学園広報誌「FLOW」ニューウェーブ

家庭内電力利用の過去現在未来

パワーエレクトロニクスを応用したスマートハウスが
快適なエネルギー環境を実現

大阪工業大学 工学部電気電子システム工学科   大森 英樹   教授

大森 英樹 教授:大阪工業大学 工学部電気電子システム工学科

PROFILE
1979年神戸大大学院工学研究科電子工学専攻修了。パナソニック、スマートエナジー研究所を経て2011年から現職。2002年には研究功績者表彰 文部科学大臣賞を受賞。電気学会家電民生技術委員長。工学博士。兵庫県出身。

東日本大震災以降、節電の重要性が高まり、家庭でのエネルギー利用の在り方が問われています。次世代に求められるのは、ITを駆使して家庭内のエネルギーシステムを連携させ、需給バランスを管理してエネルギーを有効利用するスマートハウスです。家電メーカーでの勤務経験を持つ大森英樹教授は、パワーエレクトロニクスをコア技術としてエネルギー利用の革新を図る研究を展開。安全で快適なエネルギー環境の実現に尽力しています。

地球環境問題を背景に発達した家電製品が生活様式を革新

日本では1950~60年代にかけて、洗濯機や冷蔵庫、炊飯器などの主要な家電製品の製造販売が始まりました。高度経済成長とともに普及拡大していった家電は年々高機能・ハイパワー化が進み、家庭生活が格段に変化しています。暖房・給湯などガスや石油で賄っていた分野でも電力が一般的になり、生活の利便性や安全性が向上。少ないエネルギーを有効利用する技術が求められるようになりました。

私は1979年から32年間家電メーカーに勤務し、インバータとパワー半導体を応用した家電パワーエレクトロニクス技術の開発に携わりました。インバータは、さまざまな周波数の電力を極めて高い効率で出力できる半導体電力変換装置です。電力は熱や光、動力などのエネルギーに変換されて利用するのですが、従来は50~60Hzの商用周波数に限られていた電力の周波数を、ヒーターやモーターなど負荷に応じて最適化し、省エネルギー(省エネ)、制御性の向上といった新たな効果を持つエネルギーに変えるのです。一例がIH調理器で、高周波の電流を流すことによって電磁誘導で鍋に電流が流れ、熱を発生させることはよく知られています。1990年代後半からは、地球環境問題を背景に省エネ家電が台頭。照明器具やエアコンなど電力消費比率の高い機器のインバータ化が進んだほか、ガスよりも燃費のよいヒートポンプ給湯器が出現し、オール電化住宅への転換も加速しました。一方のパワー半導体は、パソコンのCPUの演算や増幅など信号処理の働きをするものではなく、電力を制御・供給できる半導体です。信号処理と異なり、電力制御は効率が1%落ちても膨大なエネルギーロスを生じてしまうので、極めて高い効率で電力の周波数などを変えることができるパワー半導体は、パワーエレクトロニクス応用の原動力となりました。2010年以降、ワイドバンドギャップという新しい素材の、これまでより1桁も損失が小さいパワー半導体が実用化の黎明(れいめい)期にあり、パワーエレクトロニクス応用を大幅に拡大するエポックとして注目されています。

「創エネ」、蓄電と電力マネジメント機能を持つ次世代住宅スマートハウス

電気自動車にワイヤレス充電(機械工学科自動車研究室と共同)

電気自動車にワイヤレス充電
(機械工学科自動車研究室と共同)

東日本大震災が発生する以前は、エネルギー消費の総量を削減する省エネが推奨されていました。生活が豊かになったために一戸あたりで所有する家電が大容量化し台数も増えたため、個々の省エネ性能は上がっても家庭でのエネルギー消費は上昇してきました。一方、震災後は原子力発電所の稼働停止などで電力供給源が不足しているため、省エネだけでなく時間帯に応じて電力使用のピークをコントロールする節電が必須になってきました。太陽光発電の導入も2012年からスタートしたFIT(再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度)で推奨されてきましたが、天候に左右される自然エネルギーをそのまま大量導入すると、電力系統が不安定になることや大停電のリスクなどが懸念されます。さらに、買い取り費用負担の問題もあり、今年6月に閣議決定された成長戦略にあるように制度的見直しが求められています。将来のエネルギー不足を解決するために必要なのは、節電に悩むことなく快適に使え、電力系統にも優しいエネルギー環境なのです。

