1集『都市直下地震』」は大きな反響を呼び、その後何度も再放送されています。これまで日本で想定されてこなかった超高層ビルに一撃で大ダメージを与える「長周期パルス」という新しいタイプの地震波の怖さを特集したものですが、その中でそうした地震波にも対応できる新技術として摂南大機械工学科の安田正志教授らのグループが開発した免震システムが紹介されました。建物を空気で浮かせて横揺れを遮断し縦揺れはばねで抑えるシステムで、東日本大震災級の横揺れや熊本地震級の縦揺れをほぼ遮断することが実験で確かめられました。今月11日で東日本大震災から7年。南海トラフ巨大地震も懸念されています。大地震に挑む画期的な新免震システムについて安田教授に聞きました。微細振動のスペシャリストが免震に挑戦私は大学を卒業して仲間とやってきたベンチャー企業で、長年にわたり微細振動を抑制する技術開発に携わってきました。精密機器を扱う現場ではほんのわずかな振動も障害になります。そうした微細振動を除く世界最高性能の「アクティブ除振装置」を1988年に開発しました。これがその後、電子顕微鏡や検査装置、半導体や液晶の露光装置に世界中で採用され、2000年には国立天文台(東京都三鷹市)の重力波干渉装置の除振にも成功しました。この装置は現在も精密装置に不可欠なものとして採用が続いています。そうした小さな振動を研究してきた私が、地震という大きな振動に関心を持つようになった最初のきっかけは1995年の阪神淡路大震災でした。大阪にいて明け方に強い揺れで起こされ、すごい雨音だと窓を開けると揚水管が破裂して噴水のようになっていました。神戸に行くと1階がなくなってぺしゃんこの建物をいくつも見て、「自分に何かできないか」と考え始めました。1999年の台湾集集大地震では現地視察し、中学校のグラウンドを横切る3m近い断層の大きさに言葉を失いました。こうした経験があり、2010年に会社を退職後、免震に本格的に取り組み始めたのです。「固有周期を消せばいい」の発想NHKスペシャルで紹介された長周期パルスなど、近年これまでにない強さの地震が頻発するようになってより高性能な免震技術への期待が高まっています。現在の免震装置はそのほとんどが、横揺れ(水平振動)にのみ対応し、縦揺れ(鉛直振動)には無防備な2次元免震です。縦揺れにも対応する3次元免震装置は、特に原子力発電所などで求められるようになっています。私たちのグループは縦揺れにも対応し、横揺れも激減させる新たな3次元免震システムの開発を目指すプロジェクトを2015年に立ち上げました。開発グループは国の防災科学技術研究所、日立製作所と私ニューウェーブ教育・研究高層ビルも空気で浮揚新発想の免震技術で大震災級の揺れを1/100に摂南大学 理工学部 機械工学科安田 正志 教授街ごと浮かす「フロートシティ」構想もやすだ・まさし ●1973年岡山大学理学部物理学科卒。同年特許機器に入社、2009年~2010年同社取締役副社長。この間1999年~2010年日本振動技術協会常任理事。2010年VEL社を設立し代表。2011年~2013年京都大学工学研究科研究員。2014年から現職。博士(工学)大阪大学。京都府出身。開発した3次元免震装置2号機13FLOW | No.78 | March, 2018
元のページ
../index.html#14