常翔学園広報誌 FLOW 76号
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人の体臭は誰もが気にしながら自分ではなかなか分からず、他人も指摘してくれないという厄介な問題です。大阪工大ロボティクス&デザイン工学部システムデザイン工学科の大松繁客員教授がコニカミノルタと共同開発した体臭チェッカー「クンクンボディ(Kunkun body)」は、世界で初めてニオイの可視化を実現し、多くの人の悩みを解消するツールになりそうです。7月に記者発表すると大きな反響を呼び、国内だけでなく世界各国のメディアも取り上げ、インターネットを使った事前予約には申し込みが殺到しました。もともと制御工学が専門で専ら数式を相手にしていた“理論畑”の大松教授は、人工知能(AI)の研究から画像や音、ニオイなどを識別する実践的な研究にも手を広げていきました。クンクンボディの仕組みやニオイ研究を始めた経緯を大松教授に聞きました。タイ人留学生の相談からニオイの識別研究へもともと私の専門分野は制御工学で、さまざまな現象を数式を使ってモデル化し制御する研究に取り組んでいました。例えば電車や自動車などの動きを数理モデル化し制御する研究です。そこからコンピューターのAIの研究もするようになり、人間の脳神経回路を模したニューラルネットワークの技術を使って画像や音、ニオイなどを識別する研究にも進んでいきました。瀬戸内海の赤潮発生を予測するために海水面のリモートセンシング、ボケ画像の修復、紙幣の識別の高度自動化などにも取り組みました。この中でニオイの識別を始めたきっかけは、大阪府立大時代の2000年に大学院の博士課程にやって来たあるタイ人留学生の相談でした。「バンコクの街の悪臭がひどく、ニオイを測定・識別する機器を開発したい」というものでした。彼に3年間、ニューラルネットワークを使ったニオイを識別する方法を指導したのが、その後のニオイ研究につながっていきました。私はちょうど1995年から2005年まで米国電気電子学会(IEEE)のニューラルネットワーク部門誌の副編集長を務めていたので、どんどん進むニューラルネットワーク研究の世界の流れは把握できており、最新のAI技術を応用できたのです。2001年には第1回船井情報科学振興賞を受け、船井情報科学振興財団からニオイ計測装置の寄付を受けることができニオイ研究が本格化します。2004年のノーベル生理学・医学賞が「におい分子を感知する嗅覚受容体の遺伝子の発見」だったことも刺激になりました。まずビールの種別やメーカーの違いを表示する研究から始まり、ワインやコーヒーの香りの識別・測定、更に簡易口臭識別器の開発まで進んでいきました。この間、ニオイ研究が評価されて2011年には、文部科学大臣表彰科学技術賞と電気学会の電気学術振興賞・進歩賞を受賞することができました。ニューウェーブ教育・研究世界に先駆けニオイを可視化「クンクンボディ」誕生大阪工業大学 ロボティクス&デザイン工学部システムデザイン工学科大松 繁 客員教授オープンイノベーションが生んだ成果おおまつ・しげる ●1969年愛媛大学工学部電気工学科卒。1971年大阪府立大学工学研究科修士課程修了。1974年同博士課程修了。徳島大学工学部情報工学科助手、講師、助教授を経て、1988年同知能情報工学科教授。1995年大阪府立大学工学部情報工学科教授。2000年同大学院工学研究科電気・情報系専攻情報工学分野教授。2005年同大学院知能情報工学分野教授。2010年同大学名誉教授。同年大阪工業大学客員教授を経て工学部電子情報通信工学科特任教授。2017年から現職。これまで新技術開発財団市村学術賞・功績賞(1995年)、船井情報科学振興財団 船井情報科学振興賞(2001年)、「ニューラルネットワークによる認識と制御の知的高度化の研究」で文部科学大臣表彰科学技術賞(2011年)、「香りセンサと香り計測装置および電子調香師の開発」で電気学会電気学術振興賞・進歩賞(同年)など受賞。工学博士。愛媛県出身。クンクンボディ(右がセンサー、測定結果を左のスマートフォンに表示)09FLOW | No.76 | November, 2017
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