常翔学園広報誌 FLOW 78号
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潜在能力を100%引き出す環境づくりがシューズの大きな役割■ シューズやインソールの違いで、アスリートのパフォーマンスに  どんな違いが出るのですか。大窪 シューズやインソールによってタイムが著しく短縮するなど、顕著なパフォーマンスアップはあまりないと思っています。どちらかというと、選手個々が持っている潜在能力をフィジカル的にもメンタル的にも100%引き出せる環境を整えてあげることがシューズやインソールに求められると思います。 シューズや足に問題があるのではなく、シューズと足の相性が悪いことが多くのトラブルの原因です。車に例えるなら、買い物に行くのにスーパーカーは必要ありません。通勤に適したのは燃費のいい車、というように組み合わせが大切です。選手とシューズの相性を良くするとトラブルを減らせるのです。足などにトラブルを抱えていないトップアスリートはほとんどいません。彼らは華やかなイメージに注目が集まっていますが、運悪く大きなケガをすれば若くても引退というシビアな世界で闘っています。そんな選手のお手伝いができたことを誇りに思います。インソールの数ミリの調整で体全体のストレスを軽減■ ケガの予防の面でもシューズやインソールは重要ですね。大窪 ケガをしにくいというだけで選手の安心材料になり、パフォーマンスに集中できます。シューズやインソールによるミリ単位の足底の調整で体全体の筋や骨の配置(アライメント)を正しく整え、力の伝達角度などが変わって体へのストレスを減らすこともあります。ケガをしにくい体づくりにつながるのです。土踏まずが高く指やかかとに負担が掛かり過ぎている選手なら、土踏まずの部分のインソールを厚くすることでストレスを分散させることができます。義肢装具士のエンジニア的役割に大きな可能性■ そうしたシューズやインソール製作で義肢装具士であることが  どう生かされているのですか。大窪 義肢装具士は障害者らの義肢装具を製作・調整することが多いですが、広い意味ではモノとそのユーザーの橋渡し役、ユーザーインターフェースの設計者です。私がアシックスで求められたのも、常に人とパーソナルにかかわり、人間の体についてよく理解している義肢装具士が個々のアスリートに接触する仕事に適していると考えられたからです。 スポーツシューズにかかわっている義肢装具士はまだ数少ないです。ただ、足の疾患を抱えた人のためのシューズを作る義肢装具士はこれまでもかなりいます。3Dプリンターの登場などで、これまで手作りが多かった作業も間違いなく機械化が進んでいきます。シューズに限らず、人とモノをつなぎ、生活を良くするエンジニア的な役割も義肢装具士の今後の可能性を広げるはずです。そうした分野を担える学生を育てていきたいです。■ 一般のアスリートにシューズ選びのアドバイスはありますか。大窪 シューズに求める機能は人によってさまざまです。シューズ選びで悩みがあるようであれば、最近はコンサルティング販売を行っている小売り専門店も増えてきていますので相談することをお勧めします。あと、私も十数年にわたって専門に研究しており、東広島へお越しいただけるならアドバイスいたします。おおくぼ・しんたろう ■2000年神戸医療福祉専門学校三田校義肢装具士科卒。同年倉敷義肢製作所勤務を経て、2002年アシックス・スポーツ工学研究所。2013年武庫川女子大学大学院健康・スポーツ科学研究科修士課程修了。2014年よりトップアスリートの特注シューズの製作に従事。2017年から現職。義肢装具士。健康科学修士。兵庫県出身。大窪講師が製作したシューズやインソール自作のシューズを手に卒業生版12March, 2018 | No.78 | FLOW

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