研究室では、パワーエレクトロニクスを応用して家電機器で消費される電力や「創エネ(創エネルギー)」設備で発電される電力の流れを制御し、家全体のエネルギーを有効利用する次世代スマートハウスについて研究しています。スマートハウスの特長は2つ。1つは家庭で使うエネルギーを節約するため家庭内電力機器を管理するHEMS(ホームエネルギーマネジメントシステム)を導入していること。もう1つは、太陽光や燃料電池など創エネ機器の発電電力ピークと家電機器の消費電力ピークを抑える蓄電システムを備えていることです。HEMSを導入すると、家庭内の電気の使用状況がモニターで「見える化」することができ、意識付けによる省エネが進みます。さらに、エアコンや照明器具などの使い過ぎを自動的にセーブしたり、使う時間帯を管理して電力消費ピークを抑える節電効果などが期待できますが、生活の快適性と両立させる方法がこれからの研究課題です。一方、家庭における電力の使用状況を調査すると、家電製品は短い時間で大きな電力を使うものが多いため、1日の平均消費電力に対してピーク消費電力はその10~30倍に達します。発電所の規模はピーク電力をカバーする大きさが必要ですので、設備容量が不足している今、節電が要求されているわけですが、加えて変動の幅が大きいと稼働率が低くなります。そのため消費電力の変動を改善する負荷の平準化が長年の課題となっていました。そこでスマートハウスの蓄電システムによって夜間や家電製品をあまり使っていない時間帯の余剰電力を蓄電し、消費電力のピークに対して給電するピークシフトで節電ができるようになれば、原子力発電所からの送電停止による電力供給能力の不足もカバーできますし、稼働率が上がって電力コストも下がります。快適さを保ちながら節電を実現できるのです。さらに、太陽光発電が過剰に発電しているときは蓄電し、日照の少ないときに給電して発電を平準化することができるようになれば、危惧される大量導入による電力系統の揺動を避けて、太陽光発電を原子力発電に代わって安定的に電力を供給するベースロード電源に近付けることが可能になります。

官民一体で節電意識を促し、理想とするシステムの実現へ

研究室ではワイヤレスで電気自動車を充電するシステムも研究しており、これをスマートハウスに組み込むことを検討しています。電気自動車を家庭内配電に非接触でつなぎ、蓄電機器として利用するのです。電気自動車は既に製品化されていますが、充電インフラの整備が進んでいないこともあり普及にはまだ課題がある状況です。我々が目指すワイヤレス充電は、高周波インバータにより無線で大きな電力を飛ばし、家庭のカーポートに止めただけで自動的に充電させるもの。ケーブル接続の手間が掛からず、高齢の方を含めた幅広い家庭で手軽に充電できます。さらに、家庭から電気自動車に電力を送るだけでなく、電気自動車から家庭へも双方向で送れるようにして、電気自動車とスマートハウスを無線で一体化することができれば、スマートハウスの高価な蓄電コストも削減できます。

このように、再生可能エネルギーの大規模導入や原子力発電所の稼働停止に対して、次世代スマートハウスの実現は有力な手掛かりといえます。現在市場で試行されているスマートハウスはまだ十分な機能を果たせていません。理想とするシステムが実用化されていくためには、節電や発電平準化の努力を評価する制度やペナルティ制度の整備によって国民の意識を促し、実践に結び付けていくことが重要です。今年4月に施行された改正省エネ法では、電気需要の多い季節・時間帯の省エネを他の時間帯の1.3倍で評価することを明文化しました。2016年以降の電力自由化を背景に、スマートハウスの付加価値はさらに高まっていくものと考えられます。我々も一層研究に尽力し、未来の快適なエネルギー環境の実現に貢献することを目指していきます。

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