秋村 敬三さん

秋村泰平堂 代表取締役

伝統のちょうちんを守るために新風

Graduate Voice 活躍する卒業生

FLOW No.75

Profile
あきむら・けいぞう 2002年摂南大学経営工学科卒。同年東京の印刷機械メーカーのハイデルベルグ・ジャパンに入社。2004年家業を継ぐため大阪に戻り、2008年から秋村泰平堂代表取締役に。大阪府出身。
セレクトショップのビームスが昨年4月、東京・新宿に日本の魅力を発信しようとオープンした「ビームス ジャパン」の新店舗のファサード(正面全体)を飾っている63個のちょうちん。斬新な企画が評判を呼びましたが、そのちょうちんを企画・製造したのは大阪で創業96年の秋村泰平堂(大阪市中央区)の4代目、秋村敬三さんです。秋村さんは摂南大経営工学科の卒業生で、その新しい経営センスで伝統ある業界に新風を吹き込んでいます。

もともと大阪の生國魂神社近くで番傘を扱っていた商家でしたが、同じように竹ひごに紙を貼るちょうちん作りに大正10年(1921年)から変わっていきました。木型組みから、竹ひごを巻き、紙を貼り、文字を書き、上下の枠を取り付ける、という手作業での全工程を一貫生産してきました。バブル経済時代までは右肩上がりだった商売が、その後は神社仏閣の祭りを支える企業のコスト削減も影響し需要が減少。「斜陽産業だ」と言われる中、いったん東京の印刷機械メーカーに就職していた秋村さんが、3代目の父の要請に応えて大阪に戻ってきたのは26歳の時でした。

ビームス新宿店のファサードを飾る63個のちょうちん

「家に戻るとすべてのものがアナログで、時代の変化に対応できていませんでした」と振り返ります。ただやり方を一気に変えることはせず、父と一緒に仕事をして伝統的な商売を受け継ぎながら徐々に変えていくことを選びました。そして4年後、正式に4代目に就任。「ちょうちんを伝統工芸品にしてはダメで、あくまでも生活の身近にあり続けるものであるべきだ」との信念から、まず「ちょうちんを知ってもらう」ためのさまざまな新しい試みを始めたのです。デザイナーと一緒に新しい形のインテリアとしてのちょうちんを考案したり、エンターテインメントとして金魚を幻想的に見せるイベント「アートアクアリウム」とコラボしたりもしました。そんな中、東京の展示会に参加した一昨年、ビームスの関係者に声を掛けられました。「新しい形のちょうちんでなく伝統のちょうちんで新しい店を飾ってほしい」。意外な申し出でしたが、伝統的なちょうちんを残したい秋村さんにとっては、伝統の力を再確認する出来事でした。

伝統を守るためのチャレンジは止まりません。「次は、結婚式などの晴れの日をちょうちんで飾るという新しい提案に取り組んでいます」。家紋入れはお手の物で、花婿花嫁両家の家紋の入ったちょうちんで式を盛り上げようという狙いです。また職人の高齢化で技術が絶えることを防ぐために、一人でちょうちん作りの全工程を担うのではなく、工程を細分化して複数で分担する仕組み作りも始めています。「大学の経営工学の授業で『箱作り』というのがあって、単純な箱も一人で作るより、グループで分担した方がはるかに早く仕上がりました。大学の授業が今になって役に立っています」と笑います。

大学時代は一人で北海道から大阪まで自転車旅行をしたり、夏は海水浴場のライフガード、冬はスキー場のインストラクターなど1年中体を動かしていました。サッカーや旅行をするサークルも立ち上げ、今も仲の良い多くの仲間を得ました。そんな行動派・秋 村さんの後輩たちへのアドバイスは「何事も主体的に動け」です。「主体的に動けば周りの景色が変わります。受け身なら受け身の情報しか得られません」と話します。伝統産業に新風を吹き込む経営者としての教訓でもあります。

4年前に受け入れた新卒の社員は、会社の大きな戦力に育っています。「家業から企業へ」を目標にする秋村さんには、若い人材の発想と伝統の強みが経営の両輪になっています。

所狭しとちょうちんやその材料が並ぶ作業場で

活躍する卒業生