常に自分らしく小鼓を通じて日本の伝統美を伝えたい

能楽師 幸流小鼓方   曽和 尚靖   さん

曽和 尚靖 さん:能楽師 幸流小鼓方

PROFILE
91年3月啓光学園高(現常翔啓光学園高)卒。6歳から小鼓の稽古を始め、人間国宝の祖父・博朗さん、父・正博さんに師事。12年度京都府文化賞奨励賞などを受賞。能楽の普及活動にも尽力し、京都能楽囃子方同明会主催の「囃子堂」では、企画、構成でも多彩な才能を発揮している。京都府出身。

世界無形遺産に認定された能楽は、世界に誇る日本の伝統芸術です。曽和尚靖さんは代々、鼓の名手の家系に生まれ、伝統を受け継ぐプリンスとして注目されてきた人。演者として活躍するかたわら、各地でワークショップを開き、能楽の普及に努めています。

能楽は舞と音楽(謡・囃子)によって成り立つ伝統芸術です。笛、小鼓、大鼓、太鼓の4種類で演奏する囃子には独特のリズムがあり、日々、稽古を重ねます。曽和さんは「芸事を習いはじめると早く上達する」といわれる6歳の6月6日から、稽古を開始。人間国宝の祖父・博朗さん、父・正博さんに師事してきました。一つひとつの演目が自分の中にメロディーとして入っていくよう覚えたそうです。決して楽ではありませんでしたが、小鼓の音を聞き、触れて育った曽和さんにとっては当たり前の日常。稽古が嫌になることはなかったと言います。

母の勧めで啓光学園中学に入学し、毎日1時間半以上かけて通学しました。クラスの友人たちは小鼓の稽古のことを知っているため、遊びたい時は京都の曽和邸に集結。「私が稽古で抜けても我が家をサロンのようにして、みんなくつろいでいましたね」

高校卒業後はそのまま能の世界へ。「1校だけ大学を受験したけれどだめで、担任の笠原先生にもう受験はしませんと申し上げたら、君はそれでいい、少しでも早く小鼓の世界(能楽・家業)に専念しなさいと言われたんです。お陰で迷うことなく人生を決めることができました」。純粋に小鼓が好きでしたが、祖父や父の背中を見ている間に囃子方として目覚め、「舞台をきっちり務めよう」と舞台人としての意識も向上していきました。

囃子方には指揮者がおらず、演者から打撃面が見えないのは小鼓だけ。皮と胴の間に張られた紐の締め具合を手で調節しながら、多種多様な音を発していきます。演奏にあたって曽和さんが大事にしているのは、すべてが調和した美しさです。「見た目もぴしっと美しくすれば、音も美しくなる」と言葉に力を込めます。「舞台では常に見られている立場ですから、身だしなみや姿勢を正さなくてはいけません。これは普段の生活においても言えることです。今の若者も礼儀作法や紳士的な振る舞いを忘れず、日本の良さを認識してほしい」。そうしたことも、後輩たちには大切にしてほしいと訴えます。

近年は伝統文化を担う人たちで地球の未来を考える「DO YOU KYOTO? ネットワーク」の活動にも参加しています。皮でできている「皷」は乾燥に弱く繊細な楽器。曽和さんは湿度に対する感覚が研ぎ澄まされており、その日の天候によって「今日はこの皷ならいい音が出る」と判断できるほどです。「我々小鼓方だけでなく、寺の庭作りや漆細工、生け花でも、四季を愛でて自然へ感謝する気持ちが大事です。花鳥風月とともに生きる伝統文化を守り伝えるには、自然と共生する社会をつくらなくてはならないということを、一人ひとりが自分の世界観から発信していこうとしています」

「小鼓は体の一部」と言い切る曽和さん。日本各地で後継者を育成する教室を開いているほか、話し上手なキャラクターを生かして能や古典芸能を身近に感じてもらうためのワークショップを開催しています。「小鼓からいろいろなことを感じて、たくさんの人たちとつながることができます。和を知りたい方が小鼓に触れられる場を増やし、能楽の魅力をアピールしていきたいですね」。真っすぐ前を見つめ、未来を見据える曽和さんは今日も凛とした音を鳴り響かせます。

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