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災害に強い安全な街づくりの実現を目指して

大阪工業大学 工学部 都市デザイン工学科   日置 和昭   准教授

日置 和昭 准教授:大阪工業大学 工学部 都市デザイン工学科

PROFILE
1994年大阪工大大学院工学研究科修士課程修了。不動建設ジオ・エンジニアリング事業本部技術統轄部を経て、2007年大阪工大都市デザイン工学科講師。2012年から現職。博士(工学)。三重県出身。

気象データのシミュレーション分析により、地盤災害とその予測・対策を追究

紀伊半島豪雨による深層崩壊発生現場(和歌山県田辺市)

紀伊半島豪雨による深層崩壊発生現場
(和歌山県田辺市)

東日本大震災での埋め立て地盤の液状化や放射能汚染土壌・地下水問題、紀伊半島豪雨での深層崩壊・土砂ダムなど、さまざまな地盤災害が続き、社会に深刻な被害を与えています。地盤防災工学は、被災地の復旧・復興だけでなく、これから起こり得る南海トラフ巨大地震などの防災・減災に向けて、知見の活用が期待される学問分野です。大阪工大都市デザイン工学科の日置准教授に、研究内容や社会的意義などについて聞きました。

豪雨時に紀伊山地を襲う深層崩壊の発生タイミングを予測

工学実感フェアの実験風景

工学実感フェアの実験風景

本学を卒業してから長らく建設会社の研究室に勤務し、液状化対策や土壌・地下水汚染対策の研究・設計・技術開発に携わっていました。その経験を生かし、現在も一貫して地盤防災に関する研究を手掛けています。

注力している研究の1つが豪雨時に紀伊山地で起きる深層崩壊の危険度予測です。山やがけの斜面崩壊には、すべり面(地中ですべり始める境界面。大まかに2種類あり)が表層部にある表層崩壊と、これが岩盤などの深層部で発生する深層崩壊があります。私が対象にしているのは後者。2年前に紀伊山地で深刻な土砂災害が発生したのを覚えている方も多いでしょう。深層崩壊が多発し(1889年の大水害以来)、人々の暮らしに甚大な被害を与えました。この発生を早期に予測し、深層崩壊から尊い命や財産を守ることが研究の目的です。

まず表層崩壊と深層崩壊の発生条件を比較するため、崩壊発生現場付近のレーダー・アメダス解析雨量をオリジナルの計算モデルに入力し、その結果を分析してみました。すると、2つの指標を同時に超えた時に深層崩壊が発生していることが分かりました。そのシミュレーションは次のようなもので、表層部・深層部の地盤を3段のタンクに置き換え、そのタンクの中にたまった水が土壌中の水分量と仮定。深層崩壊と一番関連が深そうなタンクの貯留高と累積貯留高を解析したわけですが、解析値が前者:300㎜、後者:2万7000㎜を同時に超えた時が最も危険な状況と判明しました。2年前の深層崩壊では1時間あたり10㎜~20㎜の雨がほぼ3日間降り続き、降雨量は累積800㎜に達しました。同じ計算モデルを使って深層崩壊が発生しやすい降雨パターンを調べてみると、累積降雨量が同じ800㎜であっても、1時間あたり40㎜の雨が20時間続くより、10㎜の雨が80時間続く方が深層崩壊は発生しやすいことが分かりました。これは後者の方が深層部(岩盤内)への浸透量が多くなるためです。その結果、岩盤内に地下水が集中することで、岩盤を支える力が弱くなり、深層崩壊が発生してしまうというわけです。

現在、前述の指標とアメダスデータを使って紀伊山地全域のモニタリングを継続して行っており、深層崩壊の危険度が高まった時には自治体に連絡できる仕組みをつくりたいと考えています。

消費者の安心・快適な住宅選びをサポートできる情報提供を

小規模建築物(戸建て住宅)の液状化被害予測も研究テーマの1つです。阪神・淡路大震災の時は神戸市のポートアイランドや六甲アイランドなどの人工島、東日本大震災では千葉県浦安市などの若年埋め立て地で液状化の被害が顕著でした。比較的大規模な建築構造物を建てる時は液状化の判定指針があり、必要に応じて液状化対策を施すのですが、戸建て住宅の場合は詳細な地盤調査を行うことはまれで、地盤の液状化判定や品質評価が実施されていないケースが大半。それでは住民の安心・快適な暮らしを保障することができません。

大阪市のホームページによると、上町台地西側の西大阪地域と東大阪地域にあたる都島区では地震時に液状化の発生が予測されています。しかし、両地域では最も液状化が発生しやすいとされる沖積砂層の堆積環境が異なることから、実際の挙動は予測と異なることも想定されます。

土は粒度の大きさによって、れき、砂、シルト、粘土に分類することができます。現行の液状化判定法では、細粒分(シルト分と粘土分)を多く含んでいる地盤が液状化しにくいという考えに基づいて地盤の液状化抵抗を計算しますが、実際は粘り気のある粘土を多く含んでいる地盤が液状化しにくいのであって、現行の液状化判定結果をそのままうのみにすることには若干の抵抗を感じています。本研究では、沖積砂層の粘土分含有量とその性質に着目。現在、それらを地盤情報データベースにより調査研究中です。

これからは、さらに宅地の品質説明と品質保証が重要になってきます。戸建て住宅の購入には地盤の基礎知識も必要な時代。消費者が地盤の品質を加味して住宅を選定できるよう、地域地盤の有益な情報をどんどん発信していくつもりです。地盤の品質評価については、大手ハウスメーカーと相談しながら研究を進めています。

社会に出る準備を怠ることなく、成長してほしい

現在、研究は解析が中心になっています。ただ、ゼミ生たちには地盤災害の怖さを実感してほしいと思い、今年11月末には奈良県十津川村へのゼミ旅行を計画しています。現地は2年前の大水害のつめ跡が残り、車道から見えるあちこちの山で発生した深層崩壊もほぼそのままの状態で残っています。同村を訪れることで、ゼミ生たちも研究の意義を感じ取ってくれるのではないかと期待しています。

学生たちの卒業後の進路は、ゼネコンや地盤改良の専業社、公務員などです。就職後、専攻につながる分野に就職したなら、そこでさらなる成長を期待したいですね。私は土木学会や地盤工学会などさまざまな学会で研究活動を行っており、当研究室の大学院生たちには就職後も学会へ積極的に参加することを奨励しています。いつか彼らが企業を代表して研究発表会・研究委員会に参加できるレベルまで成長し、そういった場で教え子たちと再会できる日を夢見ています。その第1ステップとして、今年11月に当研究室OBを中心とした「地盤防災研究会」を発足させる予定です。

学部生たちには、社会人になる前の1年間はとても大切な時期であることを説いています。私自身、民間企業に長く在籍していたので、「こういうケースは企業ではこう評価される」と、社会人としての対応の仕方を身につけられるような指導に努めています。何より大事なのは、誰が聞いても分かりやすい説明を徹底すること。専門的な内容の話を数式に頼るのではなく、自分が説明した資料を使って、相手も上司などにそのまま説明できるくらいの分かりやすい資料作りを心掛けてほしいのです。

地盤防災工学は、さまざまな地盤災害から尊い命や財産を守るうえで根幹をなす学問の1つ。学生たちには自身が学んだことを安心・安全な街づくりや住宅建築に役立てて、社会に貢献するという高い志を常に持ち続けてほしいですね。

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