独創的なアイデアで「おもてなし箸置き台」を開発
東京オリンピックを「はし置き」で盛り上げたい

日本刀の置き台のような独特のフォルムのはし置きを発明し、特許を取得した大阪工大の卒業生がいます。元大手電機メーカー技術者の村瀬重雄さん。「おもてなし箸置き台」と名付け、「東京オリンピックの観戦に訪れる外国人をもてなしたい」と話す村瀬さんに、はし置きに込めた思いや日本の伝統の良さなどを伺いました。

PROFILE
「おもてなし箸置き台」発明者  村瀬 重雄  さん

1954年大阪工大機械工学科卒。日立造船を経て、松下電器産業(現パナソニック)でエネルギー分野や建築設備機器の開発に取り組み、要職を歴任。 定年退職後もグループ会社の特許関係部署で、多くの特許処理業務に携わる。「おもてなし箸置き台」を開発し、2014年3月に特許取得。建築設備士。大阪府出身。

「水平置き」のはし置きに込められたもてなしの心

ユニークな水平置きのはし置きを開発し、特許を取得されたそうですね。

自分のために初めて取得した特許証

村瀬

3年ほど前から何度か、家内に勧められて高槻市主催の陶芸教室に通いました。和食を引き立てる陶器に魅力を感じ、器やはし置きなどを作りました。そのころはちょうど東京オリンピックの誘致が現実的になっていた時期で、「はし置きで日本を訪れる外国人をもてなすことができれば」と考えるようになりました。

開発したはし置きは、日本刀の置き台と城壁がモチーフ。両手ではしを差し出すような形に特長があります。底面が曲線(円弧)を描いていて両端の先端部中央にくぼみがあり、食事前はそこではしを支えることができます。刀が置き台に水平に収まっている姿は凜としてすがすがしい。同じようにはしも両手で水平に置くことができれば、お客様に「どうぞお召し上がりください」というもてなしの気持ちが表現できると考えたのです。

私は大学卒業後、造船会社で日本初となる水中翼船の開発に従事した後、電機メーカーでエネルギー分野の開発に取り組んでいました。電機メーカー在職中は、技術者として800件近い特許、実用新案の申請を行い、そのうち500件が登録されていますが、自分のために特許を取得したのは初めてです。退職後にグループ会社の特許関係部署でアルバイトをした経験が生きましたね。私のはし置きは2013年7月に出願し、翌年3月に登録されました。簡単な構造でありながら、日本の伝統を生かして「おもてなしの心」を形にしました。置き方が安定してはしが転がりにくく、かつ食事中は円弧面に縦に置くことではしを取りやすいという機能性が特長。また、家内のアイデアで、置き台の面に爪楊枝を置くための溝を設けています。ガラスや金属、プラスチックなどでも一体成形できるデザインで、量産化も可能。旅館や料亭などで使ってもらえるよう、現在商品化を進めているところです。

技術者として長年活躍されてきましたが、独創的なアイデアを生む秘訣を教えてください。

「村瀬重雄の発明考案」
電機メーカー在職中にかかわった特許、実用新案の一端がまとめられている

村瀬

自由な発想を阻むものをなくすことを心掛けています。新しいアイデアを生み出すためには、「これはこうである」という思い込みの「認識の壁」や「常識の壁」を超えなくてはなりません。固定概念を捨てて発想の転換が必要です。縦のものを横にして使ったり、使う環境を変えてみたりといった具合に。孫を見ていると分かるのですが、子どもははし置きを見ると、裏返したり、縦に置いてみたり組み合わせてみたりして遊び始めます。これは「はし置きはこう使うもの」という固定概念がないからですよね。また、「感情の壁」を取り払うことも大切です。何度も繰り返し考えることでアイデアが浮かぶこともあるし、お風呂に入ってリラックスしているときなど「無」になっているときに突然ひらめくこともあるでしょう。

勤務していた電機メーカーは知的財産戦略を重視する会社だったので、仲間たちといろいろなアイデアを出し合い、議論を重ねたものです。技術開発のための社内研修で講師を務めた際は、「今まではこうだったが、ここをこう変えたらうまくいった」という実例をもとに、発想や独創力には限界がないことを力説しました。

先人たちの積み重ねを後生に伝える日本の伝統と技術
文化も工業生産も、思いは同じ

和食に陶芸、日本刀などすべて日本の文化です。日本の伝統、良さとはどのようなところにあるのでしょうか。

村瀬さんが発明した「おもてなし箸置き台」

村瀬

長い歴史の中で築き上げられてきた日本文化には、先人たちのいろいろな思いが込められています。例えば季節の食材を使う日本料理は、食材の保存技術や素材を生かす調理法、味付けなど独特の風土の中ではぐくまれたもの。さらに器や膳、卓上の一輪挿しなどで四季や花鳥風月を表現し、食べる人をもてなします。つまり和食も一つの技術。文化をはぐくんできた人々も、工業生産に携わってきた技術者も、根っこの思いは同じだと思うのです。先人による技術や経験の蓄積から生まれたものを、後進たちが研さんを積んでさらに発展させて後生に伝えていく。その勤勉さが日本の伝統であり、守り継承していくべきものだと思います。

ではこの日本人の勤勉さはどこから生まれたのでしょうか。私は日本人には礼節をわきまえた心や他者への思いやりなど、和の精神というべきものが備わっているのではないかと思うのです。はし置きも、神様へ捧げる料理の膳に「はし台」となる土器を置いて、はしの両端が膳に触れないようにしたことが起源と言われています。

2020年の東京オリンピックでは、たくさんの外国人が日本を訪れ、さまざまな日本の文化に触れる中でユネスコの無形文化遺産に登録された和食を味わうことになるでしょう。そこで日本の伝統を生かした「おもてなし箸置き台」を使ってもらい、歓迎の気持ちや和の心が伝わったら、こんなにうれしいことはありません。

村瀬さんのように間接的にオリンピック開催を応援できるわけですね。
開催を成功させるために、私たち国民はどんなことができると思われますか。

村瀬

まず一人ひとりが外国の方をもてなす気持ちを持つことです。そのためにも東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会には、国民みんなが盛り上がるような働き掛けをしてほしいのです。個人的には、母校・大阪工大のロボット技術やエネルギー技術、通信技術などを生かせる部分もあると考えています。大学が自分たちにできる役割を考え、学生に促すといった仕掛けも大切です。大学などから積極的に情報発信することで、同組織委員会や参加選手たちにも応援の気持ちが伝わると思います。

私の学生時代にも、実業界での経験が豊富な教授がたくさんおられ、理論と実学のバランスのとれた良い大学でした。産官学の各界で活躍している卒業生が多いので、裏方として東京オリンピック開催にかかわる人も多いのではないでしょうか。スタジアム整備などの準備段階から大会期間中の運営、メディア放送まで、さまざまな面で人材や社会的資源を必要とする一大イベントですからね。

1964年に開かれた前回の東京オリンピックの時は仕事が忙しく、じっくり観戦を楽しむ余裕はありませんでした。しかし「おもてなし箸置き台」を開発したこともあり、2020年の開催には全く違う思いを持っています。このはし置きを使う外国の方がどんな反応をされるのかを想像するとわくわくしますし、観戦も楽しみたいですね。

はし置きに続く「何か」を考えながら、2020年を心待ちにしています。

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