透析患者の合併症を大幅改善 海外の学会発表で最優秀の評価

名古屋徳洲会総合病院 臨床工学技士   村上 堅太   さん

村上 堅太 さん:名古屋徳洲会総合病院 臨床工学技士

PROFILE
2008年3月広島国際大学臨床工学科卒。同年4月愛知県春日井市の名古屋徳洲会総合病院に入職。愛知県出身。

医師ばかりの海外の学会にたった一人の臨床工学技士として乗り込み、英語で行った発表が最優秀に選ばれた村上堅太さんはまだ29歳です。臨床工学技士としての仕事は広島国際大の学生時代には想像し得なかった忙しさですが、「仕事がどんどん面白くなっています」と今は総合病院のチーム医療の一翼を担うことに大きなやりがいを感じています。

4月28日~5月1日、韓国・ソウルで開かれた「アジア太平洋経カテーテル心臓血管治療学会議(TCTAP)」で発表したのは、心臓カテーテル検査後に血液透析を受ける患者に出る低血圧などの合併症の改善策についてでした。「心臓カテーテル検査後の透析でなぜ多くの患者さんに合併症の症状が見られるのかが疑問でした」。2年間ずっと考え続け、ひらめいたのは自宅で風呂に入っていた時。「検査時に注入する造影剤が原因では?」。造影剤の浸透圧は生理食塩水と比べて3倍高いため、透析によって短時間で急激に造影剤が抜けることが血圧低下につながっているのではと考えました。そこで、①検査時の造影剤の量を減らす②透析の際に意図的に造影剤の抜ける効率を悪くするという対策を考えました。結果は目覚ましく、過去の病院内のデータと比較して合併症を発症する割合が40%から10%にまで減ったのです。

一般的に若い臨床工学技士の提案を病院がすぐに取り合ってくれるケースは多くはありません。それが実施できたのは普段からの病院内での良好な人間関係があったからです。「医師たちとは常に気付いたことをディスカッションして、『村上さんがそう言うならやってみよう』という信頼関係を築いてきました」

学会発表も病院がバックアップしてくれました。経験がなかった海外での英語の発表のため、副院長に原稿を確認してもらったり、病院内で医師らを前に発表の予行演習もさせてもらいました。最優秀という評価をいただいたのも多くの人の支えがあったからだと思います。また、今回の発表の反響は大きく、「ぜひ英語の論文にしてほしい」と学会出席者たちからも求められました。現在、海外の学会誌への論文提出に向けて準備を進めています。

名古屋徳洲会総合病院では現在16人の臨床工学技士が勤務しています。心臓カテーテルの責任者を任されていますが、日々の仕事は、人工心肺、透析、内視鏡、ペースメーカーなど各部門を満遍なくこなします。「総合病院ならではで、いろんな仕事を経験できる楽しさがあります」。病院からの信頼の証しが緊急呼び出しの多さです。深夜も含め月に10回に及ぶこともあり、「プライベートな時間が取れない悩みもありますが、それよりもこの仕事が好きなんだと実感しています」。信頼され、評価されることでどんどんやりがいが大きくなっています。「職場の新人技士には日々の疑問をまあいいか、とスルーしないように言います。医師から言われたことに何でも『はい』ではマンネリ化して成長できません」。研究課題を積極的に探すようにアドバイスしています。

「人生で戻りたい時期はと聞かれたら大学4年の時」と思うくらい広島での生活は充実していました。副キャプテンとしてバレーボールに打ち込み、国家試験の受験勉強に明け暮れる日々を過ごした「第二の故郷」でもあります。そんな母校の後輩へ伝えたいのは「人と話すことの大切さです。臨床工学技士は機械ばかりに目が行きがちですが、その先には患者さんがいることを忘れないでほしい。いつも患者さんと同じ目線で話す看護師たちに教えられました」。学生の時は自分には役に立たないと思っていた授業もありましたが、今ではどんな科目もマイナスにはならなかったと感じています。「仕事は患者さん、医師、看護師、薬剤師や先輩、後輩といった多様な人間関係で成り立っています。学んだことはどこかで役に立ちます」。チーム医療の現場で得た大きな教訓です。

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