常翔学園広報誌 FLOW 76号
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 昨年のリオデジャネイロ・オリンピック女子競泳に出場した中国の傅園慧(フ・ユアンフイ)選手が400mリレーの後に「生理中で自分の泳ぎができなかった」と発言して話題になりました。日本でも元フィギュアスケート選手の鈴木明子さんがブログで現役時代の「月経の悩み」を告白するなど、徐々にこのデリケートな問題について発言する人が増えています。しかし、いまだに圧倒的多数の女性アスリートは、この問題に触れられず、対処方法についても無理解なままです。競技でのコンディションに影響するばかりか、放っておいたら将来大きな健康問題につながる女性アスリートの月経問題。2020年の東京オリンピックに向けて警鐘を鳴らす摂南大スポーツ振興センターの藤林真美准教授に聞きました。女性ホルモンの増減が生む月経前症候群■ 月経とは「約1カ月の間隔で起こり、限られた日数で自然に  止まる子宮内膜からの周期的出血」と定義されています。藤林 生殖年齢の女性ならほとんどが大なり小なり月経の影響を受けます。女性ホルモンが約1カ月周期でがらっと変化することで女性に精神的・身体的な変化が生まれるのです=図とことば(左下)。私は学生のころ陸上のやり投げをしていましたが、大学4年の全日本インカレでは競技前日に月経が始まり、腰に全く力が入らなくなって力を発揮できなかった経験があります。摂南大で受け持っているスポーツ科学実習の授業でも、月経で調子が悪く授業を受けられない学生もいます。■ 具体的に月経で女性の体にどんな影響があって、どれくらいの  割合の女性アスリートがパフォーマンスへの影響を感じている  のでしょうか。藤林 性周期と関連して発現する身体や気分の変動は月経前症候群(PMS)といわれ、多くの女性が少なからず経験しています。これは月経開始の3~10日前から始まる症状で、月経開始とともに軽快ないしは消失します。症状は下腹部痛、乳房痛、いらいらといった身体・精神症状から、集中力、意欲の低下や作業能率の低下といった社会行動上の変化に至るまで幅広い症状が認められます。これらが女性アスリートのコンディションや競技でのパフォーマンスに大きな影響を与えるのです。東京の国立スポーツ科学センター(JISS)の調査では、国内トップアスリートの約4割が「影響がある」と答えています。また、性周期から換算するとどんな大会でも、女子の出場選手の約4人に1人は月経中ということになり、月経前の諸症状を抱えている選手を加えると半数近くの選手が少なからず月経にまつわる影響を受けていることが推察されます。このコーナーは、2020東京オリンピック開催にちなんだ『Team常翔』による連続インタビュー企画です。○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○○ふじばやし・まみ ■1988年中京大学体育学部体育学科卒。2003年日本女子大学家政学部食物学科卒。2007年京都大学大学院人間・環境学研究科共生人間学専攻修士課程修了。2010年同大学院博士後期課程修了。2011年摂南大学スポーツ振興センター講師を経て2016年から現職。博士(人間・環境学)。高校・大学陸上部時代はやり投げの選手で全国インターハイ、全日本インカレ、日本選手権入賞。群馬県出身。藤林 真美 准教授摂南大学 スポーツ振興センターコンディションばかりか将来の健康問題にも影響する女性アスリートの月経問題07FLOW | No.76 | November, 2017月経のメカニズム = まず脳の視床下部から性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌され、その刺激で脳下垂体から分泌された卵胞刺激ホルモン(FSH)が卵巣を刺激し、成長した卵胞からエストロゲン(卵胞ホルモン)というホルモンが分泌される。それがピークになると脳下垂体から排卵を促す黄体化ホルモン(LH)が分泌され排卵になる。排卵後は卵胞が黄体となり、ここからプロゲステロン(黄体ホルモン)という妊娠を準備するホルモンを分泌。エストロゲンとプロゲステロンの働きで子宮内膜が厚くなり受精卵が着床しやすくなるが、妊娠が成立しないと、黄体は2週間で白体へ変化しプロゲステロンが減少。子宮内膜が剥がれ落ちて膣から排出。この一連が月経。月経周期に伴うホルモンの変動FSH:卵胞刺激ホルモン、LH:黄体化ホルモン排卵排卵期黄体期卵胞期卵胞期月経月経໐FSH໐エストロゲン໐LH໐プロゲステロン(国立スポーツ科学センター「女性アスリートのためのコンディショニングブック」より)

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