学校法人 常翔学園

学園広報誌「FLOW」ニューウェーブ

高層ビルも空気で浮揚 新発想の免震技術で
大震災級の揺れを1/100に

摂南大学 理工学部 機械工学科   安田 正志   教授

安田 正志 教授:摂南大学 理工学部 機械工学科

PROFILE
やすだ・まさし 1973年岡山大学理学部物理学科卒。同年特許機器に入社、2009年~2010年同社取締役副社長。この間1999年~2010年日本振動技術協会常任理事。2010年VEL社を設立し代表。2011年~2013年京都大学工学研究科研究員。2014年から現職。博士(工学)大阪大学。京都府出身。

街ごと浮かす「フロートシティ」構想も

開発した3次元免震装置2号機 開発した3次元免震装置2号機

昨年9月にNHK・BSテレビで放映された「NHKスペシャル  メガクライシス巨大危機Ⅱ第1集『都市直下地震』」は大きな反響を呼び、その後何度も再放送されています。これまで日本で想定されてこなかった超高層ビルに一撃で大ダメージを与える「長周期パルス」という新しいタイプの地震波の怖さを特集したものですが、その中でそうした地震波にも対応できる新技術として摂南大機械工学科の安田正志教授らのグループが開発した免震システムが紹介されました。建物を空気で浮かせて横揺れを遮断し縦揺れはばねで抑えるシステムで、東日本大震災級の横揺れや熊本地震級の縦揺れをほぼ遮断することが実験で確かめられました。今月11日で東日本大震災から7年。南海トラフ巨大地震も懸念されています。大地震に挑む画期的な新免震システムについて安田教授に聞きました。

微細振動のスペシャリストが免震に挑戦

私は大学を卒業して仲間とやってきたベンチャー企業で、長年にわたり微細振動を抑制する技術開発に携わってきました。精密機器を扱う現場ではほんのわずかな振動も障害になります。そうした微細振動を除く世界最高性能の「アクティブ除振装置」を1988年に開発しました。これがその後、電子顕微鏡や検査装置、半導体や液晶の露光装置に世界中で採用され、2000年には国立天文台(東京都三鷹市)の重力波干渉装置の除振にも成功しました。この装置は現在も精密装置に不可欠なものとして採用が続いてい ます。

そうした小さな振動を研究してきた私が、地震という大きな振動に関心を持つようになった最初のきっかけは1995年の阪神淡路大震災でした。大阪にいて明け方に強い揺れで起こされ、すごい雨音だと窓を開けると揚水管が破裂して噴水のようになっていました。神戸に行くと1階がなくなってぺしゃんこの建物をいくつも見て、「自分に何かできないか」と考え始めました。1999年の台湾集集大地震では現地視察し、中学校のグラウンドを横切る3m近い断層の大きさに言葉を失いました。こうした経験があり、2010年に会社を退職後、免震に本格的に取り組み始めたのです。

「固有周期を消せばいい」の発想

NHKスペシャルで紹介された長周期パルスなど、近年これまでにない強さの地震が頻発するようになってより高性能な免震技術への期待が高まっています。現在の免震装置はそのほとんどが、横揺れ(水平振動)にのみ対応し、縦揺れ(鉛直振動)には無防備な2次元免震です。縦揺れにも対応する3次元免震装置は、特に原子力発電所などで求められるようになっています。私たちのグループは縦揺れにも対応し、横揺れも激減させる新たな3次元免震システムの開発を目指すプロジェクトを2015年に立ち上げました。開発グループは国の防災科学技術研究所、日立製作所と私の3者です。防災科学技術研究所の大規模震動破壊実験施設「E-ディフェンス※」(兵庫県三木市)で、免震装置の実験を繰り返しました。

ある建物が1回揺れる時間は決まっていて固有周期と言い、高い建物ほど長くなります(10階建てで0.6~0.8秒程度)。建物が固有周期(固有振動数)を持つ限り、地震のいずれかの周期の揺れに共振します。「ならばその固有周期を消してしまえばどんな地震波にも対応できるのでは」というのが私たちのプロジェクトの発想です。

免震ゴムをはじめとして従来の免震技術は、一般的に揺れの強い短い周期(1秒以下)の共振を避けるために建物の固有周期を長くするものです。それなりの効果はあるのですが、長周期地震には万全でなく、しかも縦揺れには無防備でした。その2つの問題を解決する私たちの開発した3次元免震装置は、横揺れを免震する空気浮揚機構と、縦揺れを免震するばね機構からなっています。

開発した3次元免震装置の模式図。左右に斜めの負ばね、真ん中に正ばねの役割の空気ダンパ、タンク(右下)から圧縮空気(水色)が供給される

開発した3次元免震装置の模式図。左右に斜めの負ばね、真ん中に正ばねの役割の空気ダンパ、タンク(右下)から圧縮空気(水色)が供給される

天板が空中に止まっている!

