常翔学園広報誌 FLOW 78号
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 昨年のテレビドラマ「陸王」(原作・池井戸潤)のヒットでアスリートのシューズに注目が集まり、正月の箱根駅伝でも従来の薄底シューズの常識を覆した厚底シューズを採用した東洋大チームの活躍が話題を呼びました。2020年の東京オリンピックなどビッグイベントは多くのシューズメーカーが新製品を競う舞台にもなります。広島国際大リハビリテーション支援学科の大窪伸太郎講師は義肢装具士でありながら、大手スポーツ用品メーカーのアシックスでさまざまな競技のトップアスリートのシューズやインソールなどの製作にも長くかかわりました。アスリートにとってのシューズの役割やトップアスリートの足にまつわるトラブルなどについて、大窪講師に聞きました。■ 義肢装具士の先生がシューズやインソール製作にもかかわられ  るようになった経緯を聞かせてください。大窪 小学生のころからサッカーをしていましたが、ケガで悩んだ経験やケガに悩む他の選手を見て、将来はそんなスポーツ選手を支える仕事に就きたいと考えるようになりました。ものづくりを通してスポーツ選手を支える職業として義肢装具士の存在を知り、高校卒業後に専門学校に入学。そこでシューズ製作の基本も学びました。卒業後は義肢装具の製作所勤務を経て、原点であるスポーツ選手の役に立つ仕事に就きたいとアシックスのスポーツ工学研究所(神戸市)でシューズやインソールに関する研究に従事するようになったのです。シューズ、インソールは個々のカスタマイズが比較的容易なうえ、足を通して身体にさまざまな影響を及ぼすことが可能であることから夢中に取り組むようになりました。職人から研究者の世界へ■ どんな研究所ですか。大窪  機械工学、生体力学、材料工学などさまざまな分野の研究者が30人以上いてシューズをはじめスポーツ用品の基礎研究に従事していました。私は「スポーツとケガ」をテーマに研究していましたが、義肢装具士という勘や感覚に頼ることの多い職人の世界からデータに基づき仮説を実証するという研究者の世界に飛び込んで多くのことを学びました。そこでの12年間が今の私を支えています。研究と並行してシューズやインソール、コルセット、ねんざサポーターなどの製作もしていました。自分で作るだけでなく、研究に基づいて工場に靴底の材料変更やミシンの入れ方など細かな指示も出していました。■ どんなアスリートのシューズにかかわられたのですか。大窪 研究所を経て主に契約選手などの特注シューズを製作する部署に移りました。特にそこでの2年間で、多くのトップアスリートに直接かかわりました。契約の関係で名前は明かせませんが、サッカーの日本代表にもなったJリーガーやラグビーの日本代表選手、今はメジャーリーガーのプロ野球選手、変わったところではフィギュアスケートの選手のインソール製作にも携わりました。シューズを履くほとんどの競技にかかわりました。仕事は選手に会って要望を聞くだけでなく、選手側の医療スタッフと話し合ったり、こちらからその選手が抱える足のトラブルに対処する提案もします。例えば「黒爪」という爪の下に血豆ができる爪下血腫(そうかけっしゅ)の選手がシューズが小さ過ぎるからと思い大きくしようとするのですが、実は足が細くてシューズの中で動くことが原因であったこともありました。そんな時は逆にシューズを小さくすることを提案します。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○大窪 伸太郎 講師広島国際大学 総合リハビリテーション学部 リハビリテーション支援学科トップアスリートの足のトラブルの原因は大部分がシューズとの相性の問題11FLOW | No.78 | March, 2018

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