File No.17

林 照茂さん

株式会社オーシーエス 代表取締役

頼りは自分の力だけ
可能性の大きなスポーツクライミング

FLOW No.73

林 照茂
Profile
はやし・てるしげ 1980年啓光学園中学校(現常翔啓光学園中学校)を経て同高校卒。1984年大阪経済法科大学経済学部卒。同年奈良県代表で国民体育大会の山岳競技に出場し総合優勝。1988年にクライマーによるビルのガラス清掃業のオーシーエスを設立。1989年日本初のクライミングジム開設。日本山岳ガイド連盟公認山岳ガイド。日本フリークライミング協会元理事。著書に『関西の岩場』。スノーボードによる富士山滑降やマウンテンバイクでの北アルプス縦走も果たす。母校・ワンダーフォーゲル部の部室のボルダリング壁を設置。大阪府出身。

2020年の東京オリンピックで正式競技となったスポーツクライミング。昔の岩登り(ロッククライミング)から発展したスポーツで、都会でも安全で気軽に楽しめるのが魅力で競技人口が急増しています。その施設であるクライミングウォール(人工壁)の建設が、常翔啓光学園中高のキャンパスで始まりました。同競技の全3種目を実施できる国内でも数少ない施設になります。啓光学園中高(現常翔啓光学園中高)の卒業生で、1989年に大阪で日本初のクライミング専門ジム「CITYROCKGYM」を開設して以来、各地でクライミングウォール設置を手掛けるオーシーエス代表取締役、林照茂さんにスポーツクライミングの魅力などを聞きました。

30年前に雑誌で見たニューヨーカーの姿に刺激され

林さんがスポーツクライミングにかかわるようになった経緯を教えてください。

林:中学1年のころから登山を始め、当時既に日本山岳会の会員でした。高校からワンダーフォーゲル部に入って随分鍛えられました。高校時代に山の岩場で知り合った関西の高校生クライマーの仲間たちで学外クラブのOCS(OSAKA CLIMBING SOCIETY)を結成し、ハーケンなどの人工手段を使わず自分の力だけで岩登りするフリークライミングや新しい岩場の開拓などの活動をしました。今の会社の名前の由来です。30年近く前、大学卒業後に立ち上げたクライマーたちの技術を生かす高層ビルのガラス外壁清掃の会社でした。当時は各大学の山岳部員らのアルバイトが約40人いましたが、雨が降って仕事がなくなる時にトレーニングでもできないかと考えていました。そんな時にアメリカの雑誌でニューヨーカーが室内のクライミングウォール(人工壁)を楽しんでいる写真を見つけたのです。「これは面白い」とそのクライミングウォールのメーカーを探して連絡を取り輸入を始めました。スポーツクライミングとかかわるようになったきっかけでした。その後、自分たちでも独自に作るようになり、クライミング専門ジムも運営するようになりました。

クライミングウォールはどんな構造ですか。

林:常翔啓光学園中高にできるような屋外ウォールの基本構造は、鉄骨にFRP(ガラス繊維強化プラスチック)の壁を取り付けたものです。室内用なら風雨にさらされないのでベニヤ板に砂の壁というものもあります。壁は傾斜していて中には斜面角度135度にもなる難しいものもあります。登る時に手足を掛けるホールド(突起物)は競技ごとに取り付けます。ルートセッターという専門家が難易度を考慮しながら設定するのです。

常翔啓光学園中高にできるクライミングウォール(完成イメージ)

■ ボルダリング壁=幅7.5m×高さ4.5m、リード壁の裏面に設置、2種類の角度のウォール
■ リード壁=幅8.0m×高さ15.2m、登攀(とうはん)距離17.0m、ホールド1200個
■ スピード壁=幅6.0m×高さ17.2m、登攀距離15.0m、2コースあり頂上にタイム測定器

ヨーロッパでは大人気

スポーツクライミングには3種目(下表参照)あり、競技人口も増えていますね。

林:国体の山岳競技の種目にもなっているボルダリング、リードの2種目と東京五輪で加わるスピードです。今ではクライミングジムが国内に350カ所以上あり、競技人口はどんどん増えています。高校生の大会も毎年開催されています。ボルダリングやリードをする人が多いですね。スピードはできる施設自体が国内に少なく、常翔啓光学園中高にできる壁は貴重です。競技発祥の地・ヨーロッパでは会場に2万人の観客が集まることもあるほどの人気競技です。

自然の岩場を登ることとの違いは何ですか。

林: 私が昔やっていたころの競技は、高さ40mの自然の岩場を登るのを競うものでした。自然の岩場の場合、事前に登ったことがある人がいることが多く不公平さが付いて回ります。地元の選手が有利ということにもなります。誰も登ったことがない岩場を常に探すことなど不可能です。天候にも左右されやすく、山の中に観客が集まりにくいという問題もありました。そうした問題をほとんどクリアしたのがスポーツクライミングで、自然の条件に左右されず安全に手軽に楽しめます。

求められるのは筋力だけでなくバランス感覚やルートを読む力も

スポーツクライミングの魅力は何ですか。

林:自分の力だけを頼りに登る面白さです。肉体改造することで上達します。例えば片腕懸垂ができるようになれば登れる壁も違ってきます。競技を除けば、子供から大人まで同じ壁で遊べるというのも大きな魅力です。自然の岩場と違ってホールドをたくさん付けられるので、同じ壁でもテープや色で指定されたホールドが違えば難易度も違います。レベルに合わせて楽しめ、課題をクリアする達成感も得られます。全国の幼稚園や保育園でもクライミングウォールを設置してきましたが、子供たちには大人気です。頭を使ってルートを読んでいるうちに、子供たちの集中力が養われるとも言われています。自然の岩場を相手にする時は命懸けですから、集中せざるを得ません。もともとそういう競技なのです。

CITY ROCK GYM大阪店(大阪市淀川区)で

スポーツクライミング上達のコツは何ですか。

林:筋力を付けるのは大事ですが、バランス感覚や力の配分を考えることも上達のカギです。初心者の男女カップルがジムに来て、男性は力があるので最初から頑張るのですが、途中で筋力が持たなくなります。逆に女性の方がバランス良くうまくできるということもあります。

東京オリンピックに向けて選手養成も課題ですね。

林:最近の日本選手権でそれまで無名の選手がいきなり優勝しました。まだまだ若い競技なので、誰でも代表になるチャンスがあります。今強いからといって3年後の東京オリンピックに出られるかどうかは分かりません。特にスピード種目は選手が少ないですから、常翔啓光学園中高のクライミングウォールで育った選手が活躍することもあり得ます。いろんな意味で可能性の大きな競技です。私も体験イベントやクライミングスクールで競技の啓蒙や選手の掘り起こしにお役に立てたらと思っています。

東京五輪 x 「Team常翔」