免震実験のグラフ。上は横揺れ、下は縦揺れの実験で、ともに左から熊本地震の2つの揺れ、東日本大震災の揺れ、阪神淡路大震災の揺れ(青)がどこまで軽減したか分かる(オレンジ)
免震実験のグラフ。上は横揺れ、下は縦揺れの実験で、ともに左から熊本地震の2つの揺れ、東日本大震災の揺れ、阪神淡路大震災の揺れ(青)がどこまで軽減したか分かる(オレンジ)

空気の力は驚くべきもので、1気圧の空気が1㎡で10㌧の重さを支えることができます。建物を圧縮空気で浮揚させる先行研究はあったのですが、地面と建物の間にできる空気層が2~3㎝と厚く、空気を閉じ込める膜を使っていました。私たちは空気層を50 ㍈(20分の1㍉)と極薄にし、しかも膜を取ってしまったのです。極薄の空気層なら膜がなくても浮揚させられるだけでなく、空気層に厚みがなく堅いため共振を生む固有周期もできないということに気付いたのです。膜がないと空気は逃げますが、抵抗があるために流れはゆっくりで、空気は供給され続けるので問題ありません。精密加工の現場では、摩擦を減らすためにもっと極薄(数㍈)の空気層で浮揚させるエアベアリングが使われており、それを大きな建物にも適用した形です。地震を感知すると0.1秒くらいで圧縮空気を供給し建物を浮かすことも可能です。浮いた状態ならどんな地震波にもほとんど影響を受けません。

これまでの免震装置ではほとんど見逃されてきた縦揺れの抑制は、負剛性リンクばねの開発で実現しました。斜めの角度に調整したばね力が作る負のばねを従来の正ばねと並列して用いることで、縦揺れの固有周期をそれまで世界で実現できていた最長の2秒(固有振動数0.5ヘルツ)よりはるかに長い5秒(同0.2ヘルツ)にすることに1号機で成功したのです。固有周期5秒を正ばねだけで実現しようとすると15.5mもたわむばねが必要となって全く実用になり ません。それが数十㎝の高さの装置でできたのが負ばねの効果です。

その免震装置の試作機の実験は、E- ディフェンスの加振装置で実際の過去の大地震(阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震)を再現した3次元地震波で行いました。NHKスペシャルでも紹介されましたが、免震装置の天板が空中に止まっているように見えました。揺れをほぼ遮断できたのです。開発した私たち自身が驚く結果で「これならどんな地震にも勝てる!」と興奮しました。東日本大震災と同じ横揺れを100分の1、熊本地震の縦揺れを15分の1にすることが確認できました。従来の免震装置ではせいぜい横揺れは8分の1、縦揺れは3分の1にしか軽減できていません。それだけ高い免震性能が検証されたのです。

建築基準法改正も必要

今後は装置を改良し約5年で1000㌧クラスのビルをE- ディフェンスの加振装置上で浮かせることを目指しています。更に私が名付けたのですが、最終的には街の一角を丸ごと浮かす「フロートシティ」構想を考えています。既に神奈川県相模原市では10棟の団地全体を免震ゴムで支えた共通免震床板に載せることも実現しており、空気で街を浮かせることも実現可能な構想だと思っています。ただそのためにはまだまだ多くの課題があります。まず建設会社にも参加してもらうプロジェクト組織を立ち上げる必要があり、その準備に入っています。更に建物が地面に固定されていることを前提にしている現在の建築基準法を改正するなどの課題もあります。それだけ建築の固定観念を打ち破るような構想でもあるのです。

※E-ディフェンス(E-Defense)=阪神淡路大震災を教訓に2005年に兵庫県三木市にできた国立研究開発法人防災科学技術研究所が所管する大型構造物の震動破壊実験を行う大規模実験施設。"E"はEarth(地球)を表す。戸建住宅のほか、鉄筋コンクリート造6階建て程度の建物の震動破壊実験を行うことができる世界最大の耐震実験施設。

摂南大の実験室で小型の3次元免震装置と
摂南大の実験室で小型の3次元免震装置と

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