常翔学園広報誌 FLOW 76号
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 近年、女性アスリートの健康管理問題として挙げられている「女性アスリートの3主徴」(米スポーツ医学会)に「エネルギー不足」、「運動性無月経」、「低骨量」があります。継続的な激しいトレーニングが原因とされていますが、エネルギー不足は無月経など月経異常を引き起こすことが考えられますし、低骨量は無月経によるエストロゲンの低下が原因です。どれも月経とホルモンが密接に関わっています。それから10代のアスリートでは初経の遅れという問題もあります。疲労骨折や骨粗しょう症のリスクにつながる運動性無月経■ その無月経は大きな問題ですね。藤林 運動性無月経は、陸上長距離や体操、新体操、フィギュアスケートなどの選手に発生率が高いとされています。エネルギー摂取不足や身体的・精神的ストレス、体重や体脂肪の減少などが原因です。無月経になると女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)が低下し、長期化すると妊娠しにくくなったり、骨密度(骨量)が低下して疲労骨折をしやすくなるなど、大きなリスクを抱えることになります。正常な月経のアスリートなら一般人より骨密度が高いことが普通で、私が摂南大看護学科の女子学生と中京大陸上部の選手らに協力してもらった調査でも確認できました。ところが、エネルギー不足のアスリートはカルシウム不足状態になり、更に無月経になると骨代謝にも影響するエストロゲンの低下により骨密度が低下し疲労骨折を起こしてしまうのです。正常月経の選手と無月経の選手を比較すると、疲労骨折の経験の割合は明らかに無月経の選手に多くなります。決してトレーニングのやり過ぎだけで疲労骨折するわけではないのです。 一般に骨密度は20歳前後にピークを迎え、その後緩やかに下がっていきます。若いうちに無月経になるとそのピークが低くなってしまいます。長い人生を考えると、将来的な骨粗しょう症や骨折の危険性を回避するという意味合いからも、若年期に骨量をできるだけ高めておくことが大切です。なくならない指導者の無理解■ これらの問題について指導者や保護者に認識は広まっていますか。藤林 なかなか広まっていません。いまだに「どんどん体重を減らせ」などと言う女性指導者すらいるようです。また、男性指導者はこの問題を正しく理解していない人が大部分ではないでしょうか。一方で現役の選手は目の前の勝利や記録にこだわるため、大きなリスクに目を向けない傾向が強いのでしょう。ごく一部のトップアスリートは国立スポーツ科学センターの指導などもあり、理解が深まっていますが、一般の学校現場では理解が進んでいないのが現状です。海外では広がる低用量ピルエネルギー不足に注意も■ 対処方法としてはどんなことがあるのですか。藤林 痛みのある時に鎮痛剤を飲む選手は多いですが、根本的な解決にはなりません。月経痛がある場合や月経が3カ月以上遅れたら、ぜひ婦人科の医師に相談してほしいですね。海外の女性アスリートは、大きな競技大会と月経が重ならないよう調整するために低用量のピル(OC:経口避妊薬)を服用しています。1日1錠ずつ連続で服用し月経周期をコントロールして、試合の時期に月経が重ならないようにしています。■ 日本の女性アスリートの中では低用量ピルの使用は進んでいま  せんね。藤林 まだピルに対する誤解が根強くあるようです。「飲むと太る」とか「ドーピングにひっかかる」などです。血栓症発生などの副作用があったかつてのピルと違い、低用量ピルには副作用はほとんどなく、もちろんピルは禁止薬物ではないのでドーピングにもなりません。 また、女性アスリートの栄養摂取について、日ごろ貧血予防のため鉄分やビタミンCの積極的な摂取を実行している選手は多いと思うのですが、あまり知られていない情報として「エネルギー不足」が挙げられます。摂取エネルギー不足は、無月経→疲労骨折とつながっていきます。タンパク質や鉄分などの微量栄養素に加え、エネルギー量の確保にも十分配慮することが重要です。■ 今後の課題は?藤林 日本臨床スポーツ医学会は既に低エストロゲンに警鐘を鳴らす指針を出していますし、東京オリンピックに向けて日本産科婦人科学会もこの問題で啓発活動を進めています。 かつては男子選手が圧倒的に多かったオリンピック日本選手団も、最近では男女の数が拮抗してきています。東京オリンピックを機に、女性ならではのコンディションも十分に自覚して、女子選手も更に輝いてほしいですね。70年齢(歳)605040骨量の経年変化思春期男女ともに20歳前後(女性のみ)最大骨量閉経302010008November, 2017 | No.76 | FLOW女子学生からさまざまな相談も(摂南大総合体育館トレーニングセンターで)

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