常翔学園広報誌 FLOW 77号
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 夏季オリンピックの東京開催が決まったのは実は2020年で3回目です。1964年大会以前に1940年の第12回大会も東京で開催されるはずでしたが、日中戦争の影響で“幻の大会”に終わったのです。「平和の祭典」と呼ばれるオリンピックですが、その歴史は戦争や紛争などその時の国際政治情勢に翻弄されてきた歴史でもありました。大阪工大総合人間学系教室の川田進教授は、2015年度に始まった国際関係論の授業で「『三度目』の東京オリンピックと国際政治」をテーマとして取り上げています。現代中国やアジア地域研究の専門家でもある川田教授にオリンピックを巡る「戦争と平和」について聞きました。■ ギリシャ時代の古代オリンピックは戦争を中断してまで開催  されていたそうですね。川田 古代オリンピックは神々を崇めるための宗教行事でもあり、1カ月から3カ月の開催期間は「聖なる休戦期間」として紛争・戦争をしていてもそれを中断したのです。フランスのクーベルタン男爵は、その歴史を踏まえて近代オリンピックを「国際交流と平和の大会」として復興しました。古代オリンピックが途絶えてから1500年後の1896年に第1回大会がギリシャのアテネで開かれました。■ しかし、近代オリンピックの歴史では夏季の3大会が戦争で  中止されました。川田 第1次世界大戦で中止された1916年の第6回ベルリン大会、日中戦争の影響で中止になった1940年の第12回東京大会、第2次世界大戦で中止された1944年の第13回ロンドン大会です。中止はされなかったものの国際紛争の影響で多くのボイコット国が出たのが1980年の第22回モスクワ大会です。当時のソ連軍のアフガニスタン侵攻でアメリカ、日本、中国など約50カ国が参加しませんでした。この報復で1984年の第23回ロサンゼルス大会では社会主義陣営のソ連、東ドイツ、ポーランドなどがボイコットしました。オリンピックが東西冷戦の代理戦争として利用されたのです。間もなく開催される韓国の第23回平昌冬季オリンピックも北朝鮮情勢次第では選手の安全を懸念してボイコットする国が出てくるかもしれません。札幌冬季五輪と東京万博も中止に川田 幻となった1940年の東京大会は、1936年に開催が決定し、1937年の日中戦争勃発で欧米諸国からボイコットの動きが出て1938年に日本が開催を返上。フィンランドのヘルシンキ大会に変更されましたが、その後の第2次世界大戦の勃発で最終的に中止になりました。実は1940年には札幌冬季オリンピック、東京万国博覧会も同じように中止になっています。1940年は神武天皇即位から2600年目とされ、日本は「紀元2600年祝賀行事」としてこれらを国の威信を懸けて招致したのです。しかし、当時は軍部の力が強く、日中戦争が勃発すると戦争優先で12万人収容予定のメインスタジアムの建設を中止。欧米諸国が東京大会ボイコットの動きを強めたこともあり政府が開催返上を決めたのです。 日本はオリンピックに代わり1940年6月に東亜競技大会を東京と関西で開催しました。満州国、中華民国南京政府、フィリピン、ハワイ、モンゴルが参加しました。皇紀祝賀と「国防資源としての国民体位の向上」が目的とされ、政治的中立を目指すスポーツ精神からはどんどん離れていきました。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○かわた・すすむ ■1986年大阪外国語大学(現大阪大学)外国語学部中国語学科卒。1988年同大学院修士課程修了。摂南大学非常勤講師などを経て1996年大阪工業大学工学部一般教育科講師。2001年同助教授。2003年同知的財産学部助教授。2012年同工学部総合人間学系教室准教授。2015年から現職。博士(文学)。岡山県出身。川田 進 教授大阪工業大学 工学部総合人間学系教室国際政治の波に翻弄された近代五輪の歴史に学び「平和とは何か」を考える契機に11FLOW | No.77 | January, 2018川田教授手作りの国際関係論と国際理解の教科書

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